ココロCOLORS

むっくりっく

色無き世界へようこそ!

 頭に白いものが目立ち始め、壮年を越えたばかりくらいの男が一人、ある部屋の前の長椅子に座っていた。

 部屋からは女性の苦痛の声や、いくつもの励ますような声が漏れ聞こえる。それを聞く男の表情はかたく、彼は腕組をして落ち着きなく貧乏ゆすりをしている。

 しばらくすると、薄い扉のむこうから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

「生まれたか……」

 安堵のため息をつき、そうポツリと呟いた男は座っていた長椅子から立ち上がった。

 そして扉の前で一旦立ち止まる。閉まったままの扉が入室禁止を体現している。

 ほどなくして扉が開くと、医師や看護師達が汗を拭いながら出てきた。その顔はどれもにこやかで、設備が不十分だったものの、上手くいったことがうかがい知れた。

 男が中に入ると、彼の娘夫婦が笑顔で迎えてくれ、娘の手の中には小さな彼の孫が抱かれていた。

 彼はまず二人に労いと祝福の言葉を伝えると、そっと孫を抱き上げ大きな窓の下まで歩いていく。窓からは白い太陽の輝きが降り注いでいて、赤ん坊の顔をはっきりと照らした。

(俺に似てるじゃないか)

 心の中で早速ジジ馬鹿を炸裂させた男は、このときやっと優しい笑みを浮かべた。

 すると赤ん坊はその小さな目を開き、まだ見えてはいないはずなのだが、窓から見える空をじっと見上げている。

 その様子を見ていた男は、残念そうな、とても悔しそうな声で呟く。

「一日、一日早く生まれてくれば……」

 無駄なこととは分かっていた。それでも男はを睨み付けずにはいられなかった。

 

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