クリス

 とある国のエリス教会。外は陽が傾き、建物の中は薄暗くなりかけている。教会の祭壇を照らすロウソクの淡い黄色い明かりがゆらめく。

 祭壇に向かい手を組んで祈る少年がひとり。ロウソクの明かりが彼を照らし、背後に長い影が揺れている。

 歳は十代になったばかりだろうか。髪はくすんだ金髪、薄い青色の瞳にロウソクの明かりが映りこんでいる。

「エリス様、お願いします。どうかあのお姉さんと友達になれますように。」

 彼には憧れの存在がいる。この地方を治める領主の娘リサだ。


 この国では、エリス教が国教とされている。毎年、女神エリスを祭る感謝祭が行われる。今年の感謝祭は先日行われたばかりだった。

 感謝祭では、ミス・エリスコンテストなる催しが行われる。

 昔、隣国のアクセルという街でこのイベントが行われたときに、女神エリスが降臨したといううわさが周辺の国にも伝わり、エリス教徒の間では今では恒例のイベントとなっている。

 このイベントに出場していたリサを見て以来、彼女のことが気になって頭から離れない。イベント会場のステージに立つ彼女の、リゾート地に似合うような白いワンピース姿がとてもきれいだった。

 身分の違いという壁によって、かなわぬ夢とわかっている…。

 彼の家は、代々ドラゴン使いとして、王族や貴族に仕えて来た。

 この国では、領主を務める貴族の家系は、王族の血縁だ。たとえ高名なドラゴン使いの一族であっても、対等の立場になることはかなわない。

 彼は「はぁ。」とため息をついた。

 すると突然背後から、「キミ、どしたの?深刻な顔して。」と声が。


 彼が驚いて振り返ると、そこにはすらりとした女性が目に入る。

 年齢は十代後半だろうか。ロウソクの光が美しい銀髪と紫の瞳に反射して揺らめいている。


「え、エリス様?」彼は思わずつぶやく。


「ち、違うよ!あ、あたしはクリスって言うんだよ。」クリスは顔を少し赤らめながら、大げさに手を振って否定する。


「ごめんなさい。エリス様の絵姿とすごく似ていたもので…。」


「そ、そうかい。えっと、あたしは仕事でこの国に来ていて、この近くの馬小屋に泊まってるんだ。」

「この教会に出入りするキミをよく見かけるんだけど、ずいぶん熱心なんだね。」


「は、はい。ここには願い事をするために。あ、はじめまして。僕はリック。リック=オズボーンです。」


「そっか…。よろしくね。オズボーンっていうと、この辺りでは有名なドラゴン使いの一族だね。キミもそうなの?」


「い、一応。」リックは答える。


「ところでキミ、どんな願いごとをしていたの?あっ、言いたくなければ言わなくていいよ。」


 クリスの話し声を聞きながら、なぜか昔聞いたことのある様な、不思議な感覚がリックの脳裏に浮かぶ。


 もちろん、クリスとは初対面だが、どういうわけか、彼女には何でも打ち明けられそうな安心感がある。

 見かけは冒険者風のラフな格好だが、祭壇の明かりに浮かぶ表情は聖職者の雰囲気をうかがわせる。


「実は、あるお姉さんと友達になりたくてエリス様にお願いしていたんです。」


 するとクリスは、「そうなんだ。ねぇリック、キミに手伝ってほしいことがあるんだけど。手伝ってくれたら、あたしがキミと彼女が友達になるのを手伝うよ!」

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