再会

ムラサキ

女神エリス

 ぼんやりと薄暗い空間の中で目覚めると、目の前に銀髪の女性が立っている。

 青いローブに白い肌の美貌が映える。

 その様子は、「神々しい」という表現が一番ふさわしいと思えた。

「女神様…。」思わず呟いてしまう。


 あぁ、そうだった。地上でリッチーだった私はダンジョンの奥で水の女神を名乗る青髪のプリーストに浄化されたのだ。自ら望んで…。


 視線を下げると、自分の手が、見慣れた白骨ではなく、皮膚のある、普通の人の手になっていることに気づいた。自分の頬を触ると、弾力のある皮膚に覆われているとわかる。おそらく浄化されたことで、不死化する前の姿に戻ったのだろう。


「ここが、天界なんだね。」


 私が呟くと、銀髪の女性が優しい表情で話しかけてくる。


「キールさん、あなたのリッチーとしての人生はおわりました。あなたは、虐げられていた女性を救い出し、彼女を守るためにリッチーとなりました。彼女が天寿を全うした後、本来死ぬことのできないはずのアンデッドであったあなたは女神アクアにゆるされ、あなたの魂はこの天界に送られて来たのです。」


「そうですか。あの青い髪のプリースト様は、本当の女神様だったのですね…。するとあなたがエリス様ですね。」


「はい…。

 あなたには二つの選択肢が用意されています。

 一つは、天国で平穏に暮らして行くこと。

 そしてもう一つは、地上で生まれ直して、新たな人生を生きること。」


 地上での記憶をたどり、私は答える。

「私を浄化するときに、アクア様は仰いました。私が望むならば、どのような形であれ死に別れた妻と再会できるように、あなたが取り計らってくれると。」


「はい。アクア先輩から承っています。あなたは地上に生まれ直すことを望むのですね。」


「はい。再会の願いがかなうのならば。」


「わかりました。かつてのあなたの伴侶は、とある貴族の娘として地上に生をうけています。」


「彼女は幸せに暮らしているのでしょうか。」


 エリス様は微笑みを浮かべて、

「はい。まだ小さい彼女は、優しい両親に囲まれて、すくすくと育っていますよ。」


「そうですか…よかった。」


 エリス様は少し悲しそうな表情で私に語りかける。

「残念ながら、生まれ変わると同時に、今のあなたの記憶は失われてしまいます。彼女も前世でのあなたのことを覚えていません…。」


「…それは、構いません。」


「あなたは、ドラゴン使いの家系の跡継ぎとして生まれ変わり、彼女の家で雇われれることになります。そしてあなたの一族は彼女や彼女の子孫を何代にもわたり護り続けるでしょう。」


「なるほど…。望むところです。」


 すると銀髪の女神様は優しい表情になり、

「わかりました。それでは…」

 エリス様の手から暖かく優しい光が発せられる。

「キールさん、新しい人生でも、またよき出会いのあらんことを…。」


 私は暖かい光に包まれて、とても穏やかな気分になる。なぜか頬に涙が伝う感覚がある。泣くことを忘れて相当長い月日が流れてしまったものだ…。

 そして眠りにつくように私の意識は遠のいていった。















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