W氏の遺言状
若狭屋 真夏(九代目)
遺言書
遺言書の事をたしか英語では「a will」だったかな?
willは「意志」だから最後に残された意思表示という事になる。
その日とある老人が亡くなった。
「和田 辰夫」それが老人の名前だ。辰夫は終身独身を通した。
享年93歳。死因は「廊下に落ちていたバナナの皮に滑って頭を打ち出血し、出血多量」で亡くなった。
近所の立花華子が、おかずのおすそ分けとして「かぼちゃの煮つけ」を持って行って発見された。
華子は警察に連絡し、警察官が辰夫の家の中を捜査したが、他人が侵入した形跡もなく、金品も盗まれていない。「司法解剖」の結果「問題」は発見されなかった。
「まぁ、あの人らしい死に方ね」と華子は言った。
和田辰夫には弟がいた。重雄がそれである。
警察から電話が来たらしく一族が集まってくる。
「和田家(わだやではない)」は一説に「桓武平氏」の流れをくむ500年以上続く旧家だ。しかしそれも昔の話。今は普通の一軒家に一人で住んでいた。
重雄は90歳で、娘が二人。孫が5人ひ孫が3人いる。
それ以外に辰夫の母の実家の人々が集まる。
「葬儀」の相談が行われる。
喪主は重雄が務めるのだが、高齢のため娘の幸(さち)と雪が代理として喪主を務めた。とりあえず、適当に(初めての葬儀なのでそうならざるを得ない)様々なことを決めてゆく。
幸と雪は「おじさん」が大好きだった。
結婚相手を初めて紹介したのは「おじさん」だった。
その婿も50の坂を超えている。
子供の時からおじさんは「遊びの師匠」だった。
テレビゲームやおままごと、なんでも教えてくれた。
おじさんが教えてくれた遊びは数しれない。
大人になっても「仕事」の悩みや「恋」の悩みいろいろと相談したものだ。
「おじさん」の顔を二人そろってみていた。二人とも涙が流れている。
「いい顔して、まるで今にも起きてきそうだね」
「おじさんのことだから起きてくるわよ」
そう言ってまた泣いた。
そうしている間にタクシーが着いた。
「宇喜多弁護士」が乗っていた。
彼は急いでタクシーを降りると和田家にあるいた。
彼は60を超えている。どうも、辰夫の大学の後輩にあたる人物らしい。
葬儀の最中に忙しい和田家に宇喜多は入った。
「えー重雄さんはどちらでしょうか?」
声を大きくして聞いた。
「父なら奥におりますが。。」幸は答えた。
「失礼いたします」と言って宇喜多はずかずかと上がった。
重雄は寝ていた。。年のせいか疲れやすい。
若いときはヤンキーっぽかったが今はその面影すらない。
「和田 重雄様でいらっしゃいますか?」
「へ?」
「重雄さまですか?」
「へえ。重雄は弟ですが。。」
弟などいない。
重雄はボケたふりをしているのだ。
大きな声で宇喜多は「兄上さまの御遺産が6億円ほどございます。その遺産配分につきまして「遺言書」預かっております、宇喜多ともうします」周囲にも聞こえた。
「へ~~~」
おもわず、重雄の「入れ歯」が飛んだ。
とりあえず、通夜が行われる。
長い長い行列ができていた。
駆け付けた人々はみな「笑顔」である。
不謹慎というより「親しみ」が笑顔にさせた。
菩提寺の僧侶が来て通夜が行われた。
本来「通夜」とは文字通り「夜を通して朝まで行う」
まあ、それは面倒なので夜9時ころには終わる。
その夜 親族(重雄は寝ていたが)と宇喜多が集まり、「親族会議」が行われた。
「遺言書」は皆の前で開封することになった。
「わたくし辰夫氏の大学の後輩で、弁護士の「宇喜多和美」と申します。
今回和田辰夫氏から「遺言書」(法律的には「いごんしょ」と呼ばれる)と御遺影を預かっておりますので、皆様方の前で開封いたします。」
そう言って重々しく箱を持ち皆の前に出した。
「和田辰夫氏のご遺産は土地建物、有価証券を含めますと約6億円ほどございます。生前辰夫氏はわたくしに「もしも」の時のためにこれを預けられました。」
「なお約半分の3億ほどが相続税として納税されます。残りの3億の分配方法について書かれております。」
そういうと宇喜多は箱を開けると一通の封筒を差し出した。
封筒には和田と宇喜多の印で封印されている。
宇喜多はペーパーナイフを取り出し、丁寧に封を切った。
「こちらが辰夫氏の遺言書でございます。」
そういうと幸に渡した。
幸は親族の目を見てからゆっくりと中の遺言書を取り出す。
「あ。」と幸は声を出した。
中から若き日の辰夫と重雄夫婦、そして幸と雪の写真が出てきた。
「おじさん」雪が声を出した。
そして中の遺言書を出す。
中身は見ずに宇喜多に渡した。
「私は涙で読むことが出来ませんのでお願いします。」
宇喜多は見回すと全員が泣いていた。
手紙を預かると「それでは代読させていただきます。」と読み始める。
「遺言書
一つ 私の遺産の0.54分の一×3÷1.7を高木幸 和田雪に相続させる。
一つ残りを和田重雄に相続する
以上
平成26年7月28日
和田辰夫
」
「ぷっ」と誰かが笑ったのを皮切りに今まで泣いていた親族は大笑いした。。
「おじさんらしいね。」幸は雪にいうとうなずく。
それを遮るかのように宇喜多はこういった。
「なお、御遺影の方はこちらを使っていただきたいとのことです。」
と立派な額に入った写真を取り出す。
「写真」には後ろを向いてピースをしている辰夫らしい人物が映っている。
これを見てまた一同が笑い出す。
そして多くの人に見守られ葬儀は決して厳かではない中行われた。
お坊さんまで笑い出す始末である。
実に面白いお葬式となった。
それから半年後辰夫の住んでいた家はリフォームが始まった。
それを一組の若い男女が見ている。
「お前怖くないのか?幽霊屋敷だぞ。」これは和田優、雪の息子つまりは辰夫の甥にあたる人物である。「大丈夫よ、それにあのおじさまだったら。幽霊でも逢ってみたいわ。」
そう答えるのは悠美、優の妻である。
やがて彼らはここに住み、一つの家庭を築いていく。
二人に気付いた「第一発見者」の立花華子が声をかける。「こんにちは。ゆうくんじゃないの?なに?ここに住むの?それがさ辰夫さんってばさ。。。。。」と楽し気に辰夫の話をし始めた。
梅雨が明け、夏の入道雲が大きく空に広がっていた。
完
W氏の遺言状 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya
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