3
時刻はもうすぐ、六時をまわろうとしていた。
あたりはすでに暗くなって、すべてのものが黒い布にでも包まれたようになっている。空には月もなく、星さえ出ていなかった。街灯の光さえ、どこか鈍い。二、三日中には雪が降るだろう、という話だった。
駅前の、広場とも呼べないちょっとしたスペースに、フユはいた。通路の脇にある飾りのような空白地で、そこには人の流れがない。向こうにある街路樹は、これからのシーズンのために電飾で彩られていた。時々、立ちどまって光る樹木を珍しそうに眺める通行人の姿もある。
太陽の短い出演時間は終わって、屋外は凍えるような寒さだった。ただ息を吐くだけでも、それが白く濁る。靴音や人々のざわめきも、寒気に耐えかねたように鋭く、硬質だった。
「…………」
フユの前では、沢谷ゆずきが機材のセットを行っている。マイクスタンドを用意し、台車から降ろしたアンプに接続する。ギターを取りだすと、適当に何度か弦を鳴らしてマイクの調子を確かめた。
「――ライブをやるから聞きにきてよ」
と言われたのは、昼休みのことだった。
その時間、ゆずきは当たり前のように教室に入ってきて、フユの前に立った。そうして場所や時間を一方的に伝えると、さっさと出ていってしまっている。断わられるとは思っていないのか、断わられても構わないと思っているのか、その様子からはうかがい知ることはできなかった。あるいは、どちらでもよかったのかもしれない。
真花はその日も休んでいたので、話しかけられたのはフユ一人だった。ほかの音楽部員である、渚と陽奈子に声をかけたのかどうかは知らない。少なくともこうして実際に足を運んだのは、自分一人のようだった。
――ただし、そこには何故か奈義真太郎の姿もあった。
帰宅後、ちょうど奈義からの連絡があって、フユはことのついでにそのことを話してみたのである。いつかのお礼ということもあったからだった。とはいえフユとしては、魔法使いの探索も、ゆずきのライブの見学も、どちらも同じ程度に興味はなかったが。
けれどフユがそんなふうに思っていると、奈義のほうでは何故か、〝俺も行くぞ〟と言いだしている。
「あんたもライブを聞きにいくっていうこと?」
〝――ああ〟
電話ごしのフユの感情を的確にくみとったのだろう。奈義はそれ以上、何も言わなかった。そうして現場で合流することだけを告げて、通話を切ってしまっている。
その奈義は今、フユの隣に立ってゆずきの様子を眺めていた。露骨なほどに興味深げな顔で、どう見てもただの野次馬だった。
「――あんた、いったいどういうつもりなの?」
と、フユは奈義の顔を見ようともせずに訊いた。簡易ライブステージでは、ゆずきがギターの調弦を行っている。
「つもり、って何のことだ?」
まるで緊張感のない声で、奈義は言う。もっとも、この男は普段からそんなものは持ちあわせてはいなかったが。
「どうして、わざわざこんなことに首を突っこむのかということ」
「面白そうだからな」
「ずいぶん気の利いた答えだけど、できれば私にもわかるように説明してくれないかしら?」
「非常に興味をそそられたんでな」
もちろん、何も変わっていない。フユは小さくため息をついた。
「……これが魔法使いの調査と何か関係があるの?」
「ないよ。強いて言うなら、ついでだな。どうせ駅の周辺を見まわってるだけなんだ。こうやって路上ライブを聞くのも悪くないだろう」
確かに、それは事実だった。二人はいまだに、魔法使いに関する有力な情報を何も得てはいない。
「人が集まれば、そこで何かが起こる可能性は高くなる。まあ気長にやろうや」
「――どうかしらね。その前に何もかもがだめになってしまわなければいいけど」
フユは軽く、肩をすくめるようにして言った。
やがてゆずきのほうで準備が終わったらしく、指ならしみたいに軽くギターを弾きはじめている。コード進行や運指はなめらかで、そこに小さく口ずさむような歌声が加わった。フユにはよくわからないが、かなりの腕前のようである。
十分に指先も温まったらしく、ゆずきはペットボトルの水を口に含んでから、マイクスタンドの前に立った。肩紐を調節し、ギターに向かって軽く合図でもするみたいに弦を鳴らす。
それからマイクの電源を入れると、スイッチを切りかえるように深呼吸を一つした。世界をほんの少しだけ組みかえる準備を――
彼女はそっと、糸を
通行中の何人かがそれに気づき、何人かが足をとめる。
その声は、音質が高めで、ガラスのような硬いものを鋭くこすりあわせるような音を響かせた。何かを包みこむというよりは、激しく切り裂く種類の声である。氷のつぶてが地面を叩くのと同じ強さで、その歌は夜の闇の中に広がっていく。
時間がたつにつれて、人だかりは少しだけ大きくなっていった。誰もが静かに、彼女の歌に耳を傾けていた。現実からどこか、切りはなされてしまったような感じで。
昔流行ったスターチャイルドというアニメの主題歌や、いくつかのカバー曲、それからオリジナルらしい曲を演奏すると、ライブは終了した。最後にゆずきが頭を下げると、何人かが拍手して、何人かがギターケースに小銭を入れる。音楽が消えると、人ごみは磁力を失った砂鉄みたいにその場から離れていった。
人だかりがなくなると、フユはゆずきのところへ歩いていった。ペットボトルを大きく傾けて水を飲む彼女の顔は、さすがに軽く上気していた。興奮とほっとした気持ちのないまぜになった表情である。
「お疲れさまでした――」
どう声をかけていいのかわからなかったので、フユはとりあえずそう言ってみた。
「うん、お疲れだった」
アドレナリンとかドーパミンとかの作用だろう、ゆずきはテンションの高めな様子で笑顔を浮かべた。
「ずいぶん、うまいんですね。歌もギターも」
自分でもあまり気が利いているとは思わなかったが、フユはそう言って誉めた。
「これでも長いことやってるからね。路上だってずいぶん経験してるし。まあ、どんなもんだってところよ」
ペットボトルの水を、ゆずきはぐびりと飲んでいる。
「いつもこんな感じなんですか?」
あたりはすでに、以前と同じく何事もなかったように人が流れていた。すばやく掃除されてしまったみたいに、音の欠片さえもうどこにも残っていない。
「まあ、そうかな」ペットボトルの蓋を閉めながら、ゆずきは言う。「近頃は寒いし、よく集まったほうだと思う。上出来のほうじゃないかな? お金を入れてくれる人もいたし、面倒も起きなかったし」
「――で、俺たちは役に立ったのかな、さくらとして」
フユの横から、不意に奈義が顔をのぞかせた。
「ああ、やっぱりわかってた?」
ゆずきは無邪気そうにいたずらっぽく笑う。
「そういうつもりなんだろうとは思ってたよ。誰もいないと、なかなか人は集まりにくいからな」
「なはは、二人のおかげで助かったよ。小嶋も芦川も、用事があるとか言うしさ。弓村のやつはまた風邪だとかいうし」
「役立ったついでに、こっちからも聞きたいことがあるんだけどな」
「例の〝民俗学的調査〟ってやつ?」
ゆずきはギターを片づけながら言った。
「ああ、何か新しい噂話でも聞かないか?」
「さあねえ」
と、ゆずきは曖昧な顔をした。質問自体が漠然としすぎているのだろう。
「一連の怪奇現象で、何か思うことはないか?」
「妙なことだとは思うけど」
「どんなやつが関わってるんだと思う?」
「見当もつかないな、そんなの」
軽くお手上げのポーズをする。
「――そうか、何かわかったら」
「わかってる。志条にでも伝えておくよ。でもこう見えて、あたしも忙しいからね」
「手数をかけてすまない」
「いやいや」
そうして片づけをすませてしまうと、「ともかく、今日は二人ともありがとう」と言って、ゆずきは帰っていった。台車を引っぱっていく彼女の姿は、あっというまに人ごみにまぎれて消えてしまう。
あとには、どこを探しても路上ライブの痕跡のようなものはない。それは記憶の中の曖昧な反響として残るばかりで、まるで夢でも見ていたかのようだった。
「さて、どうするかな」
と奈義は言った。質問というよりは、現実にスイッチを切りかえるみたいに。
フユはまだぼんやりとあたりを見渡していたが、一瞬見覚えのある誰かがそこにいたような気がして、視線をとめた。ばらばらになった単語を組みかえ、文章にするように意識を集中して、それが誰なのかを思い出そうとする。
(あれは――)
確かに、フユにはその人物に見覚えがあった。いつかの昼休み、学校の階段でフユとすれ違った少年である。フードつきのパーカーを着てわかりにくいが、間違いない。
と思うまもなく、少年の姿は人ごみに消えていた。それはちょうど、沢谷ゆずきが去っていったのと同じ場所である。
(誰かを監視していた……?)
何となく、そんな気がした。けれど誰を、何の目的でなのか、ということはわからない。
「どうかしたのか?」
少年のことなど知るはずもない奈義が、フユの様子に気づいて声をかけた。
「――いいえ」
フユは消えていった少年のほうをうかがいながら、首を振った。今となってはそれはすでに夢の中の出来事に似て、少年が本当にいたのかどうかさえ判然としない。
「とりあえず、あっちのほうに行ってみましょう」
それでもフユは、少年のいなくなったほうを指さした。妙な引っかかりのようなものを感じながら。
「……じゃあ、そうしてみるか」
奈義のほうに異論はない。二人はいつものように、あてもなく歩きはじめた。
夜が深くなるにつれ、街の明かりはちょうど溶液中の結晶が成長するみたいにその輝きを増しつつあった。地上にとどめられた星に似た光の中を、様々な関係性を抱えた人々が行き来している。星座ほど確かではないにせよ、どこか定められた場所に向かって。
駅前を離れると、海の深い場所にでも入ったみたいに光と人影がなくなる。すでにシャッターを下ろした店や、夜の中に置き去りにされたような自転車が放置されていた。
当たり前のこととはいえ、そこにさきほどの少年の姿は見つけられない。
「街の裏側にでも入りこんだみたいだな」
歩きながら、奈義がぽつりと言う。そのつぶやきさえ、どこかうら寂しく響いた。特に繁華街が賑やかな時期だけに、その落差は歴然としている。
「――こっちが表だって言う人もいるでしょうね」フユはそっけなく言った。「裏表なんて、相対的なものでしかないんだから」
まあな、と答えようとして、奈義は不意に動きをとめる。
フユも同時に、そのことに気づいた。
世界の裏側で鐘を鳴らすような揺らぎが、どこからか伝わっていた。見えない場所で、世界を組み変えてしまう揺らぎが――
「近いな……」
と、奈義はつぶやく。
フユは〝感知魔法〟のペンダントを取りだすと、意識を集中した。マイクで音が拡大されるように、揺らぎの形が明瞭化する。大体の方向をつかむと、フユは顔をあげて言った。
「こっちよ」
夜の時間が何もかもすっかり片づけてしまった道を、二人は走っていく。
路地をいくつか曲がったところで、フユは足をとめた。飲食店の裏口らしい細い通りの真ん中に、若い男が数人でたむろしていた。ただの酔っ払いや学生の集団というには、どうも様子がおかしい。
中の一人が呆然としたように座りこんでいて、そのまわりを当惑した顔の仲間たちが取り囲んでいた。
「おい、しっかりしろ」「どうしたんだよ、いったい?」と、口々に声をかけるが、まともな反応は返ってこないらしい。
さすがにフユが躊躇して立ちどまっていると、横から奈義がぽんと肩を叩いた。その手には、魔法用のペンダントが握られている。「――魔法だ」
それから奈義は、まるで当然のことみたいに若者たちのあいだに混ざると、座りこんだままの男をのぞきこみながら訊ねた。
「いったいどうしたんだ、彼は?」
状況に混乱しているのと、奈義の態度があまりに自然すぎたせいで、若者たちは不審を抱く余裕もなかったらしい。男の一人がわめきちらすようにして答える。
「わからねえよ、ついさっき急にこんなふうになっちまったんだ」
「病気か、何か事故でもあったのか?」
一見して、男に外傷や不審な点はうかがえない。たださっきから、小声で何かぶつぶつとつぶやいているようだった。
「俺、俺って……? 何で、こんなところに……?」
虚ろな目で、放心したようにへたりこんでいる。
「自分のことが誰だかわからないとかって言うんだ、そいつ。俺たちのことも覚えがないって」
「……記憶喪失か?」
「バカな。だって俺たち、ただ歩いてただけなんだぜ」
若者たちは誰もが困惑したような顔をしている。
「何かあったんじゃないのか、その時? 例えば、誰かとすれ違ったとか――」
奈義が訊くと、若者たちは急に黙りこんで互いに目配せした。どうやら、何かやましいことがあったらしい。
「あったんだな、何か」
「……俺たちは別に何もしてねえよ。ただちょっと、近くを歩いてたやつをからかっただけで」
「喧嘩でも吹っかけたのか?」
「そんなんじゃねえよ。ただ話しかけただけで、それなのに、気づいたらそいつがいきなり座りこんじまったんだ」
奈義はもう一度、放心状態の男の顔をうかがう。まるでコードを引っこ抜かれたテレビ画面みたいに、その顔には何の反応も示されていない。「俺……何で……」と、ただ同じことをつぶやき続けている。
「――お前らが話しかけたっていうその誰かは、どこに行ったんだ?」
「あっちのほうだよ」と、一人が答える。「逃げるみたいに、慌てて行っちまった」
奈義はフユのほうに目を向けた。フユがうなずくと、二人は若者たちをその場に残して走りだす。魔法使いが消えたという、その方向に向かって。
「手わけして探そう」
と、奈義は言った。
「俺はこっち、お前はあっち。何か見つけたら携帯で連絡だ」
フユはうなずいて、二人は別々に分かれて街路を進んだ。
狭い路地を、フユは勘を頼りにして走りまわる。あの若者たちから逃げようとしたなら、問題の魔法使いも闇雲に道を選んでいるかもしれない。運がよければ、それらしい人物を発見できる可能性はあった。
「…………」
夜目にもわかる白い息を吐きながら、フユはふと例の少年のことを思いうかべる。もしかしたらあの少年が、問題の魔法使いなのだろうか。だとしたら、何故自分に対してあんな警告まがいの脅迫をしてきたのだろう。
少し大きな通りに出たところで、フユは足をとめた。左右を見渡してみるが、それらしい人影は見つけられない。すでに、この近辺からは離れてしまっているのだろうか。遠くのほうにはマンションの明かりが見える。
その時、ポケットの中で携帯が鳴った。
「――もしもし?」
相手も確認せずに、フユは通話ボタンを押す。
〝見つけたぞ〟
奈義は短く報告してきた。
「魔法使い?」
〝いや、ストラップだ。やつが落としたんだろう。俺の〈境界連鎖〉を使って位置を特定する。通話はそのままにしておけ〟
奈義の魔法は物や痕跡からその持ち主を探ることができる。フユは携帯に耳を当てたまま、結果が出るのを待った。
〝……よし、わかった。まだ近くにいるみたいだ〟
「どこにいるの?」
フユは念のために、もう一度あたりを見まわしてみた。が、もちろん魔法使いどころか、周辺には人影そのものがない。
〝ちょっと待て……そうか、これなら〟
何か思いついたらしく、電話の向こうで奈義の考えこむ気配があった。
〝……相手の魔法が不明だから、できればあまり近づきたくはない。記憶だか人格だかを消されるようなまねはごめんだ。何とかしてやつを遠くから捕らえる〟
「どうやって?」
〝俺の指示する場所に待機しててくれ。そこに俺がやつを追いこむ。お前は離れたところから〈断絶領域〉でやつを捕獲しろ〟
作戦としては、問題なさそうだった。相手の居場所を特定できる奈義が追跡し、それをフユが待ち伏せする。相手に対して不用意に接近する必要はない。
「わかったわ」
待機場所を確認して、フユはそこへ向かった。駅周辺はさんざん歩きまわっていたので、それなりの土地鑑がある。やはり人生というのは、意外なことが役に立つもののようだった。
郵便局と貸しビルの裏側という所定の位置について、フユは人影が現れるのを待った。周辺に街灯はなく、かろうじて建物や障害物の輪郭がわかる程度の暗い場所である。相手も見えにくいが、相手からも見えにくい。
フユは建物のあいだにある路地から少し離れ、意識を集中して時が来るのを待った。
どれくらいたっただろう――
不意に、激しい足音が聞こえた。同時に、携帯が音を立てる。合図だった。
人影が姿を見せる。
瞬間、フユは〈断絶領域〉を発動させた。人影の四方を取り囲むように、不可視の壁を巡らす。
魔法の揺らぎを感じて危機を察知したのだろう、人影は壁に衝突することなく足をとめた。
が、すでに時は遅い。フユの魔法によって作られた壁は、人影を完全に捕らえていた。もはやそこから逃れることはできない。例え自動車が正面からぶつかったところで、魔法の壁には傷一つつくことはない。
(うまくいった――)
そう思って、フユが人影のそばに近づこうとしたときのことだった。
魔法の揺らぎが、伝わっている。人影が魔法を使っているのだ。
そして次の瞬間、〈断絶領域〉によって作られた壁は、薄い氷を砕くみたいに霧散していた。
「――!」
意外な出来事に、もう一度魔法を使おうとしても間にあわない。人影はあっというまに夜の闇へと走りさっていた。
慌ててあとを追ったフユに見えたのは、フードをかぶった相手の後ろ姿だけだった。その姿には見覚えがあるような気がしたが、もちろん確かなことはわからない。あたりにはただ、水槽の水でも掻きまわしたような暗闇の乱れと、フユの混乱が残るだけだった。
「どうしたんだ?」
少しして、魔法使いが出てきたのと同じ路地から、奈義が姿を現す。
「逃がしたのか、やつを――?」
その問いに、フユは答えなかった。フユはただ、呆然としたように自分の手を見つめている。
「……魔法が」
と、フユは信じられないようにつぶやいていた。
「魔法?」
しかしその続きを、フユはなかなか口にすることができなかった。
あれは魔法を消す魔法なのだ、とは――
※
その魔法使いは、暗がりの路地で激しく息をついた。もう追手が迫ってくる気配はない。ひとまずは逃げきったと思って安心していいだろう。
さっきは危なかった、とその魔法使いは思った。何か違和感のようなものを感じたら、すでにまわりを見えない壁で囲まれていたのだ。けれどすぐに、何とかなるだろうと思った。そう、この〈
実際に、その予感は正しかった。見えない壁を消すことができたのだ。正確には壁そのものを消したわけではないのだが。しかしそのことは、あの二人にわかることではないだろう。
この力は、必要だった。決して手放したり、他人に自由にされるわけにはいかない。この力があるかぎり、特別でいられる。魔法使いは呼吸を整えながら、そう思った。
おそらく、あの二人にはまだ顔を見られてはいないだろう。一人が追跡のために利用していたらしいつながりの糸のようなものも、すでに断ち切っている。同じ方法で居場所を知られるようなことはない。
魔法使いは何食わぬ足どりで、路地をあとにした。大きな通りへ出ると、街はいつもと変わらない様子で賑やかな音を振りまいている。
(――絶対に捕まったりはしない。どんな方法を使っても、逃げきってみせる)
心の中で密かに、魔法使いはそう決意していた。
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