たとえばの話だけど
菜科
第1話 たとえばの話だけど
「よ、吉村さん…!たた、たとえばの話なんだけど…。」
朝の教室のざわめきがかすかに落ち着いたことに2人は気づかない。
「あら豆田くん、今日はなに?」
そう、2人を除くクラスメイト一同は嗅ぎつけたのだ。これから始まろうとしている「ラブコメ」の匂いを。
「もし誰かと付き合うとしたらどんな人がタイプ?」
(((((キョドッてる割には超ストレートだな…)))))
ちなみにクラス一同の心の声はよく一致する。今のご時世には珍しいみんな仲良しクラスだ。ちなみに語るべくもないと思うが、豆田は吉村のことが好きで付き合いたいと思っている。男子のリサーチによると、入学式で一目惚れだったそうだ。当然のごとく吉村を除くクラス全員にその情報は伝わっている。
さぁ、吉村の返答は…?
「家族を養っていく上であまり苦労しない程度の収入を稼ぐ見込みがある人かな。」
(((((何歳だよお前!?)))))
見た目とかじゃなくてまず将来の収入気にしちゃうの!?本当に俺(私)達と同じ15歳なの!?
この半年で吉村についてわかったことは少ない。ただ、この歳にして俺(私)達とは違うところを見ているってことだけはすぐわかったことだった。思ってることもあんまり顔に出ないし話しかけづらいな、というのが最初のこのクラスでの位置付けだった。…あの日、豆田が「バリボゥの乱」を起こすまでは。
「あ、ええっと、見た目とか身長とかはタイプとかないの…?」
おお、豆田選手まだ押していく。そうだよね、まだはぐらかして本心を隠してるだけかもしれないし…。
「基本的にしっかりと身だしなみを整える能力を持っていればあまり深くは気にしないわ。」
(((((夢がない!)))))
夢がなさすぎやしませんかね吉村選手!?
「じゃ、じゃあ…苦手なタイプはどう!?」
今日の豆田選手はいつもと違って押しが強いぞ…?ついに覚悟を決めたか?
「どうと言われても……うーん、悪口みたいになるからあまり言いたくはないけど…あえて挙げるならあまり極端な体型の方は考えさせられるわね。一概には言えないけど自己管理が苦手そうだもの。」
現実的だ!どこまでも現実的だぞ吉村選手!しかし言葉こそ丁寧なものの「デブやガリガリは論外」という情報を引き出した豆田選手には我々(静かにうなだれている相撲部の細井以外)一同から拍手を贈りたい…ナイスファイトだったぞ…!
「そっか…色々聞いてごめんね?デリカシー無かったよね…。」
「豆田くん、女子のプライベートを聞いて感謝されるのもそこそこ気持ちが悪いけど、謝るくらいなら聞かないほうがいいわよ。その謝罪には誠意が感じられないわ。」
「うっごめ…」
「じゃなくて。今の話聞いてた?」
「うぁ、ご…あ、ありが…とうございます。」
「よろしいっ。言葉一つで人を傷つけることも癒すこともできること、ゆめゆめ忘れないように。じゃ、」
吉村の目が獲物を狙う猫のように細め、口角がわずかに上がる。普段感情が表に出づらい吉村がだ。
「このお礼は今度の日曜日に返してもらおうかなー。」
「えっ!?てことはまたクレープ!?今月のお小遣い無くなっちゃうよー!」
慌てながらもどこか嬉しそうな豆田とそれを見てニヤニヤしている吉村をよそに、
キーンコーンカーンコーン
始業のチャイムが鳴り出しそれぞれが自分の席に戻る。そんななか、クラス一同の心の声はいつものようにまたしても一つになるのだった。
(((((…もうお前ら付き合っちゃえよ…)))))
たとえばの話だけど 菜科 @nashina_dayo
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