(2)第一話 島村トウコ-2

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  島村がどこかにもたれかかっている。


  山田が島村に近づく。

  

山田「・・・・・・」

島村「・・・・・・」


  きまずい雰囲気。


山田「・・・どうも」

島村「ん、おはよう」


  沈黙。


  山田が何かを言いかけようとする。


  が、それを遮るように、


島村「まったく、オープニングもエンディングもないなんて、今日は最終回なのか?」

山田「そもそも日常生活にオープニングなんかねえよ」


  (エンディング、終わりはあるかもしれないけれど、そう思ったが、山田は口にはしなかった。)


  ──なんだ、いつもの先輩だ。


島村「そう言わないでよ、山田くん」

山田「言わずにいられないですよ」

島村「すみません、患っているもので」

山田「中二病を?」

島村「いえ、なんとかの病を」

山田「・・・・・・」

島村「・・・・・・」


  沈黙。


山田「あの、先輩って、いつからその力に目覚めたんですか?」

島村「力、ね・・・。私、子供の頃から友達がいなくて、もともと一人で遊ぶのが好きだったわ。それで、一人で何人もの人格を作って遊んでいたの。それが気付いたら、本物になってしまっていた」

山田「ほんものって・・・」

島村「勘違いしないで、山田くん。私だって、別に空想と現実の区別がつかないほどバカじゃないわ。ただ、ちょっとごっこが過ぎただけ。君がいつも言ってるように、そろそろ卒業した方がいいのかもね」

山田「先輩・・・」

島村「私ね、今でも、友人と話していても、どことなく居心地の悪さを感じるときがあるの。

  『私は、生まれてくる世界を間違えてしまったのではないか、

   と、そんな感想を抱くようになっていた。

   まさにそれは、現実から剥離しているような状態だった。』

   なんて、ただ、人づきあいが苦手なだけなんだけどね」

山田「いや、俺もなんとなくわかりますよ。なんだか、自分と周囲が合致していないような、違和感というか、居心地の悪さというか、そういうのを感じるときが」

島村「山田くんって優しいのね」

山田「別に、そんなことは」

島村「私、そうやって、私のことを理解してくれようとしてくれている、山田くんのことがとても好きなんだと思うわ」

山田「先輩」

島村「山田くんがいなかったら、私、誰にも心を開いていなかったかもね。本当に、感謝してるわ」

山田「何言ってるんですか。先輩は、十分にちゃんとやれてますよ」

島村「ちゃんと、ね。ねえ山田くん、どうして君は演劇部に入ったの?」

山田「いや、別に、特に理由はないんですけど。ただ、何かしらの部活には入りたいとは思っていて。まあ、先輩に勧誘されて、勢いのまま、なし崩し的に、みたいな」

島村「ふふ、あの時に見つけて、捕まえていてよかったわ」

山田「まあ、結局は幽霊部員なんですけどね」

そういう島村先輩は、どうして演劇部に入ったんですか?」

島村「私はね、セリフを言うのが好きなのよ」

山田「・・・でしょうね」

島村「なに、その言い方」

山田「いや、別に」

島村「お芝居って、役者って、自分ではない別の誰かになれるじゃない? それに、みんなで一つのものを作り上げる、それが素敵だなって、それだけ」

山田「へえ、なんか意外だなあ」

島村「なにが?」

山田「なんだか、島村先輩がまともっぽいこと言ってるのが」

島村「どういう意味よ」

山田「いや、すみません。それで、高校卒業しても演劇って続けるんですか?」

島村「どうかしら。大学に入ったら、別のサークルに入るのも楽しそうね」

山田「どんな?」

島村「そうね、軽音楽部、とか」

山田「へえ。バンドですか。なんかかっこいいですね」

島村「あとは、アニ研?」

山田「はい?」

島村「アニメーション研きゅ──」

山田「フルネームで言わなくていいです」

島村「アニメーション研究会とか」

山田「言っちゃった!」

島村「まあ、そもそも私なんかの脳みそでどこかの大学に入れるのかも不安なんだけども」

山田「がんばって下さいよ、受験生・・・」

島村「うん。なんだか、普通ね」

山田「なにがです?」

島村「私、普通に、山田くんと、普通のことを話している」

山田「まあ、普通だけが俺の取り得みたいなもんですから」

島村「いや、君は十分に普通じゃないのだけれども」

山田「普通じゃないんですか」

島村「でも、こうやって普通に普通の話ができるのが、なんだか普通にうれしいな」

山田「そうですか」


島村「ねえ、山田くん」

山田「なんです?」

島村「君は、男女間の友情は信じる?」


  それは、いつかと同じ質問だった。


  山田、ほくそ笑む。


山田「信じますよ」


  島村、満面の笑顔で答える。


  これが、二人の結論だ。



──第一話、完。

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