笑顔

狂夏

第1話

暑い。暑苦しい。全くを持って馬鹿げた天気だ。交差点まで歩くと人通りも増加し、余計に汗水が滴る。赤信号の燃えるようなランプ。留まり続ける人混みを挑発しているかのよう。次に奴が青を示すのを、待つのすら億劫になり、近くのカフェに駆け込んだ。この時期ならどうせ冷房も効いていることだろう。冷えたジュースでも取って、この日中をやり過ごす他ない。案の定、店内は冷え切っていた。歩みを進め、カウンターの前に立ち止まると、一人の店員の少女が振り返る。「いらっしゃいませ〜」と、はにかんで見せた。不自然なほどの笑顔だ。彼女は一瞬で客の存在を識別し、表情を明るくしたのだった。その変貌ぶりに呆気に取られかけたが、我に返り、慌てて注文を済ませた。その間、彼女の顔は笑みを保ち続けた。飲み物を受け取り、カウンターに背を向け、席を探そうとしたが、如何せん彼女のことが脳裏に引っ掛かる。作り上げられた機械的な笑顔に、もはや魅力すら感じてしまったのだ。気付いた頃には、私はカウンターの近くの、彼女の表情が伺える席を一つ確保し、そこに居座っていた。

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笑顔 狂夏 @kuruinatsu

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