プロローグ 3

 プロローグ 3


 ―――第一研究室―――


 その音は、けたたましく鳴り響き続ける。その音は非常事態を知らせる。その音は、警告する。外部から溢れ出す光は廊下に面した窓という窓を朱く朱く朱く染め上げた。

 またたくうちに色を変え回転灯の光が流れ窓は明滅する。背筋は凍りつき心臓の鼓動は早まる全神経を研ぎ澄ませ危険に備えた。

 煌々こうこうと光る水銀灯の明かりに照らし出される工作機械たちは、小気味よいモーター音を響かせ作業準備をしだす。

 コンプレッサーは、けたたましい轟音ごうおんかなでエアータンクに空気が充填じゅうてんされていく、研究室に命の火が灯る。


 円筒状のカチッとしたキャスケットの軍帽、浅葱あさぎ色の親衛隊の軍服、何処と無く軽薄でいい加減そうな年若き青年、スレイヤーは臓物ぞうもつの入った透明の容器を取り外そうと手を伸ばした。

 その瞬間、彼を呼び止める声がした。


 「待ちたまえ!」


 穏やかでそれでいて力強いその声は、机の上におもむろにかれ端子が刺さったままの携帯端末けいたいたんまつからの電子音だった。


 「なに、待ってどうすんの、こぉ~れぇ~つうかぁ博士の中身外さないとめないよ」

 と口をとがらせ呆れ顔だがそんな事は全く意にも返さず何事も無かったかの様に電子音は会話を続く。


 「私は、別に構わないのだが、君があまりに不憫ふびんに思えてね。私は君の為に最善の方法を提案したいと思ってね。私からの感謝の気持ちと受け取ってくれたまえ」


 「それは、どう言う意味だよ。こんなのただ外せばいいんじゃないの」


 「勿論もちろんそれで問題無いのだがそうすると君に困った事が起こる。それを思うと不憫でな」


 「だ~か~ら~ぁ~どう言う事なんだよ。時間無いんだから教えてよ」


 「些細ささいな事なのだがこのまま取り外してしまうと君は、私の汚物おぶつまみれに成る。それが不憫でな」


 「うわ~~それは大問題だよ。も~かんべんして欲しいな~で、どうしたらいいの?」


 「それは、簡単だ。2本バルブめ中身を吸引して外すだけだ」


 「あーー、ようは大きい方と小さい方のくだを外すって事ね……了解。つうか、こんななのに食事して排泄はいせつするんだ」


 「失礼な、私は正真正銘の人間だ、しょう・しん・しょう・めい・の、まったく。速くし給え、アラートが鳴り響いている直ぐ警備が来るぞ」


 「へ~い」

 怪しむ様に管を覗き込みそして外すと、やはりと言うか当然と言うか当たり前と言うかやっぱりと言うか外した管から放たれた悪臭が周囲を犯しスレイヤーの鼻を犯した。


 「くっさっ!……博士っ臭いよ!もっと良い香りがするの食べてよ!ハーブとか野菜とか」

スレイヤーは、あまりの臭いに顔をしかめた。


 「君は度々たびたび失礼だな私は草食動物じゃ無い正真正銘人間だ。バランスの良い食生活こそ健康な肉体を維持いじする為に必要なのだ。それに臭いのは私も一緒だ」


 けんのんな顔で容器を見やるスレイヤー

「つうか、博士肉無いじゃん臓物だけじゃん、これで生きているね~ ……ん!、んんんん、んっ!!!、博士もしかして臭い解るのぉぉ!」


「ふっ、当然だ。嗅覚だけでないぞ、視覚、聴覚、味覚もあるぞ。メカノイドにアクセスすれば、触覚だって有る」


 「あーー、へいへい、重っ!……博士、重いよ。もっとダイエットしてよ!」


 携帯端末を胸に忍ばせイヤホンを耳に入れ容器を外した。


 「済まないな、私は育ち盛りなんだ」

スレイヤーは、右手のかたまりを嫌そうに見やった。


 辺りを雪崩なだれごとく轟音を立てて沢山の足音と重火器のきしむ音が取り囲んでいった。


 「中に居るのは、解っている。おとなしく武器を捨て投降とうこうしなさい。さもなくば生命いのちの保証はし無い」


 「あ~あ、囲まれちゃったね」


 「君が遅いからだろ」


 「で、あの扉どのくらいつの?」


 「爆破はほぼ不可能だろうね。メカノイドの暴走を想定して丈夫に作ったからね」


 「じゃぁ、博士を運ぶ時間は有るね」


 「だが問題は、搬入エレベーターで外に出た時に蜂の巣になるだろうがな」


 「ところで博士、コレ何処に入れるの?」


 「コレとか失礼たぞ。補助席の下に接続出来る」


 「ヤダなそれ。コックピットのなか臭くなっちゃうよ」


 「安心し給え排泄物は、でエネルギーに変換される」


 「食べる時は?」


 「当然、炉だ。エネルギーに変換するのだから」


 「糞も食うのも一緒かよ」


 「失礼だな君は、排泄物は味わわん」


 「じゃ博士付けるよ」

補助席のシートを上げズッシリ重い塊を接続した。


 「携帯端末はハンドル中央だ」


 「了解りょーかい!」

ハンドル中央に携帯端末を取り付けコックピットを閉じるとそこは、光の海の中、色彩豊かな随所散りばめられ闇を照らす蛍の様に淡い光に包まれる。


 「( ̄ー+ ̄)キラーン」


 携帯端末の画面が変り変な絵文字が表れると目の前の真っ黒な風景がポツポツとパズルを完成させる様にピースをはめ込み外の景色を完成させる。


 視線を動かすとそれを追ってはめ込まれ視界から取り残されたピースは、消えていった。


 「ところで博士コレ何?」


 「私の顔だ、愛らしいだろ?」


 「……で、キラーン何?」


 「それは決まっている。天才博士は歯が命だからだ!」


 「聞いた事ねぇよ」


 「……(嘘だな)で、このメカノイド何て行ったっけ?」


 「君、さっき説明したばかりだろ。君はアレか三歩、歩くと忘れてしまうのか。君の頭は鳥か、鳥なのか、君の脳みそ鳥なのか」


 「いいから教えてよ。」


 「……高速走行型、可変メカノイド、メーテルだ」


 「へーかっこいいね」

資材搬入エレベーターにメカノイドで乗り込み戸が静かにしまった。


 「博士これからどう逃げるの?」


 「それは極めてシンプルだ。君に派手に大暴れしてもらい敵を撹乱してもらいそのきに海に逃げる」


 「随分大雑把ずいぶんおおざっぱな逃走計画だな」


 「そうさ、私は、君と出逢うずっと前から監視され続けている。詳細な逃走計画など計画していたら奴らに全てバレてしまいそれこそ希望が無い」


 「そう云うもんかな?」


 「ついたぞ」

エレベーターの表示がF1を示しゆっくりととびらが開いた。眼前の砲門に目が合った。とその瞬間、高速のエネルギー体を放ちエレベーターもろとも辺りを溶解させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る