夢使いとアクム
夕菜
第1話「夢使いの作戦」
若葉は信じられない光景を目にした。
毎朝そうしているように、一緒に登校するため幼馴染の和斗(カズト)の家へ彼をむかえに行ったまではよかった。
が「おはよう」と言って、玄関をあけたのはいつもの和斗ではなかった。
地味な黒髪は明るい金色へ。
健康的な肌色は、やたら真っ白な肌へ。
黒色の瞳は、サイダーのような淡い水色へ。
いつもの学生服は、夜の色をしたマントへ。
しかも、魔法がつかえそうな背の高い杖まで持っている。
「何!?その格好!もしかして寝ぼけてるの?」
いつも無口でぼーっとしていることが多い和斗のことだ。十分ありえる。
若葉の言葉に、和斗は表情に影をおとした。
「寝ぼけてるのはそっちだろ・・?」
「は?」
「可哀そうな奴だな・・オレが目を覚まさせてあげるよ」
和斗は彼らしくない冷たい笑みを口元に浮かべる。そして、杖をまっすぐ若葉に向けた。
*
時と場所は変わって・・
誰か、は夜の街並みが見渡せる高いビルの上に立っていた。
キラキラとした光が映り込む瞳を、誰かはすっと細める。
「またどこかでアクムがうまれたみたい」
それは独り言のように見えたが、違った。
誰かの隣にフワリと姿を現した青年が、それにこたえる。
「そんなことはどうでもいいでしょ?
それよりムギ!手に持っているものは何だい?」
誰か─・・ムギという名の女性は、手に持っている薄くて小さい道具に視線を落とすと
「これは、スマートホン。人間が情報を見たり、交換したり、保存したり・・それから、えーと、自分から情報を発信することもできるとても優れた道具ね」
「僕が言ってるのは、そーいうことじゃなくてね」
「何?じゃぁ、どういうこと??」
「だーかーらー、これ以上、人間に興味を持ったり関わろうとしたりするのは、止めてほしいって言ってるんだよ」
青年はムギの顏を覗き込み、眉間にしわを寄せる。そして、掌を差し出すと
「それは僕があずかっておくからさ!」
が、その掌はムギの掌に弾き返された。
「いったぁ!」
痛がる青年をよそに、ムギはスマートホンを掌で丁寧に包み込み微笑んだ。
「・・これがあれば、もっと人間を知ることができるわ」
*
(どうして朝からこんなことに・・・)
若葉は結局、一人でいつもの通学路を歩いていた。
和斗とは明らかに、一緒に登校できる状況ではない。
あの杖を向けられて苛立った自分は、思わずそれを和斗から取り上げたのだ。
そして、後ろへ放り投げ「はやく学校行かないと、遅刻するから!」と思わず叫んでしまった。
「はぁー・・・」
(ほんと、意味わからない)
今、自分の髪のはしっこはチリチリと焦げてしまっている。
そうなったのは、もちろん和斗のせい。
若葉の発言に怒りを覚えたらしい和斗は、その杖でマホウを使い若葉を攻撃してきた。
(ほんと、信じられないっ・・意味、分からないっ・・)
幼稚園からの付き合いの和斗は、当たり前だが、普通の人間だ。
それなのに・・マホウが使えるなんて・・・絶対にありえないはず、なのに。
目の前で杖を使い、変な光で攻撃してきた和斗を見てしまった若葉は、その当たり前を疑い始めた。
(まさか・・・人間じゃないの?)
ずっと隠して生きてきたの?
そんなマンガみたいなことが本当にあるの・・?
そう思いつつも、若葉はどこか懐かしい雰囲気に包まれていた。
今朝の和斗の格好は、どこかで見た覚えがあるのだ。
(何処で見たんだっけ?)
校門を通り過ぎた時「おはよう」と言って、後方からきた友人の結実(ゆみ)が若葉の隣に並んだ。
若葉はいつもと同じように、「おはよー」と返しておく。
「あれ~、今日は和斗くんいないのー?」
結実は毎朝、若葉が和斗の家に迎えに行っていることを知っている。
・・・今日、和斗がいないことが気にならないはずがない。
「うん、風邪ひいたから今日は休みだって!」
(さすがに本当のこと、言えるわけないしっ・・)
仮に行ったとしても、信じてくれないだろう。
「ふぅん。そうなんだー」
「・・・」
「あれからもうすぐ1年だけど・・・和斗くん、まだダメそう?」
結実は少し訊きにくそうに、そう言った。
「うん・・・でも、仕方ないと思う・・2人、仲良かったし」
もしかしたら、結実は和斗が休む理由を風邪ではないと思ったのかもしれない。
それもそうだ。
若葉が迎えに行かないと、和斗はちゃんと学校にきてくれるかも危うい。
・・・心配しすぎかもしれないが、和斗は大切な友人が亡くなってから・・・大きく変わった。悪い方向に。
その時、後方から「おはよう」と呟く声がきこえた。
聞き覚えのある声に、振り向くとそこにはいつもの学生服を着た和斗がたっている。
いつもそうだが、少し不機嫌そうだ。
「え・・・和斗・・」
「若葉~和斗くん、普通に学校きてんじゃん」
「・・・」
(今朝のは何だったの・・・!?)
とききたかったが、さすがにここではきけない。
すると和斗は、何も言わないまま若葉の横を通り過ぎ、校舎へ向かう学生たちの中へ姿を消した。
そして、昼休み・・・。
今朝のことが気になって全く授業に身が入らなかった若葉は、そのことを後悔しつつ弁当を机の上に広げる。
いつものように若葉の隣の席に弁当を持ってきた結実は、そこへ腰を下ろし
「あ~お腹空いたぁー・・・若葉、どうしたの?浮かない顏してるけど」
「な・・何でもないから」
若葉はそう見えるよう、慌てて弁当のおかずを口へ運ぶ。
しばらくすると、スマートホンをいじっていた結実が、そのスクリーンを若葉に見せてきた。
「見てみてーこのサイト、ちょー怪しくない?」
「んー・・?」
若葉は、ごはんを口に運びながら、結実のスマホのスクリーンに目線を動かす。
結実は時々、いろんなゲームができるサイトだとか、お得に服が買えるサイトだとかを紹介してくれる。
今回もそのたぐいだろう。
最初に目に留まったのは、「あなたのお悩み解決します!」の文字。
☆・・─・・☆・・─・・☆・・─・・☆
あなたのお悩み解決します!
誰にも言えない、なかなか解決しない
そんなお悩みはありませんか?
そんなお悩み、夢使いムギが解決します!!
夢は心の中を映す鏡。
あなたの夢をみれば、すべての真実がみえてきます。
下のフォームに必要事項を入力し、送信ボタンをクリックするだけ。
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では、夢の中でお会いしましょう!
☆・・─・・☆・・─・・☆・・─・・☆
その文章の下には、名前や住所、お会いできる日付(夢使いムギが直接あなたの夢の中へ伺います)、を入力するフォームがあった。
若葉は思わず苦笑する。
「夢の中って・・」
「ね、ちょーあやしいでしょ?」
「うん」
もちろん、若葉もそう思った。
けれど・・・誰にもいえない悩み、がある若葉にとっては、少しだけ気になってしまう。
(ほんとに、こーいうサイトに頼らないと、誰にも相談できないよなっ)
和斗のこと、彼が変な格好をして、マホウを使ったこと。
ネットでもどこでもいいから、誰かに相談したい・・・。
「結実・・一応、そのサイトのURL教えてくれない?」
若葉が思い切ってそう言うと、案の定、結実は「まじ?」と言って、目を丸くする。そして、若葉の方に身を乗り出すと
「何―?何か悩みがあるなら、あたしが相談にのるよ!?」
「大丈夫・・・!そういうのじゃないからっ・・ただ、面白そうなサイトだから、よく見てみたいなーって思って」
「ふぅん?じゃぁ送るねー」
結実はスマホを操作すると、すぐにURL付きのメールを若葉のスマホに送ってくれた。
若葉はそのサイトが自分のスマホでも閲覧できることを確認すると、結実に「ありがとう」と言って取りあえずサイトを閉じる。
「──・・」
(家に帰ったら、やってみよう・・)
*
「ヨル!みて!・・・きたわ!」
ムギはスマホの画面を覗き込み、そう叫んだ。
「え、うそでしょ・・・こんな悪趣味なサイトを利用する人間がいるなんて」
青年─ヨルは、ムギの隣からしぶい顏でムギの手に持つスマホを覗き込んだ。
そのスクリーンには、三ツ森若葉という名前と、その他こちらがフォームに入力するよう指定した、住所や日付などが表示されていた。
*
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