現役女子高生巫女業始めます!

 週末と正月七五三に節分などの繁忙期だけでいいからと、おじいちゃんが氏子の神社で、アルバイトをすることになった。これまで十六年間生きてきて、仕事をして金銭を受け取るなんてことは初めてのことだ。

 もちろん履歴書を書くのも証明写真を撮りに行くのも初体験で、震える手で文字を書き、証明写真を切った。一生懸命書いた空欄の多い履歴書はあっさりと宮司さんの奥さんに受理され、今度の土曜日にさっそく巫女さんの研修を受けることになった。

 サクラの花びらが敷き詰められた参道を通り、社務所裏に自転車を停め、ごめんくださいと裏戸から入る。襖が取り払われたがらんどうの畳敷きを上がり、不惑ほどの割烹着姿が板に着いた奥さんの前に正座した。

「はい、ではよろしくお願いしますね。袴の着方は知っている?」

「弓道着と同じであれば」

「大体同じよ。それで、髪の毛も巫女さんであるなら低い位置にポニーテールでね」

 おろしたままのセミロングヘアを指摘されてぎくりとする。すぐに一つに結わえると奥さんも相互を崩した。そして、プラスチックの衣装ケースからビニールを被ったクリーニング済みの緋袴を取り出し、几帳の陰で着替えるようにと言われた。

 緋袴は弓道着の違いとは袖が長いかどうかだけの事で、手術着めいた上着にスリットの入った朱色のマキシロングのプリーツスカートを着た。

 その後、雪駄をつっかけて神社の敷地内を回り、道中参拝客に対しての接し方や言葉遣いについてや日給7千円で雇う旨を説明された。

「明日は来なくていいよ。来週の土曜、朝九時から来てくれる?そのときに勤務表も渡すね」

 正午を少し過ぎたくらいだったが、今日はこれでおしまいと奥さんに言われ社務所を後にした。

 去り際、本殿の隅に鯖虎のネコがいて、思わず傍へ駆け寄ってしまった。ネコは私に物怖じず、撫でても身じろぎせず、非常に人に慣れた性格だった。

「ああ、その子はおばあちゃんが可愛がっていたんだけど、おばあちゃん施設に行っちゃったからさ、よかったらその子の面倒も見てあげて」

 ネコの背中や首元などを撫でくりまわし猫可愛がりする私に、奥さんが苦笑気味にネコの来歴を教えてくれた。ネコのふにふにしたあたたかい手触りを存分に堪能し、毛だらけで家に帰った。服に着いた毛を取りながら、私の中に湧き出す、巫女業の合間にネコを可愛がるという妄想を止めることはできなかった。

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