かさぶたの町の下
「今日も空が真っ赤で良い天気だね、島三郎」
ケイは、中心地区から少しだけ離れた場所を抱き抱えた島三郎と散歩していた。
「きゅー♪」
島三郎は、返事したのかどうか分からないが、鳴いた。
戦争の跡の一つとして、大気の組成が若干変わってしまい、空が真っ赤に染まってしまった。そのため、『青空』等の空に関する言葉は、死語になりかかっていた。
「さて、もう少ししたら帰るかな……ん?」
地下通路への入り口が開いていた。
「え……?」
マヤリオコの地下通路への入り口は、全てが瓦礫等で厳重に封鎖されていた。つまり、
「何で開いてるの……?」
不自然なのである。
「きゅー」
突然、島三郎が腕の中から離れ、地下通路の入り口へと突き進んで行った。
「ちょ、ちょっ!?島三郎!?」
呼び戻しても、戻らずに、そのまま入っていった。
「あぁ、もう!」
ケイは、島三郎を追って、地下通路への道を下っていった。
「おーい……島三郎やーい……」
地下通路に、ケイの声が響く。返事はない。
「……何でここ明かり点いてるの……?」
地下通路は、電灯が点き、薄明るかった。
しつこいようだが、地下通路の入り口は、厳重に封鎖されている。電灯が点いている必要性は全く無いのである。
「ガアァッ!」
「!?」
突然、目の前にモンスターが現れた。種類は、
「確か……そう、グールハイエスト!……強敵モンスター……!」
全身の所々に刺々しい鱗が生え、白目を剥き、口はだらしなく開いていた。
「ガァッ!」 「っ!」
グールハイエストは、ケイ目掛けて突っ込んできた。ケイは、慌てて回避して、眼鏡ケースサイズの平べったい箱を取り出した。ぱかりと開けて、その中に腕を突っ込んだ。取り出したのは、
「降魔の剣!」
鞘に収まった、柄が金色の、持ち手が両手で持てる長さの五鈷杵から両刃の剣が生えた物(仏教の『不動明王』が持ってる様なアレ)を取り出した。
素早く箱を閉まい、すらりと鞘を抜き放った。銀色の刀身が見えた。
「悪霊……」
ケイは、剣が体の右後ろに回る様に両手で構えた。グールハイエストが突っ込んで来る。
「退散っ!」
気合い一声、真横に一気に振り抜いた。グールハイエストは、胴体を分断されて、蒼い炎に包まれた。灰一粒残さなかった。
「はぁ……。成る程、封鎖される訳だ……早く島三郎見つけて帰らないと……急ごう」
それから三十分後。
「どこいったの……?しまさぶろー……」
一向に見つかる気配がなかった。その時だった。
……きゅー……
「っ!?島三郎!?」
島三郎の鳴き声が、
「……」
ケイの目の前の梯子があてがわれた穴から聞こえた。
「……この下に行ったの?」
ケイは、恐る恐る穴の中にも降りていった。
カン、カン、カン。
地に足が付いた。
「ふう……下まで着いたのかな?」
ケイが、キョロ、キョロと辺りを見渡すと、
「……!?」
町が、マヤリオコの町によく似た町が、広がっていた。
「な…ん、で……!?どうして!?どうしてマヤリオコの町がここに!?」
……きゅー……
何処からともなく、島三郎の鳴き声が聞こえてきた。
「……島三郎、どこにいるの……?」
ケイは、町へと向かった。
「はあ……はぁ、モンスターが強い……!」
市街地の一角にある、少しボロい家のリビング。
ケイは、モンスターから隠れていた。息が整い始めたケイは、辺りを見回して、
「ここって……私達の家……?」
広さ、家具の配置、家具の種類がほぼ同じだった。
……きゅー……
島三郎の鳴き声が、家の何処から聞こえてきた。
「…………島三郎」
ケイは、家の探索をする事にした。
「……ますます私達の家みたい……」
廊下を歩きながら、そんな感想を述べた。
「……」
一つの部屋の前で止まった。ドアを開け、中に入った。
「私達の家だと、確か……ここに」
タンスの内の一つの前に座り、ガサゴソと一番下の段を漁っている。
「……あった」
見つけたのは、アルバムだった。ぱらぱら、と巡り始める。真ん中辺りまで開いた時だった。そこには、
「……私の写真」
まだ一枚も撮っていない筈の、ケイの写真があった。写真の中で、雑貨屋の面々と笑顔で写っていた。
「きゅー……」
「っ!」
後ろから、鳴き声が聞こえ、脊髄反射の様な速度で振り向いた。そこには、
「……島三郎……よかった、心配したんだよ?」
「きゅー」
ケイは、島三郎をぎゅーっと抱き締めた。島三郎に顔をうずめた。顔を離して、
「さ、もう帰ろう。ここは危ないから」
スッ、と立ち上がった。
アルバムは、戻しておいた。
「あぁ……やっと地上に出れた……!空が赤い……」
ケイが、感慨深く言った。
「きゅー」
「早く帰ろう。二人とも、心配しているだろうし」
一人と一匹(?)は、足早に、家に向かって行った。
(あれは、何だったんだろう……)
地下に広がるあの町に思いを馳せながら、まっすぐ家に帰った。
―続く―
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