木箱の中身
雑貨屋『セルフレスラヴ』にて。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ……うう……えぐっ……」
過剰に封がされた木箱から、泣き声が聞こえた。時々、ガタガタと動く。
そんな過剰梱包木箱を、ニルテと杏奈とケイと店長が取り囲んでいた。
「……で、これを開けろと?」
ケイが、店長に聞いた。
「ああ、何が入っているのか気になるからね」
店長は、さも当然かの様に言った。
「……好奇心は猫をも殺しますよ?……私も気になるし、このままって訳にも行きませんから、開けますけど……って、離れるんですか」
いつの間にか、三人とも箱から距離を取っていた。
「がんばれー」「がんばー!」「骨なら拾うよー」
三人とも、そんな勝手な事をほざいていた。
「もう、どうでもいいやぁ、なるようになれー……」
そう言って、ケイは、傍らに置いてあったバールを手に取る。
「それじゃあ……」
ケイは、釘を抜きまくり、やがて抜き終えた。
「この金属の札はなんなんだ……」
木箱の角に取り付けられた金属の札も、バールで無理矢理ベリベリと剥がした。木箱の封印は解かれた。
「ひぐっ……うぅ」
すすり泣きは、まだ聞こえている。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
ケイは、箱の裏側に回り、蓋を開けた。
「……………………あれ?」
何も出てこなかった。
「すん……すん……」
鼻をすする音が聞こえる。
「……?」
ケイは首を傾げ、恐る恐る箱の正面に回った。後ろに、離れていた三人が着いた。木箱の中身は、
「え……、に、人間……?」
子供だった。
「驚いたよ、中身が人だなんて、ね」
店長が、本気で驚いた風に言った。
木箱の中身の子供は、十代前半で、少年か少女かいまいち分かりにくい容姿をしていた。肩の上の辺りまで伸びた黒い髪が、それを増長していた。瞳は、紅に輝いていた。すっかり泣き止んでから
「助けてくれて、ありがとうございます。私は、キュラノス。エルダーヴァンパイアに属しています」
胸に手を当てて言った。
「えるっ……うそぉ!?モンスターになったら上級モンスターの部類に入る様な種族じゃない!?」
店長がすっとんきょうな声を上げた。
「あは、と言っても、私は、モンスターではないですし、血も吸わないですよ?トマトジュースなら飲みますけど」
キュラノスは、驚かれる事に慣れているかの様な対応を取った。
「ど、どうして木箱のなかに?」
ニルテが、キュラノスに聞いた。
「いや、恥ずかしながら、木箱の中で昼寝をしていたら、あの様に過剰梱包されてしまって……、出られなかったんですよね、正直、とても怖かったです」
キュラノスは、言葉の通り恥ずかしそうに言った。
「それは……、お気の毒に……」
店長は同情した。
「……ねえ、キュラノスは、男の子?女の子?」
杏奈が聞いて、
「男の子でしょ?」「女の子でしょ」「……微妙」 「ん?」「え?」「あれ?」
他の三人の意見が食い違った。
「うふふ、まぁ、そうですよね」
キュラノスは、くすり、と笑ってから、
「私、というより、エルダーヴァンパイアには、性別がないんです。その時に応じて性別を変えられるといいますか……」
「……初耳」
店長がぼそりと言って、
「多分、誰も言わないでしょうから」
「成る程」
店長は、それだけで納得した。
「……それで、これからどうするの?」
ケイがキュラノスに聞いた。キュラノスは、はっとした顔になって、
「……考えてなかったです。……とりあえず、ここって、何処ですか?」
町の説明と自己紹介を終えて、
「成る程……やっぱり、行くあても無いんで、店長さん、ここで住み込みで働かせて頂けないでしょうか……?」
キュラノスの提案に、
「ここでかい?……勿論OKよ。看板と人手が増えるのはありがたいからね」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「ヨロシクね」
「はい!」
キュラノスと店長は、がっしりと握手をした。
―続く―
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