第8話 目堂さんではなく……?
あの日以来、俺と目堂さんはちょっとギクシャクしてる。
今までは教室で目が合ったら会釈くらいはしてたんだけど、この頃はぷいと目をそらされてしまう。こころなしか、例の硬直現象も今までより重くなった気がする。
一度目堂さんに呼び出されていつものように屋上前で話してたんだけど、どうも間がもたない。しまいには、俺たちを見かねて空気を変えようと出てきた大蛇丸がギャクをかまし、それがすべってさらに沈黙してしまうという悪循環に陥ってしまった。
別に避けられてるわけではない……と思うんだけど、俺たちの間には少し妙な空気ができてしまっていた。この前大蛇丸からあんな話を聞いてしまって、俺の中に遠慮する気持ちができちゃってる。せっかく仲よくなれたのに、また距離が離れてしまうのは何とも切ない。
そんなわけで俺はどうにか目堂さんに声をかけようとしていたんだけど、きっかけを見いだせないまま、今日も帰りのホームルームが終わってしまった。
挨拶を終えて目堂さんの方に目をやると、彼女はそそくさとカバンに勉強道具をしまっているところだった。きっとこのまますぐに帰るつもりなのだろう。
目堂さんに声をかけようとして、俺は声が詰まる。最近いつもこの調子だ。まるで初めてあった頃のように、彼女を見るとうまく声が出せない。
そうこうしている間に、荷物をしまい終えた目堂さんはさっさと教室から出ていってしまった。ああ、今日も声をかけられなかった。
「よう九品田、お前目堂に声かけようとしてただろ」
うなだれる俺に、後ろからそんな声がかけられる。
振り向くと、俺の友だちがニヤニヤしながら立っていた。
俺のところに近づくと、俺の肩に腕を回してくる。
「お前、最近目堂と仲いいよな。、まさかお前ら、つき合ってるのか?」
「ち、違うって、そんなんじゃないよ。っていうか、そんなに仲よく見えてるの?」
「そりゃそうさ。目堂が他人に声かけてるところなんて見たことないからな。その目堂が、お前にだけは声をかけてくるらしいじゃねえか。お前、見たことあるんだろ?」
「うん、クッシーに目堂さんが声かけてるの見たことあるよ」
声をかけられた別の友だちがうなずく。
「九品田、お前本当は目堂のこといいと思ってんだろ? あいつ、こっちが身動きできなくなるくらいの美人だもんな」
それが比喩じゃないところがまた何とも言えないところなんだけど。というか、どうあっても俺が目堂さんに気があるってことにしたいみたいだ。
「よし、これからどこか店に寄ろうぜ。俺たちがお前の相談に乗ってやるよ」
「いや、だから違うって」
苦笑しながら勉強道具をカバンに突っこむ。
と、突然ガタガタと机が揺れた。
教室の生徒たちが慌てて叫ぶ。
「な、なんだなんだ?」
「地震か?」
俺も地震だと思い、あたりを見回す。
だけど、地震じゃなかった。
床は揺れず、机だけが揺れていたのだ。
「つ、机が動いてる!?」
「キャアアアッ!」
ガタガタと動く机に、女子の悲鳴が飛ぶ。
な、なんだこれ!? そういえば噂で学校のものが動き出すって聞いたけど、もしかしてそれなのか!?
教室の中には、噂は本当だったんだとエキサイトしている生徒もいる。でも、俺はこの現象をあまり好意をもっては受け止められなかった。何というか、イヤな感じが教室に漂っているような気がする。
と、今度は掃除道具が入っているロッカーが揺れ出した。ロッカーの上のバケツが落っこちてくる。
教室の窓が割れるに至って、怪奇現象だと嬉しそうに騒いでいた生徒たちの表情から笑顔が消えた。教室中に怒声と悲鳴が響き渡る。
え、何? これはいったい何なの? ひょっとしたら目堂さんなら何かわかるのかもしれないけれど、あいにく彼女はついさっき下校してしまったところだ。
こりゃまずいとカバンを持って教室を離れようとした俺だったが、何やら黒いもやのようなものが目に留まった。
揺れていた机や割れた窓のあたりから出てきたそのもやは、教室の中央に少しずつ集まってくる。実に困ったことに、それは俺の席のすぐそばだった。
そして、黒いもやは徐々に人のような形を取り始めた。え、これってもしかしてホントに悪霊とかの類なの?
今や完全に人の形となった黒いもやには顔なんてないのに、俺の方を向くとニタリと笑ったような気がした。
「オマエ、ウマソウナニオイガスルナ」
「え?」
黒い影はそう言うと、俺に向かい黒い帯を何本も伸ばしてきた。
帯は俺の身体をぐるぐる巻きにする。げ、う、動けねえ!
「く、九品田!」
「誰か、早く先生を!」
クラスメイトたちが叫ぶ。って、先生を呼んでどうにかなるの、これ!?
黒い影は他の生徒には目もくれず、俺に話しかけてくる。
「イイゾオマエ、ジックリアジワイナガラクッテヤル」
「や、やめろ!」
いや、これってホントにピンチなんじゃ!? この帯、全然ほどけないし! うそ、俺こんなところで死ぬの!?
「ざけんな、九品田を放せ!」
友だちが勇敢にも影に向かい金属バットで殴りかかる。きっと野球部のか、誰かが個人的に遊ぶために持ってきたものだろう。
だけど、バットはスカッと影をすり抜ける。勢い余った友だちの身体が、不自然な形で弾き飛ばされた。机をなぎ倒しながら、教室の壁に激突する。
「あ、秋津、大丈夫か!?」
「げほっ……」
秋津は低く呻いたまま動かない。ヤ、ヤバい。この化物、本物だ。
「み、みんな、逃げろ!」
俺は思わず叫んだ。自分のことを考えている余裕はなかった。別に善人ぶったわけではなく、単純に自分がどうなるのか、全然想像ができなかったんだ。
クラスのみんなは出入り口の方へと移動しながらも、俺を見捨てられないのか教室から離れようとしない。
みんな逃げろともう一度叫ぼうとしたその時、教室の出入り口の人ごみが割れた。
その間から、一人の少女が姿を現す。
「やれやれ、まったくあなたって人は、世話が焼けるわね」
聞き覚えのある声に、俺は思わず目を見開く。
そこには、とっくに下校してしまったはずの目堂沙夜が仁王立ちしていた。
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