第4話 名前

 どうせタダなので毎度Aコースを選ぶ。日替わりコースの中では一番高いからだ。健太郎もいつも俺と同じ。


 やっと席に着く。ふー。疲れた!

「あ、お茶!」

あまりの疲れにお茶を持ってくるのを忘れてた。

「お前。お茶、持って来いよ!」

目の前に座った健太郎に声をかける。

「お前の番だろ?」

「そんな順番ないだろ?」

 健太郎とどちらがお茶を取ってくるかなんてくだらないことを押し付けあう。健太郎頼む行ってくれ、俺はもう動きたくない。セルフのお茶がある場所はそんなに遠くないがもう動きたくない。


「はい。お茶」

 え? 思わず二度見してしまった。お茶を俺らのテーブルに置いて笑顔で立ってるのは南真冬だった。束ねていた黒髪は今は降ろされている。

「ありがとう! 南!」

 健太郎は軽くお礼を言ってもうお茶を飲んでる。

「ありがとう。南」

 なんとかこれぐらいは言えた。

「ねえ、ここいい?」

 そう言えば南もお盆を持っている。

「あ、ああ」

 反射的に俺は席をずらして座った。と、南はさっきまで俺がいたところ、つまり俺の隣に座った。

「ごめんね。友達がみんな地下でお弁当食べてて。一人で食べるのいつも嫌だったから」

「そうだよな」

 健太郎が南の話に合わせてるけど、俺固まってないか?

「おい、薫。お前早く食べろよ。授業すぐ始まるぞ」

「あ、ああ。うん」

 健太郎はしきりに俺に気を使ってる。俺そんなにヤバイんだろうか。

「東出君って……薫って名前いいよね」

「え? 俺は女みたいだからあんまりなんだけど」

「私真冬って真冬生まれだからだよ。ひねりも願いもなんにもない名前でしょ? その上寒さしか連想できないし」

「え、そうかなあ。可愛い名前だと思うけど」

 あ、あれ、なんかいい感じに話、会話になってないか? 前の席の健太郎は……笑ってるよ、目だけ笑ってるよ。怖いって。

「そう? 本当。薫も確かに女の子っぽいけど、男の子でもカッコいいと思うよ」

「うーん。そう?」

 あれ? なんかお互い名前なんだけど可愛いとかカッコいいとか言い合ってるんだけど。これっていい感じなんじゃないのか? 健太郎の笑いが顔にまで広がって、どんどん怖いんだけど。



 結局、健太郎は笑い顔のまま俺と南で話は続いた。

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