ヤンデレ女神がなんどもなんどもなんどもなんなんなんなんなんなななななななななななななななななななななナナナナな?ナ?な??ナななんども転生させてくる

柳人人人(やなぎ・ひとみ)

0転生目[『俺』が異世界転生した理由 ]

「……っき……×してあげるぅ…………好きっ、んぁっ…………あ、起きた」


 甘い吐息に目が覚めると、裸の女性がいた。

 目と鼻のさきに――――というより、『俺』の身体に這うように裸体が乗っている。美女……、いや美少女だろうか。中性的な顔立ちからは年齢も性別もうまくつかめない。ただ、黒くて長い濡れ髪は女性らしさを感じた。


 ………?


 寝ぼけ眼でゆっくりと、見えるものを処理していく。しかし、なんど同じ処理を繰り返しても、思考が追いつかない。


 ………だれだ?


 長いまつげのあいだから覗く潤んだ眼差し、赤く濡れる唇、白い肌に上気して色づく頬、裸の女体。それらすべて、見覚えがなかった。


「そっかぁ、そういえば貴方から見たらはじめてね。私はエドレンス=エナタール。女神をしているわ。これからよろしくね」


 彼女の指先は『俺』の腕に通る血管を撫でながら上っていき、手を握ってきた。さも当然のように、恋人つなぎだった。握ったというより手を絡みつけてきたと言ったほうが近い。はじめましての握手にしては、えっちというか、あまりに煽情的で強引すぎる。

 女神をのたまう痴女……が現状の最適解かもしれなかったが、そう呼ぶのはいささか早計だった。


 ………ここはどこだ?


 あたりは真っ黒だった。暗くて見えないだけかと思ったら、そうではない。なぜなら、目のまえの女性だけは鮮明に見えるからだった。そこは、果てなく広がる黒色の部屋のような非現実的なもので、とめどなく伸縮を繰りかえしている。窓もドアも見当たらない。ついでに、家具の一つもありはしなかった。


「ここは、私の部屋♡ 天国、とも言えるかな? あ、今日からあなたの部屋でもあるけどね♡」


 とりあえず混乱の中、記憶をたぐる。


 ………あれ?


 決して思い出せないわけではなかった。むしろ、思い出せたからこそ頭に疑問符が浮かんだ。なぜなら、もっとも新しい記憶が『街中を歩いていたとき、突然、トラックが目のまえに現れて……赤い水たまりに、ぐちゃぐちゃになった、首のない自分の体が見えて……』というありえないものだったからである。


 おもわず、彼女の手を振りはらって体を確認しようとした。


 しかし。


 そのときはじめて自身に起きている異常に気付く。


 まず、『俺』も服を着ていなかった……というより、そもそもそこには身体らしい身体もなく、光が波打ちながら流動していた。


 ………なんだ、これ?


 『俺』は目を見開く。いや、そもそもこの状態で目はあるのか? いやそんなことより『俺』の身体はどうなってしまったんだ?


「あ、思い出した? 君は、死んだんだよ♡」


 『死んだ』。

 自分を神と形容し、ここを天国と言った彼女の言葉を、反芻した。信じがたいことだったが、記憶も今の状況も、彼女の言葉も、ぴったりと符合している。


 ………そうか、死んだのか


 不思議と負の感情はわいてこなかった。ただ納得して、素直に受けいれた。


「あー♡ 物分かりがいいね♡ いい子いい子♡」


 ………それで、女神さま。俺はこのあとどうなる?


「ん?」


 『俺』の身体……いや、魂だろうか。それにぴったりとくっついている女神は首をかしげる。


 ………俺はこのあとこのまま消えるのか? それとも、転生して新しい人生……いや生物として生まれられるのか?


 『俺』の言葉に彼女の首はさらに角度をつけてかしげる。………至極真っ当な質問だと思ったのだが


「貴方は消えないし、転生もしないよ?」


 彼女はこともなげにそんなこと言いのけた。………じゃあ、どうなるんだ?


「じゃあ、説明するとね……何から言おうかな? えっと……、あ、そうだ。からだよね! まずは――――



 ――――そう、♥」


 ………は?


!!! !! ♥♥♥ !!! ????? ??? ???? ?? ??? !!! !! ――――



 ――――♥」


 そう言って彼女は笑って、『俺』の身体たましいに舌を這わせる。

 『俺』はたまらず彼女を振りはらった。


 ………逃げなきゃ!


 そのことだけが『俺』のたましいを動かす。

 走って走って走って、これでもかというほど走って。

 しかし。

 どこまでも黒い部屋。なにもない。出口も逃げ道もない。


「もぉー、どこ行くのー? 童心に帰って鬼ごっこー? ……じゃあ私が鬼ね? うふふ♥」


大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き

大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き


 彼女の声を聞いた途端、たましいが裂いて内側から彼女の感情が溢れて出てくる。どんなに走っても逃げても、ソレは『俺』の中に付きまとってくる。


愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる


「愛してるよ、いつまでも、どこまでも♥」


 胸から溢れでる、ヤツの愛情が鋭くて痛くて、たまらず膝をついてしまう。


「あは♥ もう終わりぃー? 次はどんなことするー? 二人でできるのがいいなぁ♥ あ、お医者さんごっことかどうかな♥ とっても楽しい遊びだよ♥ 貴方の内蔵こころを切り出して解剖するの♥ 大丈夫、私ならすぐ治せるし、最初はビックリするかもだけど、だんだん快楽になっていくから♥」


 『俺』は胸の痛みで立ち上がることも声を上げることもできなかった。もう捕まってしまう、『俺』は拳を大きく振り上げて床を殴った。それは悔しさと苦しみからの八つ当たりの行動だったが、ピシリッ……と、床は音をたてた。『俺』は食い入るように手元を見た。


 ―――かすかだが、床が割れてその間から光が差しこんでいる!


 出口!――――瞬間的に、そう思った。

 『俺』はその隙間に指を入れて剥がそうとする。


「  ? 」


 胸に溢れる感情あいじょう。ひん剥いた彼女の目がこちらを見ているのが分かる――――!


「 下 界 に は 行 か せ な い 転 生 さ せ な い って言ったよ ね … … ?」


逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない


 急いで指を手を腕を動かす。

 大きくなる隙間から白い光が入ってくる。そこがなんなのかは分からない。分からなかったが、無理やりその中へ飛び込んだ。


 刺さるような光に包まれて。

 最後に見たものは――――。











「    ♥ 」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る