Action.3 【 わたしのエゴらいふ(笑) 】
――ひと言でいうと、わたしは夫の性格が嫌いです。
「おーい」
階下で夫の呼ぶ声がする。二十五年ローンの
一階の駐車場に置かれているゴミ袋を開けて夫が何か言っている。
「なぁに?」
「家庭ゴミの中にマヨネーズのキャップが入っていたぞ!」
赤いキャップを摘まんで目の前に突き出す。
「ダメじゃないか、これはプラスチックゴミだろ? おまえのゴミの分別はいい加減だ!」
「はーい」
チッ、心の中で舌打ちをする。
ゴミの分別となると妙に神経質できちんと分別しないと気が済まない。そんな性格の夫は、私にとって
結婚して十数年、夫とは社内結婚である。
大手家電メーカーの下請け工場で
かなり厳しい『
家庭ゴミの抜き打ち検査をたまにやる、そして今日は駐車場の家庭ゴミが検査に引っかかってしまった。
「こないだは歯磨きのチューブが混じっていたし、その前はカップ麺の容器だったし、気をつけろよ。おまえはすぐ横着をかますからな」
「はい、はい……」
分かりましたと……。適当に
部屋には娘が私のベッドに寝そべって、携帯用ゲームをやっていた。
「お父さん、ゴミのことになるとウザイわ」
「まっ、お母さんがいい加減だから……」
娘はゲームをしながら、当然みたいな言い方をする。
「うるさいっ、あんたまで!」
日頃、口も
「ゲームなんか自分の部屋でやればいいでしょう」
クッションで叩いて娘を追っ払い、パソコンの電源ONにする。
SNSのマイページを開き、伝言板にきているネット友達の挨拶を読む。ミニメールを開くと私を好きだという、男性からラブメールが……。
(きなこちゃん、元気かい? 僕は今日、仕事でヘマやってちょい
こんな内容のミニメールのやり取りをいい歳こいた中年男女でやっている。この『きなこ』っていうのが私のハンドルネームなのだ。
ネットなんて……と、よくいう人がいるけどバーチャルもなかなか良いもんだよ。
いつも几帳面な夫のせいで、
彼にミニメールの返事を書いた。
(ダーリン♪ 凹んだら、きなこを想いだしてね。いつもあなたを想ってるわよ。チュッ♡)
顔も知らない男女が、仮想恋愛の世界に心を
ふと窓から覗くと、駐車場で夫がきれいに洗った牛乳の紙パックを開いてたたんで紐をかけ、今からスーパーの回収箱に持っていく様子だ。ご苦労さんね。
きちんと片付けないと気が済まない潔癖症の夫は、私にとって
――その日、キッチンでお茶碗を洗っていると、夫が日常のつまらないこと、たとえば、台所の布きんが汚れているとか、洗面所に髪の毛が落ちていたとか、醤油差しが後引きして手に醤油がついたとか……そういう些細なことで愚痴々と小言をいい出した。
その日は月に一度の『女の日』ということもあって、私はイライラしていた。そこへ持って自分的にはどうでもいい様なことでの小言である。段々とお茶碗を乱暴にガチャガチャ洗いだした。
ガンガラガッチャーン!
ステンレス製の洗い桶を投げつけてやった。
フローリングの床に落ちて、それは予想以上に大きな音を立て、夫は
それ以来、夫はわたしの機嫌が悪い時には長々と小言をいわなくなった。あの洗い桶の音は明らかに彼の心に『恐怖心』を植え付けたようだ。
そして、ステンレス製の洗い桶には大きな
しかも、エコライフに真剣に取り組む夫の思いとは裏腹に……実は先日、わざとボタン電池を生ゴミの中に混ぜて捨ててやった。ざまぁみろっ!
私はいつも心にナイフを隠し持っている危険な女なんだよう。と、うそぶいてみせる。
……だけど大事な地球さんに、ご迷惑かける訳にはいかないからね。このエコライフ亭主とはやっぱり別れられないかも。
――それが、あたしのエゴらいふ(笑)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます