いつかこの恋が、

赤梨

終わることを願って。/side.A

 好きな人が居る。


 しかし、想いを告げる気は無い。なんだ、そのままでいいのか?と問われれば、このままで居させてくれるのかと感謝する。変化なんて求めていない。変わらぬことを望んでいる。

 ずっと片想いし続けられたらそれだけで幸せ…とまでは言わない。私はそこまで脳内お花畑ではない。

 ただ、この気持ちを悟られぬまま、片想いを気持ちよく終わらせられたら、なんて幸せなんだろう。何度も、何度も、そんな風に思ってきた。…想ってきた。

 今日こそは明日こそは、と。私は願っているんだ。


 いつかこの恋が、終わることを。






「行きたくない………」


 サイレンのように鳴る目覚めまし時計をガシャンッと止めて、再び布団に潜る。

 時間よ止まれと念じてみたが、おそらく止まってはいないだろう。母親の私を起こす声が遠くから聞こえた。

 あぁ、信じたくない。今日からまた学校だなんて。どうすれば休めるだろうか、どうすれば…という私のドス黒い気持ちとは裏腹に布団の隙間から入ってくる光がとてつもなく白く眩しい。そして改めて痛感する。朝だ。


「起きてるよー!」


 そろそろ本格的に声が大きくなってきた母親に返事をする。

 冗談じゃなく何度かフライパンを叩きながら起こしに来たことがあるので、放置していると何をされるか分からない。

 思い出し笑いを浮かべつつ、渋々と…本当に渋々と布団から出る。

 目を覚ますために窓のカーテンを開ける。眩しい。

 太陽の光を浴びることは健康的で良いとされているらしいが、今の私にはどうやら逆効果らしい。より学校へ向かう気力を奪われた気がする。

 しかし、もうどうしようもない。私に選択肢など無い。

 大袈裟に溜息をついてると、窓からスーツ姿の女性が隣の家の門から出てくるのが見えた。と、同時に胸が一瞬締め付けられた。

 どうやら女性は私には気付いていないようだ。

 時計を見る。朝の7時19分。

 長い髪を綺麗に纏め、如何にもなリクルートスーツということは、どこかへ出勤するんだろうか。社会人とやらはこんなに朝が早いのか。………それに比べて私は。


 遠くなる後ろ姿をぼんやり見つめながら、再び大きな溜息をつく。理由は………特に無い。

 そう、特に、何も、無い。


「………朝ごはん食べよう」


 お腹が空いた。下の階から美味しそうなご飯の匂いがする。予想はついてる。何かの節目の日の朝に決まって作られる料理がある。オムライスだ。

 私の母親はフライパン片手に私を起こしにくることが度々あるが、そのフライパンで作るオムライスは本当に絶品で私の大好物。



 さて、どうして今日はオムライスなのか。

 それは私の高校生最後の新学期を迎えるからだ。



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