大学院生なつみの憂鬱

なつみ@中二病

第1話

理系を選択した最初の理由は、「人とあまり関わらない仕事をしたかったから」だ。


うちは父親の方針で、子供の頃から就職を意識した教育や進路選択を迫られてきた。


確かに計算や物事を理屈で考えるのは昔から好きだったし、数学や理科は得意科目だった。それを鑑みてもやはり理系を選択するのは必然だったが、先に述べた事情もあって仕事を意識した時に選んだ道なのであった。


人と話したり関わったりが苦手だった私は機械やら実験やらパソコンやらに向かって仕事ができないかと考えたわけだ。


そもそも人間と関わらずに生きて行く事も働く事も不可能だということは子供の時分でも理解していた。

それでも少しでも人間と距離を取った職に就きたいと思ったのだ。

接客業なんて想像しただけでも卒倒しそうになる。


女子女子した事が苦手だったという事もある。仲の良い友達もいたけれど女子の型に女子を溶かして流し込んで作られた女子のような女子達の近くにいるのは苦痛でしようがなかったのだ。

一言で言えばあのグルーピング化に耐えられなかったと言っていい。略

そんなわけで、理系クラスに分かれてからはある程度快適な生活を過ごせたと言える


閑話休題


大学院まで進学して研究をやっていて気付いた事は、技術屋は営業職だということだ。

研究っていうのは自分の好き勝手にできるというわけではなく、需要がどこかに必要だ。簡単に言ってしまうとお金の問題だ。

研究費用を工面する為にはスポンサーが必須であり、企業との共同研究


なんかも必要になってくる。

つまり、お金を取ってくる為にはプレゼンが必要なのだ。

もちろん、研究の中間報告や学会の発表で人の前に立たなければならない場面というのはいくらでもある。

しかもさらに、機材の購入や共同研究の打ち合わせ、その他諸々の対人関係。


研究を続ける為には、必然的に人と関わる機会が増えていった。

これでは、なんという本末転倒だ。人と関わる事を拒んで研究に没頭したはずが、研究をすればするほどに、人との繋がりが求められるのだ!しかも大切な研究の時間を割いて。

必然的にバイトをする時間も減っていった。


人前に出る機会が増える。プレゼンテーション、報告会、学会、出張、会食、打合せ、顔合わせ、etc,etc……


人前に出るということはそれなりの身なり(というか見なり)が求められ、結果的に好きでもない化粧は上達した。


これが本当に、子供の頃に私が求めていた研究職なのだろうか。

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