せっかくの異世界なので、重機で闘いましょう!

かえる

第1話 異世界重機バトル、神聖獣騎闘技


        ◇


 高校生活を棒に振った俺が今いる異世界の空は、高く広く青い。

 高層ビルが建ち並ぶわけでもなし、たまにワイバーンなる飛竜を見かけるが、飛行機が行き交うわけでもなし、とにかくは大空だ。


 その大きな空の下では、鉄と鉄とがぶつかり合い火花を散らす、熱い熱い魂の闘技が繰り広げられる。

 斜度のある観戦席が取り囲む屋外の闘技会場。

 そこからは、大勢の観客たちによる熱気ある声援が上がる。

 そんな皆が注目するのは――中央にコンクリ、その外を硬い泥が覆う闘技場リング

 土煙があがる土壌では、異世界人の人間が獣騎じゅうきと称する重機を、俺が駆る。


 俺の愛機『ユンボー』は、日本でパワーショベルとかの呼び名が馴染みの、ドラグショベル=異世界仕様カスタム

 むろん闘う相手のドラグショベルも同じく、あらゆる性能が向上した異世界仕様重機。


 足元にあるペダルを踏み込む。

 何枚もの鉄の板を繋ぐベルトがギュルルルと唸り回る。

 キャタピタの足を持つ下部は10 tトン近い躯体を軽々、そして一気に最高速へと押し上げる。


 猛突進する俺=ユンボーだったが、相手のアームによっていなされる。

 上部躯体の主な機能であり、ドラグショベルの象徴とも言える一本の太い”アーム”。

 機能性も含め、人間の腕に置き換えられる重機のアームには肘や肩となる駆動部分があり、先には手にあたるバケットがある。

 その先端の平たいバケットが先を尖らせるようにして、俺を突いてくる。


「こんにゃろっ」


 操縦席、両手で操る左右のレバーを――ガッガッと傾けるっ。

 ぐるんと、360度回転可能な上部躯体を旋回して、俺も伸ばすアームを使い相手の重機へラリアット攻撃。


 ブン殴り&ブン殴られ。

 重機にできることならなんでもありだが、これが重機バトルの主な闘技スタイルだ。

 そうして、空気を割るような重々しい衝撃音を打ち鳴らし合った後、殴った腕を使いつつの押し合いになる。

 俺の重機の方がパワー負けしたのか、バランスが悪いところへ攻めこまれたのか、機体が斜めへ傾き片方の”キャタ”が浮き上がる。


「ぬおおおっと、マズっ」


 重機バトルの試合の勝敗は至ってシンプルで、どちらかが戦闘不能になる、だ。

 ドラグショベルは一度倒れてしまうと自分の力では起き上がれない。

 だから簡単に言えば、相撲だな。

 しかし、相撲と違うところは――手をついていい。


「うらばっ」


 俺は素早く操作レバーを叩き込み、上部機体を旋回させれば、地面へバケットをつく。

 腕立て伏せの要領で、自分=ユンボーを押し起こす。

 ドシンッと重々しい音を立てて揺れる機内の操縦席。


 操縦者を保護するため、操縦席を満たす魔法の透明な液体『ジェル』があっても、なかなかに重みのある揺れはシンドい。

 相撲のルールでは負けだが、重機バトルでは特に問題ない危機回避で機体を立て直した俺は、すかさず反撃に出る。


 グオン、と後退し間をとったら、ジャキンとアームを前方へ突き出す。

 地面すれすれに真っ直ぐ伸ばすアームに、先は尖らせる三角鉄箱のバケット。

 イメージは槍だ。


「全速突撃!」


 相手の懐――というか、股下に、押し突くようにして手先バケットを挿入。

 人間だと股の下にあたる部分なので、気分的には望ましくないが、対戦相手は男だし遠慮は無用。


 ガリガリ、ガッ、と相手ドラグショベルの履帯キャタ――二つある帯体の間に、重機ユンボーのアームが潜り込んだ。

 状況的に一つしかない腕を、股で抑え込まれた結果となり、相手からは殴られ放題となるのだが。


「ユンボーっ。ここが勝負どころだっ。ブーストいくぞおおっ」


 我が愛機の名をきっかけに、レバーのきわに備え付ける丸ボッチをぐいっと引く。

 駆け巡るパワーの息吹!

 一時的に重機の出力が増々状態になるっ。


「ぬおおおおお――」


 地面を支えにして、先端のバケットから巻くように起こしてゆく。

 アームを引き上げてゆく。

 キャタピラを高回転で回しながら、ぐりぐり、押してゆく。


 それによって、浮き上がってゆく相手の機体。


「一撃いいい必倒おおお、股ぐら返しだおらっ」


 バー―ダンっと土煙を上げて相手ドラグショベルが転倒した。

 もう相手は起き上がれないので、この時点で俺の勝ち。


 会場の拡声器スピーカーから、俺の名で勝利宣言がなされれば、会場には大喝采が起こる。


 異世界人は『獣騎じゅうき闘技』、重機バトルが大好きだ。

 俺がこの喝采を浴びることに不満はない。けど、生きがいにはできない。

 なぜなら俺の生きがいは、ここではなく、今は異世界となった日本の我が家にこそあるからだ。


 俺は次の闘技のため、相手のドラグショベルを引き起こしてから整備テントへ向かう。

 キュラキュラ足を鳴らし、操縦席を囲む窓の一つを引き上げた。


 操縦室のぷるんとした不思議液体『ジェル』から、そこそこに良い男の顔であるはずのそれがのぞく。

 あえてボサる髪を、でてくる風が気持ちいい。

 そして、見上げる日本と同じ青さを持つ空に想いを馳せる。


「『どきどっきんパラダイス』……」


 国民的恋愛シミュレーションゲーム、略称『どきパラ』。

 俺のすべてあり、俺が愛してやまないギャルゲを、どう足掻いたところで異世界ここではプレイできない。

 だったらやっぱり、俺は何がなんでも日本へ戻るしかないだろうよ。

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