第3話 第二幕ノ一
【第二幕】
山田が立っている。山田の背後には黒板或いはホワイトボードが裏向きに置かれている。
山田「神崎美穂、高校2年生。今年の4月に17歳になった。彼女はモテる。
それに付随する情報としてあげておきたいのが、彼女に携わった特殊能力のことであろう。
彼女について特筆すべきは、彼女のその【影響力】なのだ」
山田「ここからは少し話が長くなる。そこで島村部長にならってポーズをキメながら話させてもらいたいと思う。全く、俺は普通の男子高校生っていう【設定】が台無しじゃあないか」
山田「神崎美穂を知ってもらうために、こんなエピソードを紹介しておこう。
去年の9月にあった体育祭。そこでも彼女のカリスマ性は発揮されていた」
山田、黒板或いはホワイトボードの表側を向ける。
以下のセリフの説明の内容がわかりやすく書き込まれている。
山田「うちの高校は8月の夏休み期間中に体育祭実行委員会を中心に、準備が行われる。パネルを作ったり、ダンスの練習をしたり。全く、青春真っ盛りの大事な時期をなんだと思ってやがるんだ。体育祭の本番というと、全学年、全クラスをA、B、C、Dの4グループに分けて戦い、各種目での合計得点を競う。ちなみに俺たち1年1組はAグループだった。さらに、クラス毎の得点を競い合う、クラス対抗戦なんかもあり、そんな熱いバトルが繰り広げられる、そんなイベントだ。
で、去年の夏休みといえば、神崎が最も男をとっかえひっかえしていた時期だ。もてもて全盛期だ。と、そんなエピソードはどうでもよくて。
閑話休題。
で、だ。クラスの中には体育祭やらのイベントには消極的な奴ってのはいるものだ。俺たちのクラスもそうだった」
山田の話の途中でジャージを着た生徒達が現れる。
場面は教室9月の体育祭前。
教室でみんなガヤガヤと喋っている。
藤村「みんな、ちゃんと真面目に意見を出してよ!」
みんながやがやと喋って藤村の話を聞かない。
藤村「ちょっと、協力してよ。これじゃあ、体育祭までに間に合わないよ」
山田「俺達のクラスは体育祭において、Aグループのでっかいパネル作りの担当だった。パネルっていうのは、各グループを代表するでかい看板のことで、美術的センスも必要とするし、なによりも、絵を描くための人手がどうしても必要だった。で、俺達のクラスの体育会実行委員が藤村で、クラスのしきりをやっていたわけだ」
女子1「間に合わないったって、こっちもね、体育祭のダンスの練習があって忙しいんだよ」
女子2「そうだよ、私だって塾で忙しいし、こんなのはっきり言って、ヒマな人だけでやってって感じ」
男子たちもふざけて話を聞かない。
プロレスごっこをやっている男子もいる。
英単語帳を開いて話をそもそも聞く気がない輩もいる。
みんな思い思いの事を言う。
困り果てる藤村。少しだけ泣きそうになる。
藤村「みんな、話をきいてよ・・・」
神崎「ったく、しようが無いわねえ」
そう言って立ちあがる神崎。
神崎「あんたたち、ちょっと『黙りなさい』」
神崎の言葉に世界が圧縮される。
どくん、と世界が脈打ち、クラス全員の動きが止まる。
神崎「そう。いい子ね。ふう、楽にしてていいから、あたしの話を『聞きなさい』」
力なくその場に座り込む生徒たち。
山田「そこから、神崎の演説が始まった!」
神崎「あんたたち、恥ずかしくないの? ガキじゃあないんだから。人の話くらい聞きなさいよ。あんたちだってタイヘンなのはわかるけどさ、委員会の仕事やってる奴だってタイヘンなことくらい、あんたたちだってわかるでしょ?」
山田「そこからなんやかんや理屈をこねてクラスを説得した神崎。と、途中から話の方向性が少しずつ変わってきた」
神崎「あんたたち、そんなんじゃ他のクラスに勝てないわよ。青春は一度きりしかないのよ! ぼうっとしていても、一生懸命やっても、同じだけ時間はなくなる。だったら、おもしろいことをやった方がいいに決まってるじゃない! 体育祭、やるからには、勝つわよ!!」
山田「何故か拍手が起きた」
藤村「・・・神崎ってそんなイベントに積極的なキャラだったっけ?」
神崎「別に。あんまりあたしのキャラじゃないけど、でもあたしは、『負けるのが嫌い』なのよ!」
山田「言ってしまった」
神崎「それに、藤村が困ってるのに、黙って見過ごせるわけないでしょ・・・」
藤村「神崎・・・」
山田「なんだかんだで、友達想いの奴なのだ」
クラスの奴らと神崎、山田の説明中に体育祭の再現。
無声演技で騎馬戦とかやってる。そこに何故か本拓が混じっているが、気にしない。
山田「ともあれ、有言実行。その言葉を体現してくれる奴が現れるとは思ってなかった。
神崎は『有限実行』を溶かして人間の型に流し込んだような女だった。
あいつの言葉にそそのかされたうちのクラスはあろうことか、勢いあまって、体育祭で優勝をしてしまったのだ。
神崎はさながら戦場の兵を導くジャンヌダルクのようだった。いや、ジャンヌダルクが何をした人物かも知らないんだけども。
あのときは、イベントごとに消極的で普段からやる気のない俺でも、熱くなってしまったものだ。
影響力。そんな生まれながらにして他人を奮い立たせるようなそんな逸材が、数年に一人はいるものだ。──回想終わりっ!」
山田「ってことがあったよなあ」
クラスのみんな、騎馬を作ってはける。
神崎が先頭を走っていく。
藤村「山田くん、よく覚えてたわね」
山田「まあな。印象的な出来事だったし」
藤村「あたしもあの時は取り乱してしまってお恥ずかしい」
山田「あ、藤村、ジャージはもういいから」
藤村「あ、はーい」
藤村が素早くジャージを脱ぐと、中には制服を着ていた。
本拓が現れる。黒い上下のスタッフ服で、背中には「スタッフ」と書いてある。
藤村、ジャージを渡す。本拓、受け取る。
本拓、ちょっといやらしい顔。
ジャージを持ってはける。
匂いとか嗅いでそうな感じ。
ちょっと怪訝な顔をする藤村。(ここのくだりは素早く終わらせましょう。)
藤村、気持ちを切り替えて、話し始める。
藤村「なんか、あの子って不思議なのよね」
山田「え、今のスタッフ?」
藤村「じゃなくて!」
山田「ああ、神崎のことね」
藤村「うん。あの子が発する言葉には重みがあるっていうか」
山田「まあ確かに、あいつには逆らえないところがあるよな」
藤村「まあ、そういうのもなんだけど。なんか、周りを引き込む力があるよね。顔がかわいいのもあるけど」
山田「そうだな。まあ、あれ以来、神崎がさらにモテるようになった気がするけど、触れないでおこう」
藤村「そうだね。モテモテ全盛期を助長した事件でもあったね。はあ・・・あの子にモテエピソードを聞かされまくって、ちょっとノイローゼ気味になったわ」
山田「マジかよ」
藤村「あいつ、ほんっとにモテるからなあ。最近は大人しいみたいだけど」
山田「ふーん」
藤村「ねえ山田くん」
山田「ん?」
藤村「山田くんはやっぱり、神崎がモテたら、嫌?」
山田「え、なんだよそれ」
藤村「いや、山田くんって神崎のこと好きなのかなあって」
山田、ゲホゲホとせき込む。吐きそうになってビックリ!
藤村「ちょっと、大丈夫!?」
山田「大丈夫じゃねえよ。そっちこそ大丈夫か? 何わけのわかんないこと言ってるんだよ」
藤村「なんか見てて、そう思っただけで。最近ずっと一緒にいるし」
山田「べ、別に、俺達はそういうのじゃないし。ていうか、もしもそうだとしても、俺なんかじゃ神崎とつり合わないっていうか」
藤村「ふーん。つり合わないのは、そうかも知れないね」
山田「フォローなしかよ」
藤村「なんてね。でも、つり合うとかつり合わないとか、関係ないと思うよ。大切なのはお互いの気持ち。お互いに好きなら、関係ないと思うよ」
山田「藤村さん・・・」
藤村「うん。山田くんみたいな普通の、ありふれた、平凡な男子でも、神崎みたいな美人で、学園のアイドルで、モテモテの女子のこと好きになっても、なんの問題もないと思うな」
山田「それ、フォローになってないんだけど。追い打ちかけちゃってるんだけど」
藤村「ごめんごめん、冗談だよ。ということは、犯人の自白成立ってことでいいかな?」
山田「え?」
藤村「山田くんは、神崎のことが好きってことだね」
山田「はあ、もういいよ。それでいいよ。勘弁して下さい」
藤村「でも、脈ありだと思うよ。神崎って、山田くんのこと気になってると思う」
山田「はあ? 俺はただのシモベとかアッシーくんとか、ベンリーくんとか、そういう扱いを受けていますけど」
藤村「だって神崎が素のままでこんなに長時間いっしょにいる男子なんて、今までいなかったもの。あいつ、プライド高くて格好つけたがりだから、人にいいとこばっかり見せようとしてるのよね。それがさらに神崎美穂の像を美化して、モテモテに拍車がかかってる気がするのよね」
山田「へー。なんか、藤村さんって神崎のことよく知ってるんだな」
藤村「まあ、腐れ縁だからねー。で、腐れ縁のあたしのひとり事」
山田「ん?」
藤村「私は、神崎には山田くんみたいな人がお似合いだと思うな」
山田「はい?」
藤村「神崎がありのままでいられる、自分自身を見せても安心できるような、山田くんみたいに優しい人と神崎が付き合ったらいいのになー、と思うのでした」
山田「うーん、うれしいような、うれしくないような」
藤村「喜びなよ。神崎だって、山田くんのこと、嫌いじゃないと思うな。だって、ずっと傍に置いてるじゃない」
山田「だから違うんだって。あいつが俺を傍に置いてるのは──」
そこに制服姿の神崎が現れる。
神崎「ただいまー」
藤村「あ、神崎おかえり」
山田「どこ行ってたんだ?」
神崎「へえ、山田って女子がトイレに行くのを訊き出して妄想するような大変な変態だったわけね。軽蔑するわー。最低だわ。もうあんた、生きてる価値ないわー」
山田「藤村さんっ、Sなんですけど、この人は鬼畜的にSなんですけどーっ!?」
藤村「うーん、ノーコメントで」
神崎、優雅に髪の毛を手でさらっと払い、優雅に椅子に座る。
神崎「お茶」
手のひらを差しだす神崎。
山田「なんだよ、この手は」
神崎「あんたってほんとに無能ね。バカね。理解力も学習能力もないわねー。喉が渇いたからお茶買って来てって言ってるの」
山田「知るかよ。自分で買いにいけばいいだろ」
藤村「お、下剋上!?」
神崎「もう、あたしのシモベのくせに使えないわねえ。しょーがないからお願いしてあげる。
『お茶を買ってきて、お・ね・が・い』」
ぐん、っと世界が圧縮される。
びくん、と体がはねる山田。
山田「ちくしょー、それ使うの卑怯じゃね?」
神崎「それって何よ。あたしはただ、お願いしてるだけなんだけど?」
山田「はいはい、わかりましたよ、買ってきますよー」
神崎が「パン」「牛乳」「シャーペン」「シャネルのバッグ」
と言う度に山田が「はい」「はい」と言って高速で出て行って高速で買って帰ってくる。
神崎「御苦労」
山田「いっぺんに頼めよ!」
神崎、山田に無理難題をアドリブで押し付ける。
山田、なんとかがんばってやろうとするが、できない。
山田「できるかっ!」
と、そこに持杉が現れる。
何人かの手下をひきつれている。
持杉「やあ神崎さん、ごきげんよう」
神崎「あら、クラスの人気者で、成績優秀、スポーツ万能、顔はそれなりかも知れない持杉くんじゃない。ごきげんよう」
持杉「違うよ、神崎さん。クラスの人気者で、成績優秀、スポーツ万能、顔はかなりのイケメンで、さらに言うなれば超モテモテの持杉だ」
神崎「あら、それはごめんなさい。クラスの人気者で、成績優秀、スポーツ万能、って、このくだり、まだ必要かしら?」
持杉「え、やめるんだ」
神崎「続けたいんだ」
持杉「もういいか」
神崎「もういいよ」
藤村「なんか思ったより仲良しだなこの二人」
持杉「さあ、本題に入ろうか、神崎さん。僕の交際の申し出、受けてくれる気になったかい?」
神崎「いつの間にデートの誘いが交際の話にまで膨れ上がったのか知らないけれど、どっちにしろあたしの答えは『ノー』よ」
持杉「そんな風に強く断られてしまうと、逆に燃え上がってしまうなあ」
神崎「ところで、彼らは何者なの?」
持杉「もちろん、君にならって僕も手下を持つことにした──というのはもちろん冗談で、彼らは君のことが好きすぎて告白をしに来たナイスガイたちさ」
神崎「ほんと、美しいって罪・・・」
藤村「ほんと、なんでこいつがモテるのか、謎すぎる!!」
持杉「さあ、君達、かぐや姫よろしく、神崎さんに求婚してことごとく振られるがいい!」
野郎ども、神崎に告白する。(本拓がいるのもあり)
神崎、無理難題をふっかけ、野郎どもは答えようとする。
体を張ってがんばったが、結局むり。
野郎ども、全滅。
持杉「しようがないなあ君達は。本当にふがいない。それでは、この僕自ら神崎さんを口説き落とすとしよう」
持杉、くさいセリフを並べて神崎を口説き落とす。
が、神崎には全くきかず、逆に無理難題なふりをされる。
無茶ぶりの神崎の異名があるとかないとか。
アドリブで返すが、全く笑わない神崎。鼻で笑う。
持杉、撃沈。
藤村「Sすぎるわっ!」
持杉「ふ、さすが神崎さん。僕にこんなことまでさせるとは、おそろしい限りだよ。だが僕は、君を決して諦めない! よし、帰るぞ、野郎ども!」
ぐだぐだのまま帰って行く男たち。
持杉「僕は絶対に君を諦めないからなーっ!!」
神崎「はあ・・・退屈」
藤村「ひどいなおい」
神崎「ねえ山田」
山田「え?」
神崎「焼きそばパン買ってきて」
山田「えっ!? まだなんか食うのかよ」
神崎「文句ある?」
山田「ないよ。はあ・・・」
山田、舞台上を走ってくるっと一周する。
神崎と藤村がはける。
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