第5話
光から解放された俺は、自分に起きている異変にすぐ気が付いた。
なんていうか、こう——目線がいつもより低い。それに、下半身がスーっとする。自分の体を見てみると、俺はオレンジ色と白を基調にした可愛らしい服を着ていた。それも結構短いフリフリしたスカートを履いている。おまけに今の身長の丈程の魔法の杖まで持ってるし。
「な、なんじゃこりゃあああああああああああああ!」
「おー、なかなか可愛らしくなったじゃないか」
「えっ、嘘だろ?マジで女の子になったの!?」
いつもより声が高いし、まさか本当に……?いや、でもまだそうと決まったってわけじゃない。声は高いしこんな恰好してるけど、身長が縮んだだけで変わってない可能性もある。
そして、それを確かめる方法はいくつかある、けど……
「少年、普段いくらまじまじと見れないからって自分の、それも子供のおっぱいを見つめるのはちょっと……」
「違うわ!変な誤解するな!」
とはいえ、これからすることはそれより酷いんだけど。
俺は恐る恐る自分の胸に手を置いた、なんというか——柔らかい。揉めるくらいの大きさがあるのも驚きだ。
そして次に、スカートをそっと捲った。純白の布ともちもちしてそうな太ももが顔を出している。
俺は震える手をゆっくり股の下へと持っていく、正直変身してから股間に違和感があるのだが、それでも慎重に太ももの間に手を入れた…………
触った感触に俺は思わず膝を突き、両手を地につけた。
「今の行動、とても卑猥に見えてちょっと興奮したよ少年」
「うるさい、ちょっと落ち込んでるから黙ってろ……」
なんてことだ、本当に女の子になってる!なってしまっている!!
信じられないし信じたくないけど——触っちまった感触が忘れられない!!女の子のアソコってああなってるのな!初めて知ったよ!!
「さぁ!魔法少女になったことだし、バクを倒そう!」
「倒すってお前、どうやって……」
「そんなの魔法に決まってるじゃないか!君は魔法少女だよ?ま・ほ・う・しょ・う・じょ!」
うぜぇ、この長い杖でゴルフみたいに殴り飛ばしてやりたい。だが、今は愛華ちゃんを助けるのが先決だ。ここは我慢しよう。
「で?その魔法はどうやったら使えるんですか?」
「アフターグローが君と契約した時に、君の性格や深層心理などにアクセスして、それに因んだ魔法を、自身の使い方と一緒に君の脳内にインプットしている。だから何をどうすれば魔法を使えるかは、もうすでにわかっているんだ」
そんな漫画のご都合主義みたいなことを今朝ぶっ倒れた時にされていたのか。
でも、言われてみれば確かに、俺はこいつの使い方を何故だか知っている。まるで小さい頃に教わったことみたいに、頭が知っている。
でもついさっきまでは知らなかったよな?でも——あれ、知ってたよな??でもこいつと会ったのは今朝が初めてで……アフターグローのことや魔法のことは昔から……
「うっ」
「ちょっ、何吐きそうになってるの!?」
「悪い、知識と記憶の矛盾に気持ち悪くなって……」
「植え付けられた知識で吐きそうになる魔法少女なんて初めてだよ」
ダメだ、余計なこと考えない方がいい。記憶は記憶、知識は知識、変に結びつけたりしちゃいけない。
吐き気をなんとか抑え込み、改めてバクを見据える。やっぱりデカい、こんなのと今から戦うのか……でも、戦えるのは俺だけだ。それに愛華ちゃんも助けないと。
「よし、じゃあ行ってくる!」
「ガンバレー!」
俺は中庭に飛び出して力強く地面を蹴った。それだけで、俺の体は20メートル超もあるバクを軽く超えるほど飛んだ。これもアフターグローに備わっている飛行機能のおかげだ。
上空から見下ろすバクもやはり迫力がある、下からではわからなかったが、朝顔の花は三つあり、それぞれ色や向いている方向が違う。きっとこれが顔の役割をしているのだろう。
校舎も所々破壊されていて、近くに瓦礫の山が見える。奴に捕まった女子はざっと20人以上、そのほとんどが直視できないような姿になっている。もちろん愛華ちゃんも。
「待ってて立花さん、今助けるから」
杖に姿を変えたアフターグローを両手に持ち替えて、狙いを定める。
「いくぞ、アフターグロー!」
「
「うおっ!?あっ、お前喋れるんだな。言語は意味不明なのに意味がわかるとか……いや、今突っ込んでる場合じゃない」
気を取り直して俺は意識を杖と頭に集中させる。俺が得た知識によると、魔法とは自分の望みを魔力というエネルギーと魔法式というプログラミングで実現させる技術だ。
俺の頭の中には、アフターグローから得た魔法式がある。それを頭の中で組み立てながら意識を集中させる。
すると、俺を中心にオレンジ色の光で描かれた記号やマークが浮かび上がり、よくアニメなどで見るような魔法陣となっていく。これが所謂魔法式だ。
準備はできた、俺は発動のトリガーとなる魔法の名前を唱えた。
「プラントマター・フュージョニウム!」
それと同時にバクと校舎の瓦礫の下に魔法陣が現れ、上に向かって回転しながら二つに分裂した。
上下に魔法陣で挟まれた瓦礫は内側に吸い込まれるようになくなり、バクの体が光を放ち始めた。
朝顔のシルエットが徐々に角張っていく、そして光が弾けように消えると、そこには植物とコンクリートや鉄の中間のような朝顔に姿を変えていた。
「…………あれ?」
どういうことだ?魔法は成功したみたいだけど、なんかダメージを受けているようには見えない。むしろパワーアップしている気がするんだけど。
『これはまた、珍しい魔法を習得したね君は』
離れているはずのマーチの声が耳元で聞こえてくる。アフターグローには持っているだけで無線として機能するシステムがあるみたいだけど、これはそれの影響か。
「どういうことだよ」
『君が使ったのは“融合魔法”と言って複数のものを一つにする魔法で、習得している人が殆どいないとても珍しい魔法なんだ』
「そんなマイナーな魔法なのか、ていうかアフターグローは俺の性格とかを読み取って魔法をインプットしたんだろ?俺に融合要素なんてあったか……」
『僕も気になって調べてみたんだけど……君が愛華ちゃんを助けることを意識してたからなのかな?どうやら君が昨夜見た愛華ちゃんの夢に反応したようだ。どうせあの子と一つになりたいとか思ってたんだろう?』
「違うから!昨日は立花さんとデートする夢を見ただけだから!」
確かに恋人同士になればそういうこともするだろうけど、昨日は純粋にデートするだけの夢だったから!アフターグローも変なとこから魔法に繋げてくるな!
「いやそれよりも、何かと何かを融合させる魔法とか、なんて使いにくい魔法だ。こんなので勝てるのか?」
『むしろ自分で難易度上げてる件について』
「わかってるよそんなこ——うわぁ!?」
俺は会話の途中で襲い掛かってきたコンクリートのツタを紙一重で回避する。だが攻撃は一度だけじゃない、続けざまに何本ものツタが俺に向かって飛んでくる。
「なんで突然襲ってきたんだ!?」
『それはほら、君が美少女だからだよ。このバクは触手攻めにされている女の子を見ることが目的だし、的が目の前で浮いてたらそりゃ捕まえようとするに決まってる』
マーチの言葉に俺は悪寒が走った。もし、このままこのツタに捕まったら、俺もあんな目に合うのか!嫌だ、それだけは絶対に嫌だ!何が悲しくて怪物にいやらしいことをされなくちゃならないんだ!!
「とにかくこいつを倒さないと。融合、融合……何を融合させればアイツを倒せる!?」
止まらないツタの攻撃を飛行しながら回避し、自分の周りを見渡す。
考えろ俺、アイツは今植物であって植物じゃない。きっと燃やそうとしてもコンクリートや鉄で出来ているから引火はしない。それに愛華ちゃんたちも捕まってる、それも考慮して戦わないと。
でも、どこを見てもロクなものがない。校舎にプールに体育館に、校庭の砂とか木や草は使いようがない。この中にあるものじゃアイツを倒すことなんて……
「待てよ、今のアイツを倒せないなら、もう一度変えればいいだ!」
俺はツタが届かない高さまで浮上し、そこでもう一度魔法陣を展開する。
融合魔法は二つの性質や形を一つにする、それをどう融合させるかは俺自身で決めることもできる。
さっきは何も考えずに式を組み立てた所為で全部ランダムになったけど、今度は違う。それにもう一つわかったのは、対象となったものには融合素材と融合元が存在するということ。
「ウォータープラント・フュージョニウム!」
魔法名を唱えてバクと屋上にあるプールの緑色になっている水を選択する。
上下に分離した魔法陣に挟まれたバクは、内側に吸い込まれるようにして姿を消した。
融合素材となったものは吸い込まれるように消えてなくなり、融合元となったものがある場所で融合する。それによって、対象外である捕まっていた女子たちはバクから解放される。
だが、ツタに捕まっていた人たちは空中で拘束されていた。よって空中で解放されてしまうが、もちろんそれも見越している。
「ダブルプラント・フュージョニウム!」
次に融合させるのは、中庭の芝生と木々。魔法によって溶け合ったことよって、中庭は一面木の葉のクッションとなった。
融合に成功した時には地面に激突するまで5メートルもなかったから正直ヒヤッとしたけど、なんとか成功した。後はアイツを倒すだけだ!
俺は屋上のプールサイドに降り立つと、バクはプールの中から現れた。俺の魔法でプールの水と融合し、全身が水分で出来た巨大な朝顔になっていた。こうなればもうこっちのものだ。
「さて、これでトドメだ!」
杖を構えて魔法を準備する俺に向けて、バクは水となったツタの束を一斉に振り下ろした。だがそれより俺の方が速く魔法を唱えた。
「サンダーロッド・フュージョニウム!」
プールを照らすライトと自分の持っている杖に魔法陣が現れる。素材にする魔法陣をライトに選んだが、俺がほしいのはライトじゃない。そのエネルギーとなる電力だ。俺は迫ってくる水の塊に向かって、電撃の杖となったアフターグローを叩きつける。
「くらえ、ライトニングアタック!」
杖がバクに接触した瞬間、爆発するかのように放電が起きた。あんなにも巨大だった水の朝顔は、一瞬にして弾け飛び、蒸発した。
電撃を全て発散して煙を上げている杖を軽く振り——ちょっとカッコつけてみる。まさかあんなに上手くいくとは思わなかったから、今すごい満足感に浸っている。これで幼女の姿じゃなければなおいいんだけど。
「
「アフターグローもお疲れ、助かったよ」
「
「さて、愛華ちゃんは無事だろうか、あの時すごいギリギリだったから心配なんだよね」
俺が中庭に戻ろうとした時、プールの方でキラリと光る何かを見つけた。
「ん、なんだあれ?」
水がなくなったプールの底には、ウチの制服を着た男子生徒と金平糖のようなものが落ちていた。この男がバクを生んだ奴だってことはなんとなくわかるけど、これはなんだ?発光してるし、これもバクに関係しているのか?
「ってそうだ、愛華ちゃんだ愛華ちゃん!」
光る金平糖のような何かをとりあえず懐に入れて、屋上から中庭へと降りた。
魔法の効果が切れたのか、芝生に戻っている中庭には捕まっていた女子生徒たちが助かった喜びを分かち合いながら乱れた服を直していた。その中にも愛華ちゃんがいた。良かった、どこも怪我してないみたいだ。
俺が安心して見ていると、それに気づいた愛華ちゃんがこっちに向かって走ってきて——
「ありがとう!」
「!!?」
な、何が起きてるんだ!?あの愛華ちゃんが、俺に「ありがとう!」って言いながら抱き着いてきた、だと!?しかも中途半端に身長小さいから胸が顔に……!う、嬉しい、すごい嬉しい!——でも、全身が熱くなって頭クラクラしてきた、俺には刺激が強すぎる!
愛華ちゃんの声で他の女子生徒たちも俺のことに気がついた。そして、同じようにお礼を言いながら俺に触れてくる。
「ありがとう、助かったよ!」
「なんで宙に浮いてたの?」
「しかも超可愛いんですけど!」
「見てみて、赤くなってる!可愛い!」
「ねぇ、名前なんていうのー?」
「えっと、あの、その……!」
あ、あの皆さん?確かに嬉しいのはわかりますし色々聞きたいことがあるのはわかるんですけど——せ、せめて、ボタン留めたりスカート履いたりしてからお願いします!さっきから下着がチラホラ見えたり触れたりして………!うわああああダメだ!ここに居ては俺の精神が持たない!行こう、もうどこでもいいから行こう!
「そそそそそれじゃあ皆さん、お元気でええええええええ!」
俺は女体の群れから抜け出して、無我夢中で学校から離れた。途中でマーチの声が無線で聞こえてきたが、それすら耳に入っていなかった。
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