第1夜 泡坂妻夫を知ってるかい?
(ご注意)このエピソードは拙作『カクヨム廃人 第15話』に加筆訂正したものです。でも言いたいことはほとんど同じですので、あっちを読んだ方は読まなくていいかな。でもギャグが増えているかもよ。
日中、大昼寝をしてしまったせいか、睡眠薬が効きません。なのでまた、無駄話をします。おヒマな方はお付き合いください。この前の夜中の続きです。
僕は創元推理文庫に他の文庫レーベルとは違う感情を持っている。この、書店の文庫コーナーの端に追いやられている文庫には、他の文庫にはない、ワクワク感がある。ノスタルジーがある。すぐに日焼けして薄くなる肌色の背表紙、ああこれは日本人作家の背表紙の色ね。僕は、ミステリーと言っても日本人作家の作品しか読まないんだ。外国人作家はダメ。生理的に受け付けないの。
話がずれた。そう、あの肌色の背表紙を見ると、ゾクゾクする。みんな、名作に見える。
『創元推理文庫方式』という言葉をご存知だろうか。一見、何のつながりもない短編集がラストの一章で一つ一つの短編につながりがあり、大きな一冊の長編だったことがわかるという仕掛けだ。戸川安宣さんという、往年の名編集者が好んだ方式だ。加納朋子『ななつのこ』倉知淳『日曜の夜は出たくない』若竹七海『ぼくのミステリな日常』などが代表作だ。(いずれも創元推理文庫)
今回、ご紹介したいのはその方式は使っていないけれど、創元推理文庫に著作が多く収録されている。泡坂妻夫さんだ。(筆名の"泡"の旁は正しくは“己”ではく“巳”)
泡坂さんは泉鏡花賞を受賞した「折鶴」、直木賞を受賞した「蔭桔梗」などの人情物のイメージが強かったので、僕はミステリー作家だという印象が全くなかった。それが、ある時、当時勤めていた書店で、創元推理文庫のフェアをやることになって、商品を並べているうち、泡坂さんの名前を見つけ「えっ? 泡坂妻夫ってミステリー作家なの」と無知な僕は驚いた。その時の作品が『亜愛一郎の狼狽』とそのシリーズの『亜愛一郎の転倒』と『亜愛一郎の逃亡』三部作だ。未読の方がいると困るので詳細な説明は避けるが、のんびりやでどこかぼーっとしているカメラマン、亜愛一郎が事件が起こると明晰な頭脳を働かせ、解決に至るという連作短編集だ。謎の老婆というシリーズを通して縦につながる謎もある。老婆の正体は最後まで読むとわかるという仕組みである。泡坂さんがミステリー作家だった事実を知ったおいらは三冊まとめ買い。早速読んだ。そしてラストに明らかになる結末にびっくりして、泡坂さんを気に入ってしまった。その後『奇術探偵 曾我佳城全集 』などを立て続けに読んだ。だが、泡坂さんの著作は絶版が多い。なんとか復刊させて欲しいものがいっぱいある。でもお金がないから買えないか。とほほ。
泡坂さんはマジシャンとしても有名である。その彼がマジックのように作った本が二冊ある。『しあわせの書〜迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』と『生者と死者〜酩探偵ヨギ ガンジーの透視術』の二冊である。『幸せの書』は本自体に仕掛けがあって、それを知った時の驚きは半端ない。でも本文をよく読まないと、仕掛けに気づかないこともある。『生者と死者』はもっと図抜けている。本が何ヶ所も袋とじになっていてそのまま読むと短編小説になっている。そして、袋とじを開けるとあら不思議、短編小説が長編小説の一部として取り込まれてしまうのだ。この本は長らく絶版状態だった。生前の泡坂さんのインタビューによると、この本を製本できる製本屋さんが店をたたんでしまって、もう作れないということだった。なので長らく幻の本とされていた。ところがここにきて奇跡の復刊がなったのだ。新潮社えらい! あっ、いけねえ。ここはKADOKAWAのサイトだった。でも勘弁してほしい。これは出版業界にとっても喜ばしい事件だからだ。僕ももちろん購入した。でも、袋とじを開けるのがもったいなくて未読のままだ。もう一冊買えればいいんだけど、お金がない。
おいらには不満がある。この二冊は『ヨギ ガンジーシリーズ』なのだが、その第一巻の『ヨギ ガンジーの妖術』が復刊されていないのだ。これは片手落ちだよ新潮社さん。出せないなら角川文庫に権利を譲りなさい。
こうしたトリッキーな本を出していた泡坂さんだが2009年に突然亡くなってしまった。残念だ。まだまだアイデアを持っていたと聞く。天国で思いっきりトリッキーな本を出していて欲しい。おいらもすぐに見に行きますよ。
さあ、かっぱくん。夜明けだ。鴨南蛮が食べたい。至急支度してくれ。えっ、狩りに行かなきゃカモがないだと。カモはネギ背負ってやってくるものだぞ。
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