第108話 ギミチョコ‼︎ Gimme Chocolate!!

 ファストフード店で食事と言ったらいかにも高校生らしく見えるだろうが、我々の場合こういうチャンスでないとなかなか普通に高校生らしい経験を楽しめなかったりする。

 家族で外食となればそれなりの店ばかりなので、実はこういう学生らしい店に入るのが結構高校生ライフを楽しんでいるというステイタスだったりする。


「あー、そういえばさ。桐島さんと十一夜君ってその後どうなってんの?」


 むぅっ。その話題はムカつくから話したくないなぁ。

 友紀ちゃんにもわたしにも関係のない話だと思うんだけど?


「そうそう。わたしも気になってたんだぁ。て言うか夏葉ちゃん、このままでいいわけぇ?」


 むむぅっ。楓ちゃんまでその話題に食いつくか。ていうかなんでわたしに結びつけるわけ?

 なんかムカつくなぁ。


「なんでわたしが出てくるかな? 関係ないし。桐島さんと仲良くやってりゃいいよ。十一夜君なんて」


「あーぁ、夏葉ちゃんが膨れたー。久しぶりにかわいいやつだぁ。よちよち、いい子いい子」


 楓ちゃんに抱き寄せられて何故か頭を撫でられている。バカにされてる気もしないではないが、正直言うとこうされるのが好きである。


「くぅっ、か、かわいいっ! 鼻血噴出ものだわっ」


 友紀ちゃんがスマホで写真を撮りまくっている。

 なんで写真撮ってんだ、この子は。


「ほら、チョコお食べ」


 楓ちゃんから口にチョコを入れられる。相変わらずどこから出してくるのかわからない。


「GODIVAだよ。美味しいでしょ」


「美味しい……」


「ほらほら、元気出して。きっと十一夜君もそのうち正気に戻って夏葉ちゃんの元に帰ってくるから。ね」


 ん?

 だから十一夜君は関係ないっつうの。

 なんでこういう流れになるんだ? 取り敢えずチョコは美味しいけど。


「もう一個食べる?」


「食べる」


「はい、あーん」


 言われるがままだ。チョコの誘惑には弱い。

 というか楓ちゃんに抱きしめられつつチョコで懐柔されているこのパターンにはなぜか抗えない。


「あーん」


 美味しい。


「おーよちよち。いい子だねー」


 楓ちゃんから相変わらず頭を撫でられている。

 気持ちが良い。ゴロニャーンってなるわ、ふぅ。


「……ってあんたムツゴロウか! ここはムツゴロウ王国か!」


 危うく誤魔化されるところだったわ。まったくぅ。


「まぁまぁ。そんなに怒らなくてもいいから。大丈夫よ。本妻はドーンと構えてりゃいいのよ、ドーンと」


 友紀ちゃんが知った風なことを言ってるが、本妻とは何のことやら。

 別にわたしと十一夜君は付き合ったことないし。

 だから誰と付き合おうが関係ないもん。


 それに最近交流がないのは十一夜君が何やら重要な任務に就いてるせいだし。

 それが終われば多分元通りだし? 別に桐島さんと仲良くしてようが何だろうがわたしには関係ないし?


 ふんだ。十一夜君のばーか。あんたのせいで友紀ちゃんたちから心配されたわっ。

 さっさと任務とやらを終わらせろっ。


「つうか桐島さんってあのキャラ強烈よね。華名咲家のお嬢に桐島物産を敵に回すと怖いぞ的な脅しかけてたっしょ。あり得なくない?」


「あり得ないあり得ない。その話にはビビったわ。クラス中のグループトークでバズったよね、あれは。実際わたしも見たかったわぁー、現場」


 そうか。あの時楓ちゃんはいたけど友紀ちゃんは帰った後だったっけか。


「いやぁ、あの時なんて言ったか知らないけど、夏葉ちゃんが最後ビシッと言ってあの子半泣きで帰っていったのよね。正直痛快だったわ。やっぱ秋菜の従姉妹だと思ったもん」


 あー、あれな。

 ちょっと十一夜君を利用させてもらったんだよね。

 それくらいは十一夜君に押し付けてもいいよね。

 わたしのこと放ったらかしなんだから。


「うぅっ。見たかったわぁ。古田友紀、一生の不覚であった。夏葉ちゃんの勇姿、見たかったぁ……」


 それにしても、あの一件でうちのクラスじゃすっかり評判落としたなぁ、桐島さん。

 あれ以来、彼氏である十一夜君の株まで下がってしまったよ。

 それでも十一夜君の前ではいい彼女さんなんだろうなぁ、きっと……。


「夏葉ちゃん、どしたぁ? ボーッとしちゃって。揉んじゃおうかなぁ、揉むよぉ〜、揉んじゃうよぉ〜」


「揉むな」


「チッ、聞こえてたのか」


 いつも勝手に揉むくせに今更何を。

 そして揉まれても相手にしないでスルーしてるとつまらんと言われるんだよな。変な子だよ友紀ちゃん。


「とにかく、十一夜君とわたしは元々何でもないし。別に桐島さんだろうが誰だろうが好きにすればいいんですっ。なぁによ、美人だからってデレデレしちゃってっ。あんなチョロい奴なんてこっちからお断りだっつーの。ふんっ」


「いやぁ、美人でいえば夏葉ちゃんは全然負けてないけどなぁ……」


「ね。それにおっぱいも具合がいいし……」


 楓ちゃんと友紀ちゃんは慰めのつもりなのかもしれないけど、おっぱいの具合って何だよ。

 友紀ちゃんのセクハラ路線にはホント呆れるほどブレがないなぁ……。


 どうも話題がそれから離れようとしないのでそろそろお開きにするかな。不毛だ。


「よし。宿題も結構進んだことだし、お腹も満たしたことだし、そろそろ帰ろうか」


「エェー、もうちょっと遊ぼうよぉ〜」


 友紀ちゃんは遊びたいようだ。

 しかしわたしはもう帰りたい。これ以上この話題はなんかやだ。


「今日は解散。不毛な話題に疲れました。日曜日にみんなでプール行くんだしいいでしょ?」


「そうだね、日曜日楽しみ」


 楓ちゃんはさすが空気を読んでくれたようだ。


「うーん。夏休みに入って夏葉ちゃん成分が不足してるのにぃ〜」


 そう言って抱きついてくる友紀ちゃんの手はそれが当然のこととでも言うようにわたしのおっぱいを揉んでいる。


「結局揉むんかいっ!」


「うーん、やっぱりこれがなきゃ活力が湧かないわ。えへへへぇ」


 変態オヤジか、まったく。

 この子が本当のオヤジでなくてよかったわ。犯罪者になってたところだ。


「さ、帰ろ帰ろ」


「そうね、帰りましょ」


 デレッと締まりなく頬を緩めている友紀ちゃんは無視して、わたしと楓ちゃんは帰り支度を始めるのであった。

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