37話「出発!!」

「さて、どうしましょうか……罰としてブリーツにだけポチを追いかけてもらいましょうか」

「え!? そりゃ無慈悲ってもんだぜ、仲間だろ? な?」

「……まあ、それについては気付かなかった私の責任もあるから……」

 なんとなく、ブリーツの案に賛成して、流れのままに行動してしまった。サフィーはその事を悔いている。さすがに迂闊過ぎた。

「だろ!? ほれみろー!」

「ほれみろーじゃない! あんたの方が重罪なんだからね! 全く!」

 サフィーが拳を振り上げてブリーツに怒鳴る。そして、また腕を組み考え出した。

「ブリーツ、あんたも考えるのよ」

「お、おう。勿論考えてるぞ!」

「当然、そうでしょうね。うーん……」

 サフィーは不機嫌そうに腕組みをして、ブリーツは椅子に座って頭の後ろに手を回しながら、ルニョーは壁に寄り掛かって、それぞれ思い思いのポーズで考えを巡らせた。


「なあ、そういえば、アークスがリーゼ、使うって言ってたよなぁ」

 ふと、ブリーツが話を切り出した。

「リーゼを使うっていうの? 使わせてくれるわけないじゃない。アークスの場合は……どうせあの魔女が姑息な手回しをしたんでしょ」

 サフィーのイライラが、更に高まる。サフィーは「魔女」という単語が出るだけで、不機嫌になってしまうのだ。


「うん……まあ、十中八九そうかもしれないけど、こんな大事件を前にすれば、使用許可くらい下りる可能性もあるね。ただ、この局面でリーゼは、あまり意味無いな」

 ルニョーが喋りながら、椅子に座って机に顎を置いた。

「ええ? そりゃ、何でだルニョー?」

「人を運ぶだけだろう? だったらリーゼなんてかさばるだけだよ」

「ルニョーの言う通り。使用許可が下りたところで、こんな中途半端な人数を運ぶためのリーゼなんて無いわよ。リーゼは基本的に戦闘用に使うんだし、コックピットも一人用なんだから、ドドとか、乗れないでしょ」

「ん……確かにな」

「もーっ! そうやって思い付きだけで言うから!」

「すまんすまん。もっと別の考えるよ」

「別のも思い付きで言わないでね。ああ、あとふざけたことも言わないでね」

「分かってるよー。もー」

 ブリーツが「ブーブー」と口を尖らせている。


「お二人共、お待たせしました。ポチ、連れてきました」

 ドドの声に三人がドアの方へと振り向く。ドアのすぐ外にはドドとポチが居る。どうやら一緒に戻ってくることはできたらしいと、サフィーは胸を撫で下ろした。

「ああ、ポチは回収できたのね、良かった。さて、これからが問題よ。ここから別の集落までは遠いから、なんとかしないと」

「あの、馬車とか使えないんでしょうか」

「馬車か……騎士団のが使えると思うけど……ポチは、馬車でも大丈夫なの? 匂いを追跡しないといけないでしょ」

「いけると思います。ボックスタイプじゃない、周りの匂いが嗅げるタイプの馬車なら、ポチの嗅覚なら匂いが追跡できると思うので。それで、僕がポチを抱いて、ポチの様子を見ながら方向を支持したり、止まってもらったりすれば大丈夫だと思います」

「そう……なら、考えててもしょうがないわ。城の馬車を借りてきましょう」


 ポチが馬車でも問題無く追跡できるのであれば、ひとまず馬車で行ってみよう。サフィーはそう決め、頭の中で必要な事を思い浮かべ始めた。馬車ならそれほど大袈裟な準備は要らなそうだ。剣士に魔獣、それに魔法使いが二人と、武装はちゃんとしているので、野獣や野盗等に襲われても問題無い。用意するのは非常用の水と食料くらいだろうか。


「うん……準備には時間はかからなそうね」

 サフィーが納得したように、こくりと頷いた。

「そっか……そうかもなぁ。しかし、なんか、走ってばっかの次は戻ってばっかだなぁ」

「八割ブリーツのせいなんだから、グチグチ言わないの!」

「へいへい……」

「ドドも、よろしくお願いね」

「はい!」

「ポチもね」

 サフィーがポチの頭を撫でたが、やはり無表情で、スタスタとドアの方へと歩き始めた。

「やる気満々じゃない。ね、ブリーツ」

「なんだよー、その当て付けみたいなのはー」

 ブリーツとサフィーが、あーだこーだ言いながら歩きだした。ドドもそれに続く。


「じゃあ、頑張ってきてね、みんな」

 ルニョーが四人の背中を見ながら、軽くにこやかに手を振った。

「あ、はい! 頑張ります!」

 ドドが走りながら首だけを軽く後ろへ向かせて、爽やかに言う。ポチは相変わらず振り向きもせず、淡々と歩くだけだ。

「おう! ボチボチ頑張ってくるぞー!」

「そっちも研究、よろしくね」

 サフィーとブリーツの二人も、軽く手を振りながら、研究室を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る