月長石は黒曜石に恋をする
一花カナウ・ただふみ
第1話 衝撃的な再会1
ムーンストーンは、持ち主の危険を知らせると言われている。だから、
「
十月一日火曜日、放課後。光は下校途中であることを思い出して学校に引き返し、親友の
――何度電話をしても繋がらないってことは、もしかしたら……。
一緒に下校していた友人と別れて走って戻ってきたが、手遅れなのかもしれない。
もう一度スマートフォンをみて連絡がないことを確認し、メッセージアプリも既読になっていないのを見ると電話をし直す。下駄箱には運動靴が残されていたから、校舎の中にいることは間違いない。
階段を上っていくと、見覚えのあるスクールバッグが落ちていた。壁側ではなく、道の真ん中にあるのを見るに、意図的に置いたわけではないだろう。
光は急いで駆け寄り、中身を確認する。
――紅ちゃんのですわ。
きっと近くにいるはずだ。しかし、姿は見えない。帰りのホームルームから時間が経っているせいなのと、二年生が修学旅行中でいないせいで、この階段付近に人の姿はない。
「紅ちゃんっ!! どこにいますのっ!?」
腹の底から声を出すことなんて、高校生になってからはほとんどなかった。精いっぱい叫んで呼びかけたはずだが、他の人よりもずっと小声に違いない。きっとこんな大きさでは、近くにいたとしても彼女に声が届いていないのだろう。
――こんなことなら、待っていてでも一緒に帰るべきでしたわ。
嫌な予感がした。
今日は、光がずっと会いたいと願っていた人がこの宝杖学院に登校してくる最初の日。それをもっと早く知っていたら、彼から親友を守るために対策を講じていたのにと、心底悔やむ。
――お願い、紅ちゃん。返事をして!
再び大きく息を吸った時、木製の壁を叩く音が耳に入った。一度だけであったが結構な音量で、階段と廊下に響く。
――この聞こえかたと方向は。
音源は階段にすぐ近い男子トイレだと理解した。ドアが閉まる音にしてはやけに大きいし違和感がある。誰かが助けを求めるために叩いたとしか考えられない。
その〈誰か〉が紅であると確信すると、男子トイレに踏み込むのに躊躇しなかった。
「紅ちゃん!?」
男子トイレに光の声が響いた。奥の個室だけ扉が閉まっている。他に人の姿はない。
舌打ちする音がして、その奥の扉が開いた。
出てきたのは大男だった。推定で一九〇センチは超えているだろう長身に、スポーツか格闘技でも習っていそうな感じにがっちりとした上半身。短く整えられた髪、色黒の肌。
彼は鋭い目つきで睨んでいる。
光は物怖じしなかった。そして、その鋭い目つきが彼の生まれつきのものであることを思い出す。
彼は
「将人くん……?」
「よう、長月。あんたに邪魔されることは計算していなかったぜ」
光と将人が顔を合わせる。対峙して、光はすぐに個室に入れられた半裸の紅に気付いた。事態を理解すると将人を睨む。
「あなた、紅ちゃんになんてことをっ!!」
「あんたには関係ないことだろ? ちなみにこれは未遂だ」
「未遂ですって!? 充分でしょう? ふざけたことをっ!!」
ワイシャツ一枚という姿で転がり出てきたのを見ているのに、これが未遂であるはずがない。
「ふぅん。チクるのか? ならばおれだって手段は選ばないぜ?」
将人は光に詰め寄る。しかし光は怯まず、それどころか不敵に笑みを浮かべた。
「黙らせるために、ここでわたくしも襲いますか? でも、考えを改めることをお勧めしますわ。あと数分もしないうちに、
光が将人を見上げながら告げると、彼は舌打ちをしておとなしく立ち去った。階段を駆け下りる足音が遠ざかっていく。
「――紅ちゃん、遅くなりました。わたくしがついていれば、こんなことには――」
駆け寄る光を見て気が抜けたのか、紅はその場に崩れた。着衣が乱れた状態で、すぐに外へは出られそうにない。
「ありがとう、光。充分だよ……」
支えるように差し伸ばされた腕の中に倒れ込んだ紅は、そのまま気絶してしまった。
――紅ちゃん……。
彼女の着衣の乱れを整えながら、胸がチクっと痛むのを感じた。彼に抱かれそうになった彼女を羨ましいと一瞬思ってしまったこと、そしてこの場に彼をとどめる選択をせず逃がしてしまったこと。
先生を呼んだと言ったのは狂言だ。将人を見逃すためにしたこと。
「ごめんなさい……」
制服を着せ終えると、光は紅の婚約者である
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