永久の森の旅人 ~眠れない夜の書~
fin
第1章 旅人の願い事。
第1話 未来を閉ざして。
人里離れた森の奥。
鬱蒼と木々の生い茂るその場所を、息も絶え絶えに歩く一人の青年の姿があった。
ジーンズにスニーカー。荷物のほとんど入っていない背負い袋。酷く薄汚れてはいるが、地図もコンパスも持たずに歩くその姿はどこか違和感のあるものだった。
「随分と、歩いてきたな……」
青年は掠れた声で呟くと、近くの木にもたれかかるようにして座り込んだ。そしてじっと地面を見つめる。
「……」
青年の脳裏によぎるのは決まっていつも辛い思い出ばかりである。
その青年は、少しばかり運と縁に恵まれず、そして人と競う事が苦手だった。
本当にたったそれだけの事だったのだが、青年には既に人の世を捨てるに足るだけの理由となっている。
「ようやく、誰もいない場所に来れた……」
その声に喜びの色はない。あるのは深い疲労と、そして虚無感だけだった。
青年が町を後にして、既に二週間ほどの時が過ぎている。わずかな蓄えで買い込んだ食料も底を尽きかけていた。
(これが最後の晩餐かな……)
青年はいよいよ最後の一つとなった携帯食料を取り出してじっと見つめた。
「──んっ?」
その時ふと、青年は近くの草むらに何かの気配を感じる。
立ち上がるのも億劫で、這うようにして近づくと、そこにはひっそりと小さな祠が祀られていた。
「……お前も寂しそうだな……」
草むらに埋もれ、人々から忘れ去られてしまった小さな神仏の住処に哀れみを覚えた青年は最後の携帯食料をお供えしてやる事にする。
そして、手を合わせるべきかと思案するも、また這うようにして木の根元へと戻っていく。
(願いも、祈りも、もう残ってないから……)
木の根に寄り添うようにうずくまる青年の周囲では、儚げな虫の音だけが響いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます