THEY CHIJO

リトルデーモンJ

第1章 僕は国家機密!?

アバンタイトル

 20XX年。関東地方の南端、ヨコスカ市。

 海上自衛隊基地、電子情報隊の地下施設にて。

 ひとりの少女が最奥部の扉を開いた――。



「ここね」


 扉の先は、真っ白な床と真っ白な壁。

 広大な部屋の中央に、ぽつんと金庫がひとつ設置されている。

 少女は、スッと目を細めた。

 それから金髪のポニーテールを結わい直すと、まるで体操選手が助走をするように、軽やかに部屋に飛びこんだ。

 そして大きく跳躍した。


 ビイィ――――ッ!


 部屋の壁面からレーザーが2本放たれる。

 少女を照準する。追いかける。

 少女は側転を繰り返し、それを避ける。

 ピタッとした黒のレザースーツ。すらりと背の高い少女に、金髪が映える。

 しなやかに躍動する肢体、そのギリギリのところをレーザーがなでる。


「そこっ!」


 少女はスライディングでレーザーをくぐり抜ける。

 前転し、唐突に立ち上がる。

 レーザーはその動きに誘われる。

 少女が機敏にしゃがむ。

 すると、レーザーはお互いの発射口を撃ち合い、沈黙した。

 しかし警報が鳴り響いた。


「5分」


 少女は腕時計のタイマーをセットした。

 それから金庫に相対した。

 手をかざすと、タッチパネルが浮かびあがり、モニターにいくつもの数式が現れた。


「ちっ、微分方程式か」


 少女は眉をひそませ、しかし、次々と問題を暗算で解いていった。

 右手で答えをタッチパネルに入力しながら、左手の時計をしきりに気にしている。


「2分」


 少女は最後の問題を解いた。

 すると金庫は、音もなく開いた。

 中には文庫サイズの真っ白な箱。

 表面には、


 ―― THEY CHIJO and WE SLEEP ――


 と、薄彫りがほどこされている。



CHIJOチジョって、動詞なんだ……」


 少女は箱をひっつかむと、今度は爆弾をセットした。

 そして腕時計のタイマーが0になるタイミングで、出口に向かってダッシュした。


 ドゴォオオ――――!!!!!!


 少女の背後から爆風が迫る。

 その風圧を利用して少女は飛翔する。

 正面から警備隊が現れる。

 少女は、ふわりと浮いたまま、警備員を蹴り跳ばす。

 速度を落とすことなく全員を倒し、着地する。

 そして少女はそのまま駆け抜けた。

 が、すぐにまた別の隊があらわれた。


「さすがに厳しいな」


 少女は階段を駆け上がった。

 腕時計のベゼルをまわして、盤面に次々と名前を表示させている。

 メールリストから誰かを探している。


「あった」


 少女は満ち足りた笑みをした。

 それから階段を上りきると扉を蹴破った。

 施設の外に出た。

 月が赤い。


「待て!」


 警備隊が追ってきた。

 少女は物陰に身を潜めた。

 そうやって警備隊をやり過ごすと港に向かった。

 港は基地の主要施設、すぐそばにある。



「ここまでくれば、ひと息つけるかな」


 少女は海を見下ろしながら、そんなことをつぶやいた。

 そのときだった。


 ダンッ!


 少女は突然、背後から撃たれた。

 弾丸が腕をかすめた。

 すかさず拳銃に手を伸ばすと、それを制するように鋭く女の声がした。


「止まりなさい!」


 少女は、ゆっくりと両手をあげた。

 しばらくの沈黙の後、振り向いた。

 すると10メートルの距離には、セミロングの赤い髪。

 自衛隊員が銃を構えていた。


「その赤髪。おまえは海自の諜報員エージェント・佐世保マリンだね」


 少女は両手をあげたまま、不敵な笑みで言った。

 しかし自衛隊員はそれには答えず、別のことを言った。


「小早川イオリ、あなたが盗んだものは特A級の国家機密ですよ」

「イオリ?」

「とぼけてもムダです。あなたは警視庁公安部の監察官エージェント・小早川イオリです」

「ふふっ、お互いよく調べてるね」

「すでに港は包囲しています。盗んだものを返しなさい!」

「それはできないよ」


 小早川イオリは、ふいをついて海に飛びこんだ。

 佐世保マリンは、あわててその場に駆けつけると、海に向かって何発も弾を撃ちこんだ。

 そしてそののち、無表情で無感情にこう言った。


「小早川イオリ、必ず返してもらいますよ」


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