激突! 『柴犬無双』

「──あ、とりあえずワルディー。前言撤回してくれる?」

「ころっけが! みんなの、ん、ん、もろっけが!」

 俺の言葉に耳を傾けず、ワルディーが俺の腕にまとわりつきながらやかましい。揺するな揺するな。

 

 注文カウンターの前で凛々しく立つ黒髪ショート。

・・・・・・でかい。シズカよりもちょい、背が高い。


 大人っぽく涼しげな眼差しは、生徒会長とシズカの言葉にも微動だにせず、周囲の女子どもに謎のプレッシャーを与えている。

 その左手にはトングを携え、右手でコロッケがぎっしり詰まったでっかいアルミ製バットを軽々と持っている。腕力強いな。


「何をしている親衛隊! かかれ!」

 生徒会長がナゼか攻撃命令を出した。すると人だかりの中から数名の女子が「うりゃー!」とか「とりゃー!」とか言いながら飛び出し、黒髪ショートに襲い掛かる。


「せい!」

「みゃう!」

 黒髪ショートはトングをくるくると宙に手放すと、鋭い手刀で親衛隊の首筋をビシッとやり、再度その手で落下するトングを鮮やかに掴み取った。


 ビシッとやられた親衛隊は、目を見開きながらフラフラと一歩、二歩下がると、ゆっくりと地に崩れ落ちていく。時代劇の悪代官が最後にバッサリやられた時の間の取り方に通ずるモノがある。


「ふっ!」

「みゃう!」

「たっ!」

「みゃう!」

 トングがくるくる宙に舞い、ばったばったと親衛隊が崩れ落ちる。流れる足捌きが素人のソレではない。香港のアクションスターとかですか? 

 とりあえず親衛隊、おつかれ。


「か弱き親衛隊の乙女達に、何たる仕打ち!」

「いや君も同じ事してたよね?」

 衝撃に震えるシズカに素早くツッコんでおいたが、まずか弱い親衛隊って、ダメじゃね? 

「くっ! カタリン! 行け!」

「だから何で?!」生徒会長の無茶振りに、俺は衝撃で固まる。

「ん、ん、リューシロGO!」

 押すな押すな! ワルディー押すんじゃない! 


「あん!」と俺はへたれた声を漏らして、遂にワルディーに押し出されてしまった。



──足元には戦士達の亡骸。背後には冷徹な司令官と戦姫。そして目の前には大いなるアマゾネス。



 何この聖戦。


 俺はしばらく立ち尽くした。

 あとワルディー。その何か期待した目で俺を見るの、やめなさい。

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