さたにゃん
遠い昔、俺がこんな風に宇宙でフワフワしだした頃だ。
ぶーん、と彼女は宇宙を走ってやってきました。
「あ、あれ? ちょ、『べひにゃん』! ストップストップ!」
などと言いながら彼女はまたがっていた戦車の砲身をペシペシ叩き、フワフワと寝そべっていた俺のそばに『べひもにゃん』を横付けした。
なんだなんだ。こっち歩いてきたぞ? と、俺はコチラに歩み寄ってくる謎少女を横目で見ていたが、めんどくさいので特に声も出さないでいた。
「こ、こんにちは」
謎少女が恐る恐る俺にあいさつしてきた。
なんだこの女子。俺とタメくらいか?
あんなに肌露出して。はしたない!
「いやらしい女だよお前ってやつは」
「初対面だよね?!」と、俺の対応に彼女は衝撃で震えた。
その後俺はさたにゃんを無視してフワフワぼんやりしていると、彼女はドキドキした感じでちょっとずつ距離を詰めてくる。
「えい。ファーストコンタクト」
彼女は穏やかに言うと、腰元から伸びるふさふさの長いシッポで俺の頬をぺしぺしと叩く。
いい香りがする。もふもふした肌触り、けど意外にしつこくない!
だがどうでもいい。
俺は特に構いもせず、ぺしぺしヤらせておいた。
「私は・・・・・・さたにゃんです。あっちの方から来ました」
どっちだよ。と指も差さないさたにゃんに思わずツッコむところだったが、俺はなんとか持ち堪え、冷たく無言を貫く。
「・・・・・・また来るね?」
エまた来るの? まあ好きにすればいい。
もう、世界は冷たいまでに自由だ。話しかけるのも自由。返事も自由。
さたにゃんは微笑みながら俺に小さく手を振り魔法戦車にまたがると、ぶーんとまたドコかに去っていった。
それからというもの、さたにゃんはちょくちょく俺の前に現れる様になった。
『ばはむにゃん』や『りばいあにゃん』を紹介されたり、アッチの方におもしろい形の隕石があるよとか、お星様いっぱいでキレイだねえとか、なんだかほのぼのとしていた。
次第に俺も受け答えくらいはする様になった。無気力で冷たい感じだったと自分でも思う。
それでも彼女はそんな俺に文句を言う事もなく、どうでもいい俺の言葉の一つ一つを「うん、うん」と嬉しそうに聞いてくれた。時には変な魔法を俺にかけてきたりして鬱陶しいけどな。
「チョコあるよ? 食べる?」
「そろそろ衣替えでもしてみようかな」
「あそこの惑星に変なネコがいたんだよ~」
「──ふふふ。我こそは宇宙の果てを滅ぼす者。全生命よ! 恐れよ!」
「あ、麦茶あるよ? 飲む?」
なんて具合に一人でさたにゃんは元気なヤツだよ。
俺は適当に「へえ」とか「うん」とか「すごいな」とか、まあ、ずっとそんな感じだ。
古い付き合いなんだ。
──別に、嫌いじゃない。
彼女は俺の名前を尋ねた事が無い。呼び名は「アナタ」とか「ねえ」とか。
俺の過去とかも訊いてこない。俺も彼女の事を訊かない。
意味を失くした時間の中で、静かに笑む彼女。
俺はほんの少し、明るくなったと思う。
ただこの瞬間を。安らかに。
どうでもいい永遠を、なんだか二人はほのぼのと、生きている。
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