【大回復】夢羊 (1000字)
こんな経験はあるだろうか。
朝爽快に目を覚ます。なぜか心が幸せに満たされている感じがして、全身に活力が漲っている。すごく良い夢を見たからだというような気がするのだが、その夢の内容が思い出せない――。
ひつじが一匹、ひつじが二匹……
眠れない夜に唱えるあのおまじない。実は立派な召喚呪文であることをご存じだろうか?
やってくるのは夢羊。人間を深い眠りに誘い、夢を見せ、その夢を食べていく摩訶不思議な生物だ。
とは言え、相手は気まぐれな生き物。必ずしも召喚が成功するとは限らない。
羊を数える人間の1/3は自力で眠り、1/3は眠るのを諦め、そして残る1/3の人だけが、夢羊の召喚に成功する。もし最後の1/3に入ることができたなら、それはとても幸運なことだ。
なぜなら夢羊は人間の幸せな夢が大好物。
夢羊が見せる夢の中では、願い事がなんでも叶う。これ以上もないほどに心も体も満たされて、幸せいっぱいの夢を見る。
たかが夢と侮るなかれ。夢羊がもたらす夢の中の幸せは、人間の魂を幸せにする。だからこそ目覚めた後は元気百倍。その日はどんなことにも前向きかつ精力的に取り組めて、結果きっと素晴らしい一日を迎えることができるはずだ。
ただし残念ながら夢の中身は忘れてしまう。先にも述べたとおり夢羊の好物は人間の幸せな夢。最後にパクンと囓られて、どんな夢かはわからなくなる。
貴方がもしも、そんな不思議な生き物を自分の目で見てみたいと願うなら、眠りにつくそのギリギリまでしっかり意識を保っておくことだ。
きっといきなり眠くなる。いきなりぐっと眠くなる。sheepとsleepが口の中でもつれだし、まぶたとまぶたがくっついて頭の中でぐるぐる眠りの呪文だけが回り出す。ああ、ああ、もう眠ってしまう……――そのギリギリの一瞬こそが唯一のチャンス。
最後の力を振り絞り、ぐっと両目を開けて欲しい。きっと貴方のすぐそばに、楽しそうに跳ね回る小さな小さな生き物を見ることだろう。ふわふわの白い体毛、丸い角、玩具のように小さな羊、それこそが夢羊だ。
けれどもし貴方が見た夢羊がとても可愛い黒羊だった場合は、どうか覚悟をしてほしい。
白い夢羊が幸福な夢を好むのと違い、黒い夢羊は人間の不幸な夢が大好物。辛くて痛くて悲しくて、心も魂もすり減らすようなそんな夢が、黒い羊は大好きだ。
もし貴方が召喚したのが黒羊だった場合、貴方の魂はすり減り、力は更に失われることになる。
〈2014.8.17 題目「カード対戦ゲームのキャラクターエピソード」〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます