ぼくらのための物語
@pinopy
第1話
♯青について
正直、自分の容姿には全く自信のない僕は、
どちらかというと、人前に出ることが
あまり好きではない。他人から見たら、
どこにでもいそうな、ありきたりな
僕かもしれないけれど
他人との関わりは
主にSNSでのやりとりくらいで、
自宅とバイト先の往復で
日々を消化するだけの平凡な毎日に
充分満足していた。
決して人嫌いの引きこもりではないけれど、
バイト先の深夜のコンビニは、
町外れの人気のない場所をあえて選んだ。
僕は正直ためらった。
青に会いたい。
そんなこと、書くつもりなんてなかった。
普段通りの当たり障りのないやり取りだけで、僕は充分だったし、
週に数回、僕のSNSに書き込まれる、
きまぐれな青のコメントだけで、
天にも昇る気持ちになった。
ただ、最後に目にした青のコメントから、
私に会いに来て、と、ただ、なんとなく、
そんなメッセージが込められている
そんな気がしたんだ。
初めは本当に些細な事だった。
ネットワークだけで繋がる友人の書き込みに、数人のコメントがよせられていた。
ただ、近所にたむろする、野良猫の写真。
そこに、青がいた。
しばらく前まで近所でみかけた、
野良猫の親子が最近見当たらず、さみしい。
そんなようなことがかかれていた気がする。
僕は何も考えず、以前とった、
深夜のコンビニに毎日餌をねだりに来る
野良猫の親子の写真を青のコメントに
返信がわりに投稿した。
数日後、そんなこともすっかり
忘れてしまうには充分すぎるほどの
時間がたった頃、青から僕の投稿に
野良猫の親子の写真がアップされた、
無事、戻ってきたのだろうか?
さすがに、他人のアカウントでのやり取りは
気が引けたので、個人的に
新しい野良猫親子の写真を添えて、
フレンド申請を申し込んだ。
ほんの気まぐれだった、そもそも、
自分から見知らぬ他人に
そんな申請をすることすら、
僕にははじめての経験だった。
ただ、なんとなく、
自然にできてしまった自分に
ほんの少しの不安と、
期待が入り交じっていたのが本音だった。
今思うと、コメント欄に表示される
青のプロフィール写真に、
僕はすでに恋をしていたんだ。
そんな自分の大胆さに戸惑いつつ、
しばらくはスマホとのにらめっこの毎日だった。
そんな、見ず知らずの相手からの
気味の悪い申請なんて
無視してほしい気持ちと、
受け入れてもらいたい淡い期待。
そんな不馴れな感情に振り回された
そんな数日間は長かったのか、
短かったのか、
青からの返信に驚くほど取り乱した僕は、
端からみて滑稽だったに違いない。
しばらくは、なんのコメントもない
猫の写真や花や夕陽の写真を送り会う、
そんなやり取りだけが、
僕の毎日を明るくさせた。普段から、
何気ない思いと、暇潰しでとった写真を
書き綴るだけの僕の書き込みには
不思議と人が集まり、
顔も知らない不特定多数の友人
(と呼べるだろうか?)
とのやりとりは、味気ない僕の毎日の
ささやかな楽しみでもあった。
どういう訳か、顔出ししてない僕に
どうしても会いたい、
という奇特な女の子もいたりして、
特別な感情を伴わない
当たり障りのない付き合いも正直、
何度かあったりもした。
いつからか、青とも自然な流れで、
不定期ではあっても、
お互いの書き込みにコメントを残す、
そんなやり取りが当たり前になっていた。
いつ?
僕の、会いたい。
というダイレクトメッセージに
青からの返信は驚くほど早かった。
正直、心の準備すらできていなかった。
しばらく、返信をためらっていると
っていうか、くろちゃんは、どこにすんでるの?
と、青からメッセージが続く。
都内
と、だけ書いて、送信ボタンを押す
青はたしか、神奈川の海よりの町に
住んでるはず。以前、近所にできた
大型ショッピングモールに
テレビのロケがきたと
SNSに綴られた青の書き込みは
普段、自分の写真を載せているわりに
私生活を全くみせない
青にしては大胆だな、と驚いたのと
会おうと思えば会える距離に
青がいる
と、微かに喜んだ自分を
思い出した。
そのとき、初めて、青に対する
自分の気持ちをはっきりと自覚したんだ。
会いに、いくよ
送信
しばらく、間があった。
ためらいが、感じられた。
そこまで、私生活に立ち入らせたくない
そんな、青の気持ちが伝わる間だった。
焦り始めた僕のもとに
くろちゃんのラインのID教えて
これ、やりとりちょっとめんどくさい(笑)
と、青からの返信
青はいつも、ストレートに自分の
感情をさらけだす。
あけすな青の言葉はいつも僕を
安心させ、ときには
戸惑わせる。
焦ってスマホを取り落とす
慌てて、ラインを開くものの
ID って?リアルな友人などほとんど
いないボクにとってラインなんて
バイト先とのやりとり以外
ほとんど開くことのない
無用の長物だ
よく、わからない設定を
いじりまわしていると
ごめん、わたしが送ればよかった
と、青から数文字のアルファベット
が送られてくる
これをどうしろと?でも、そんなこと
恥ずかしくて青にはとても聞けない。
友人が少ないことを
これほど後悔したことはなかった。
数分の格闘の末、ようやく
青にメッセージを送信する
それから、数日間は、会う、会わないとは
全く関係ない
とりとめのないやりとりが
ラインを通じて、青と交わされる
そんな毎日が続いた。
青は、なるべく人の少ないところで
会いたいといった。人混みは苦手だと。
僕が青に会いたいと伝えて
気付いたら1ヶ月以上の時間がすぎていた。
お互いに空いた時間は
些細なことから、その日にあった嬉しいこと
また、何もなかったことなどを
とりとめもなく、報告しあった。
青には年の離れた兄がいて
今は、その兄とも、家族とも
遠く離れた場所で一人暮らししていることや
仕事は嫌いじゃないけれど
上司と反りがあわず、ストレスのある
毎日であることが、少しづつでは
あるけれど、青の日常が、
青の言葉の端々から感じられた。
僕自信も、以前の勤め先でのトラブルや
人間関係にかなりの問題を
抱えていた時期もあり、自然と青の話に
青の生活に、ほんの少しでもいい
ストレスのない場所を作ってあげたい
青にとって、そんな存在になれればいいのに
そんな思いばかりが強く、大きく育っていった
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