植物はささやく

ヤケノ

植物はささやく

D博士が画期的な翻訳機を発明した。


テレビの記者会見で、記者の一人がD博士に質問している。


「D博士、これはいったいどのような機械なのですか?

数か国語を同時に翻訳できるとか、訛りがあっても翻訳できる機械なのでしょうか?

それとも、昔発売された犬語翻訳機のようなものなのでしょうか?」


D博士は咳払いして、答えた。

「そうですね、犬の言葉を翻訳をする機械に近い道具です。

ただし、この機械が翻訳するのは、今まで言葉がないと思われていた存在、植物の言葉を人間の言語に翻訳することが可能なのです」


記者たちがザワザワと騒ぎ出した。カメラのフラッシュで画面が点滅する。

「植物ですか?

木とか草とかのことですか?」


「そうです」


「玉ねぎやニンジンも?」


「そうです。

まあ、野菜や草よりも、長く生きている樹木の方がよりはっきりと言葉を発します。

年齢だけではなく、植物の種類や環境でも語学力に差が生まれることが実験により確認されています」


博士はそう言うと、植木鉢に生えているチューリップを取り出して、マイクとスピーカーの付いたその機械をチューリップへと向けた。



「ひかり、みず、たのしい」


スピーカーからは機械合成音の言葉が聞こえてきた。




「このように、植物が発している電気信号や波動を検知して、我々の言語へと翻訳するのです。

チューリップは、記者の皆さんが当てているスポットライトの光を喜んでいるようです。


この発明は、農業でも革命を起こす可能性を持っています。

植物の意思を聞くことで、今まで以上の高品質な農作物が可能となります。


さらに、縄文杉のような長い歴史を生き抜いてきた樹木は、野菜や草よりも知能が高い。

彼らの言葉を聞くことで、考古学でも新たな発見が生まれることでしょう」



記者たちは、D博士への質問を続ける。


「D博士は、今後どのような研究をしたいと考えていらっしゃいますか?」


「今はこのような専用の機材がなければ、翻訳機は扱えませんが、これから、さらに研究を進めて、アプリケーションソフトとして一般にも発売できるようにすることを目指しています。

そうすれば、より身近に、より手軽に植物の声を聴くことができるようになるのです」



それから一年もたたずにD博士の研究は完成した。


植物言語翻訳機は、販売からひと月もたたないうちに、様々な発見をした。


歴史の教科書の内容が変更されるのも時間の問題と言われた。






そんなある日、D博士が殺害されたというニュースが世界中に流れた。


警察は逮捕された犯人のコメントを発表した。


「野菜にまで意思があることを証明しやがって。私はこれからいったい何を食べたらいいのだ。飢え死にしてしまう」


犯人は菜食主義者だった。

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