私立ソシャゲー学園高等部
ロリバス
その1・春・ただいまスタートダッシュキャンペーン実施中
4月1日。学生はまだ春休み中だろうが、社会人ならばもう新年度のスタートだ。
そして新入社員にとっては学生から社会人に変わる第一歩となる日である。
身を切る寒さの就職氷河期。数えきれないほどのお祈り。辛かった採用試験。やっとのことで手に入れたたったひとつの内定。今でも、あの日の喜びはありありと思い出せる。
これから定年まで40年と少し、ここで教師として精一杯働こう。
熱い気持ちを胸に出勤した俺を最初に出迎えたのは。
「初めまして先生、ただいま
明るい笑顔で俺にそう告げる、やたらパステルピンクのスーツを着た若い女性であった。
「は……?」
「本日の
あっけに取られる俺に、パステルピンクの女性は封筒を手渡した。
封筒はどう考えても職場で使うにはふさわしくないキラキラとした装飾がされていて、表には「SSレア生徒5%編入届」と書いてあった。
「えっと……これは?」
「はい!
「何そのソシャゲみたいなシステム!?」
どう考えても場違いな説明をされたので思わず大声を出してしまった。
パステルピンクのスーツを着た女性は、唖然とした表情で俺を見ている。しまった、流石に今のは新任教師の態度としてまずかったかもしれない。
もしかしたらこのSSレア生徒5%チケットというのも、新人を緊張させないためのユーモアなのかもしれない。
だとしたら、たとえ滑っていたとしても気遣いを無下にするのもよろしくない。ここは謝るべきだろう。
そう考えた俺が頭を下げようとしたところで、パステルピンクのスーツを着た女性は口を開いた。
「飲み込みが早いですね!当校は世界で初めて、ソーシャルゲームのシステムを教育に取り入れた学校なんです!」
パステル女は意味の分からないことを言い出した。
教育と、ソーシャルゲーム。どう考えても相性が良いとは思えない。俺はなんとかその2つを結びつけようと考えた。
「えっと、それは生徒がソーシャルゲームのプレイヤーみたいに、課金額に応じた教育を受けられるとか……そういう?」
「まさかぁ、それじゃあ普通の学校じゃないですか。課金するのは教師の皆さんですよ」
普通の学校に勤務したかった。俺は心の底からそう思った。
「……それは、教育云々以前に、職業としてどうなんだ……?」
頭を抱える俺に、物分りが悪いなあ、とばかりのドヤ顔でパステル女は説明を続ける。
「普通の会社ではよくありますよね。成果給ってやつ」
「ああ、どれだけ仕事が出来たかで給料が変わるってやつですよね」
「あれって、年功序列とかより公平だと思いません?」
確かに、やった仕事の成果に対して報酬が支払われる、というのは公平なような印象を受ける。
実際はそうでもないらしいが、それでも年齢で自動的に給料が増すなんてのよりは公平だろうと思ったので、俺は頷いた。
俺の反応を見ると、パステルピンク女は我が意を得たり、とばかりに強く頷いた。
「なので当校でも成果給制を採用し、みなさんの担当クラスの
「ああ、なるほど」
勉強の成績を一律に成果、というのはどうかと思うが、そう考えると確かにまだ納得の出来るシステムなのかもしれない。
まず、クラスの順位、というのがいいところだと思う。
頭のいい生徒一人に頼ってはクラス順位を上げるのは難しいと思われる。
それならばむしろ、成績下位生徒の底上げが重要だろう。生徒を満遍なく教育するように仕向ける、なかなか良いシステムなのかもしれない。
「なので、
良いシステムではなかった。
「なんだ
ピンク女は、こいつわかってねえな~~~とでも言いたげな顔をして鼻で笑った。非常に腹のたつ顔だった。
「良いですか、先生。成績の悪い生徒を教育すれば確かに成績は良くなります」
「でしょう?だったらもっと教育に力を入れても……」
「でも成績の良い生徒を教育するともっと良くなるんですよ」
「教員としてどうなんだそれ!?」
実際問題、そうであることを否定しきれない辺りたちの悪い話であった。
「それでは、次に生徒の手に入れ方を説明しましょう」
「生徒の手に入れ方ってもうなんかおかしくないか……」
ピンク女は俺の言葉を無視して、新しい封筒を手渡してきた。どうでもいいけどこの女いつまで経っても名乗りやがらねえ。おかげで心のなかでこいつに対する呼び名がどんどん雑になっていく。
ともあれ、渡された封筒には「ローカル転入届」と書いてあった。
「先生。その封筒を開いてください」
反抗する気力もなかったので、言われるままに封筒を開いた。
すると、まず職員室の扉が光りはじめた。微妙に茶色っぽい光だった。
「転入届を開いた時の演出でレア度が予測出来ますよ。茶色はノーマル生徒ですね」
「ノーマル生徒……」
あまりにも悲しい響きの言葉だった。もっと生徒の可能性を信じてほしかった。
そんなことを考えていると、職員室の扉が開き一人の生徒が入ってきた。
入ってきたのは……本当に心苦しいのだが、凡庸としか言いようのない女子生徒だった。制服、髪型、顔、どこをとっても特徴らしい特徴がなかった。あまりにもノーマルであった。
生徒が俺の前にやってくると、頭上に何やらメッセージが表示された。
『ノーマル 「普通の生徒」田中よし子』
この生徒の肩書らしかった。悲しいまでに普通だった。
「先生、よろしくお願いします」
挨拶も普通だった。
生徒は一礼すると、そのまま職員室から出て行った。
「詳しいステータスは転入届に書いてあるので、そちらを御覧ください。田中さんは無属性のノーマル生徒ですね。ステータスも平均的で、特に尖ったところのない生徒ですよ」
「他に言うことないのか……」
「能力が偏ってないので、生徒が揃うまでの数合わせには使えますよ」
「それは言わなくていいよ!」
どこまでも悲しいソシャゲ学園のシステムであった。
しかし、先ほどこのピンクが何やら興味深いことを言った気がする。属性がどうのこうのとか。
「ほほう、先生、生徒の属性が気になりますか?」
「人の心を読むな!」
「ちょうどいいですね。それでは、属性の説明ついでに初期Sレア生徒を選んでいただきましょう」
「初期Sレア生徒?」
「おっ、食いつきましたね、先生。やはりなんだかんだ言ってレア度の高い生徒がお好きと見える」
ピンクは下品に笑った。否定したかったが、一度反応してしまった以上何を言っても虚しい気がしたのでやめておいた。
下品ピンクは三枚の書類を取り出した。それぞれ、生徒らしき女の子の写真が貼ってある。
「生徒には四種類の属性があります。まず、さっきの田中と同じ無属性。これは特徴のない生徒につけられる属性ですね。特にメリットはありません」
「田中に謝れ!」
流石にひどかったので抗議すると、ピンク女は頷いた。
「確かに、生徒指導の成果によっては属性持ちに変化することもあるのでまったくの無能ってわけではありませんね」
よりひどくなった。あとまた新システムが出てきた。
「あ、生徒指導は普通のソシャゲで言う進化みたいなシステムです」
「身も蓋もなくなったな!」
「先生の指導で生徒は新たな可能性を発見することが出来るんですよ!」
「取り繕うぐらいなら初めから身も蓋も無いこと言うなよ!」
「まあまあ、で、つづいてヒート属性の説明ですね」
身も蓋もないピンクは、つづいて書類のうち1枚を差し出してきた。
受け取ると、また職員室の扉が光り始めた。今度は金色だった。
「Sレア生徒の場合、演出は金色ですね。これを見たら喜んでいいですよ」
「今までの世知辛い説明を聞くと素直に喜んでいいのかわからないんだけど……」
「まあ、これは最初にもらえるSレア生徒なんで喜ぶようなものでもないですけど」
「喜んでよくねえじゃねえかよ!」
ガラガラ、と扉が開き生徒が入ってきた。
入ってきたのは、赤い短髪の活発そうな女子生徒だ。体操服から伸びる脚が健康的だった。
『Sレア 「陸上部の星」
「陸上部、星 飛鳥!インターハイ目指して頑張ります!」
星と名乗った生徒はぐっと握りこぶしを作り、小さくガッツポーズを作った。なるほど、この姿だけでも随分さまになっている。
「星さんを始めとして、ヒート属性には活発で活動的な生徒がそろっていますね。運動系のステータスが高い子が多いですよ」
「運動系?でもそれ、期末試験とかじゃ有利にならないんじゃないの?」
俺がそう聞くと、ピンクは星の肩を抱いて片手の親指と人差指でまるを作った。俗にお金なんかを意味するハンドサインだ。
「体育祭やインターハイの成績もランキング対象ですからね!全国大会優勝生徒とかでるとお給料ガッポガッポですよ!」
「生徒の前でする話じゃねえな……」
どこまで言っても世知辛い学園だった。初日ぐらい、もっと教育理念とかの話が聞きたかったと思った。あまりにも今更すぎた。
「さて、つづいてクール属性の説明ですよ。星さん含めて3人のSレア生徒から一人を選んでクラスに入れられますから、ちゃんと説明を聞いてどの属性のSレアを選ぶか決めてくださいね」
ピンクは用済みとばかりに星にしっし、と手を振った。どこまでも生徒の扱いが雑な女だった。星は特に不満も言わず、普通に職員室から出て行った。
二枚目の書類が渡された。また職員室の扉が金色に光った。流石に二度目だとこれといって感慨はわかなかった。
職員室に入ってきたのは長い黒髪の女子生徒だった。眼鏡とあいまって理知的な印象を受ける。
『Sレア 「真面目な委員長」
「高橋涼子です。なにとぞ御指導御鞭撻のほどよろしくお願いします」
指先まで気の通ったきっちりとしたお辞儀をされた。なるほど、確かにこれはまさにクールという感じだ。
「高橋さんたちクール属性には理知的で冷静な生徒がそろっています。クラスの成績を上げたいならこの子たちが一番ですよ」
「まあ、確かに成績優秀な委員長って感じだもんな」
「ちなみに現状クール属性のSレア生徒の4割は何らかの委員長ですね」
「バリエーション少ねえな!」
我々教員共の見苦しいやり取りを尻目に、高橋は「失礼します」と礼儀正しく職員室から出て行った。
「さて、次が最後の属性の説明ですね」
「無属性、ヒート、クールときて……次は何属性なんだ?」
「なんだと思います?学校の生徒には欠かせない属性ですよ?」
ピンクはいたずらっぽく笑った。あるいはここまでの行いがなければ魅力的に見えるかもしれなかった。
しかし、学校の生徒に欠かせないとはなんだろう。活発で運動が得意なヒート、落ち着いていて勉強が得意なクール、それ以外というと……やはり若さとか可愛らしさとかだろうか。
「ふふっ、先生。エロいことを考えていますね?」
「エロいと言われるほどのことは考えてない……」
「まあまあ、若いんですから仕方ないですよ。それに、先生の予想もあながち間違ってはいませんよ」
エロピンクはニヤニヤしながら三枚目の書類を渡してきた。
それを受け取ると、やっぱりおなじみのSレア確定演出で職員室の扉が金色に光った。正直ちょっとうざくなってきたので演出スキップしたい。
職員室に入ってきたのはミニスカートの生徒だった。制服を全体に着崩しているし、髪もどう考えても校則違反なゆるふわカールの茶色系だ。
生徒は俺の前まで近づいてくると、俺の顎に手を当てて耳元に口を寄せてきた。
そんなことをされると思っていなかったので反応が遅れてしまったが、流石にこれはまずい。しかし、生徒を振り払おうにもどこを触ってもセクハラになりそうで怖い。手詰まりだった。
「せぇんせっ、私と二人で、お勉強しよっ?」
『Sレア 「放課後個人授業」
あまりにもいかがわしい肩書の生徒だった。
「美崎さんたちはアウトロー属性の生徒ですね」
「なんだその属性!?」
「学校の枠に留まらない問題児達の集まりですね!普段はちょっと問題がありますが、ここぞという時には大活躍ですよ!」
説明されている最中も美崎は俺の首筋に息を吹きかけたり胸に指を這わせたりしている。なんかもう色々ダメだった。
「あ、ちなみに当校は全年齢対象なので先生が期待しているようなイベントはありませんよ」
「別に何も期待してないよ!?」
「そういうのは近々開設予定のR-18系列校に赴任してからじゃないとダメですからね!」
「開設予定あるんだ!?」
もうこの学校がどこに向かっているのかわからなくなる話だった。
「あ、あとアウトロー属性にはもう一つ特徴があります。生徒指導で属性が変わったり、逆に他の属性からアウトローに変化する子もたくさん居ます」
生徒指導……は確か、他のソシャゲで言う進化みたいなシステムだったか。
教師の指導によって生徒が更生したり道を踏み外したり、ということだろうか。
確かにそれはよくあることだし、教員としての腕の見せ所だろう。
「例えばさっきのヒート属性Sレア生徒の星さんは、生徒指導の結果によってはアウトローSレア『落ちた流星』
「星に何があった!?」
「飛び抜けた才能というのは時に嫉妬を引き寄せてしまうんですよ……」
ちょっと想像してたよりも重かった。手に負えなかった。
ピンク女はいつまでも俺にしなだれかかっていた美崎を引き剥がすと、職員室の外に押し出した。美崎はいつまでも手を振っていたので、つい振り返してしまった。正直ちょっと惜しかった。
「さて、淫行先生」
「そこまではしてません!」
「もう結果は見えてるようなもんですが、さっそく属性を選んでもらいましょう。どの属性にしますか」
どうせエロなんだろう?と言いたげな目でピンクは三枚の書類を俺に差し出した。
俺は迷わず1枚を手にとった。
再び職員室の扉が金色に光った。もう眩しいとしか思わなかった。
扉が開き、入ってきたのは長い黒髪の女子生徒だった。
『Sレア 「真面目な委員長」
「高橋涼子です。なにとぞ御指導御鞭撻のほどよろしくお願いします」
「あれー?高橋さんを選んだんですか?エロは?」
「いや、あの距離感の生徒は流石に辛い」
淫行はしていないしする気もないが、あの距離感の生徒がクラスに居るのは少々辛い。
「じゃあヒートの星さんは?先生結構好きそうだったじゃないですか」
確かに、ヒートの星は良かった。活発で健康的、好感の持てる生徒だった。問題があるとすればただひとつ。
「新人教師が抱えるには問題が重すぎたかな……」
「落ちた流星」を正しい道に戻せる自信は流石になかった。
ピンクは曖昧に頷き、とりあえず、といった風に高橋を教室に向かわせた。
「さて、これで属性も決まって、クラスの生徒も田中と高橋さんの二人になりましたね」
「生徒が二人って流石に少なくないか?」
「ああ、人数が集まるまでは空いた枠はモブ生徒で埋められるので大丈夫ですよ」
田中より扱いの悪い生徒が居た。なんだモブって。
「モブは成長しないし弱いので早く別の生徒に差し替えた方がいいんですが」
「成長しないし弱い生徒を見捨てるって教員としてすごく辛いんだけど……」
「芽を出さない種もあるんですよ」
あまりにも悲しい現実だった。
「あとは課金したり授業をしたりすればガチャで生徒を増やせるんですが……そういえば先生はログインボーナスでSSレア生徒5%編入届を持ってましたね。まずはそれを使ってみましょうか」
「ああ、最初に渡された奴か……」
しかし、SSレア5%の編入届がボーナス扱いになるって普段の確率はどれぐらいなんだろう。
そんな疑問を抱いたが、いつも人の心を読んでくるピンクはこんな時に限って何も言わなかった。あとで絶対調べてやろうと思った。
編入届の封を解くと、職員室の扉がまた光り始めた。今度は虹色だった。
「見たこと無い色だけどこれは何レア?」
「げっ、SSレアですよ……よりによってログインボーナスで……」
「人が身銭を切らないでSSレアを引くのがそんなに不愉快か……」
ゲスピンクは舌打ちしやがった。
職員室の扉が開いたが、生徒はまだ入ってこない。
「生徒来ないけど?」
「SSレア生徒の時は他のレアより演出が長いんですよ、射幸心を煽るために」
「それいっちゃあダメなやつじゃないかな……」
職員室の扉から光が溢れ、続いて何やら文字が流れ込んでくる。
『SSレア生徒! アウトロー!』
まず、生徒の属性が告知されるらしい。どうやらアウトローのようだ。Sレアでもあれだったのに、さらに上のレア度って……手に負えるのかすごく不安だ。
そんなことを考えるとピンクが途端に笑顔になった。
「どうやらアウトロー属性の生徒らしいですね、先生!頑張って指導してくださいね!使わない生徒は退学させると給料査定にプラスですよ!」
「使わない生徒は退学って表現ひどくない!?」
こいつにここまで言われると絶対にこの生徒を指導しきってやりたい、と思うのだが、さっきのSレア生徒の行動を思い返すとやっぱり不安は拭えなかった。
職員室に入ってきたのは、金髪ツインテールの生徒だった。改造とかいうレベルじゃなく弄くった制服に、鎖だのシルバーアクセサリーだのをつけている。顔には眼帯だ。
ツインテ生徒は片手を顔の前に持ってきて、片手で俺を指差した。ご丁寧に両手の爪はネイルでバッチリだ。
「この世界に運命なんて無い。全ては
『SSレア 「治らない中二病」
肩書と本名があまりにも残酷だった。もうちょっと取り繕ってやってもいいだろうに。
ともかく、俺は山本……いや、聖霊院と呼ぼう。聖霊院に手を差し出した。
聖霊院は俺の手を見て、ふっと笑い握り返した。少しネイルの爪が刺さったが、それだけだ。
「よろしく、先生……いや、君が僕を導くに相応しいか、見極めさせて貰うよ」
「ああ、よろしくな聖霊院。俺も全力でやらせてもらうよ」
俺と聖霊院は固い握手をかわした。
本当に、まだ手におえそうなアウトロー具合でよかったと、俺は心の底からそう思った。
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