零暗記〔上〕〜海と水着とあれやこれや〜
「蛍だ! 海だ! 水着だ! 水着だぁ!!」
満天に広がる青空!
サンサンと照らす太陽!
きらきらと輝く海!
そして! ピチピチ水着の女の――
「二回も言わんでよろしい!!!」
ベチコォォーン!!
脳天直撃。
「キリーナ、おまっ!自分の力分かってんの?!」
「ワザとよ、ワ・ザ・と!」
とある蛍の季節。
依頼達成の帰りにフラッと寄った海。
狙ったかのように販売された水着たち……に、対抗するかのように入る気満々で持参してきた女達。
当然ビラガに売っている訳もなく裁縫士のスララが作った物だ。
だが、そんなことは些細なことに過ぎない。
一切海に面していないビラガでは絶対にお目にかかれない≪零暗の衣≫の女性陣……、それも美女揃いの水着お披露目会である。
これでテンションの上がらない漢(おとこ)がいようか。
「ちょっと〜メイ〜あんたがミアに渡した水着全くサイズ違〜う」
着替え所からフルールの声が聞こえる。
「うっそゴメーン、今から買いに行くからサイズ教えてー」
――ミアの3サイズだとッッ!!!???
それは同志達(だんせいじん)の脳内で自動変換され以心伝心(きょうめい)する。
……全員ではないだろうが。
「ぉぃ、ユウ。チャンスだぞ」
ヒソヒソ
「だなっ、漢として聞かな……」
ひそひ……。
「……お二人さん?もしかして、私の存在忘れてませんか?」
しっとりと、ヒスワンが問いかける。
先程まで三人でワイワイと話していた暖かな雰囲気が一瞬で絶対零度まで冷える。
ゾワゾワぞわっっ
「まあ、あまり口を挟みませんが……、もしそれ以上卑猥な会話をするというのであれば……」
ゾワゾワぞわっっ
「……貴方(あなた)がたをこの暑さから救い永遠に海に沈めることなら出来ますよ?」
「いっ、いやぁ〜冗談だよヒスワ〜ン」
はぁ……。
と、ため息をつきながらヒスワンは何処かへ行ってしまう。
水色の髪がふわりと棚引き、スタイルフィットした水玉模様の水着が生えビーチを鮮やかに彩る。
美脚、美人、美体型、美……。
……とにかく完璧なのだ。
そう、ナイスバディ……、これこそが曲線美であり最高の身体美(びがく)……ッッ!!
……っと、そんなことより今はッッ!!!
「ミーニアー、サイズ聞いたからさー、一緒に買いにいこー」
――聞き逃したぁぁぁああ!!
「いいけど、なんで、私も、行くの?」
メイに誘われたミーニアが言う。
面倒くさいオーラがむんむんと漂っている。
「ついでに昼食も買ってきてほしいんだ。あ、あと旅館にも一言言っとかないといけないしさ」
ついでといわんばかりにルナートがのっかる。
「仕方、ないなあ、ルナートが、そう言うなら」
そう言って走り出した。
ちなみに男性陣は着替え済みである。
それぞれがビーチでくつろいでいる。
ここはメルシナ大陸の西端国ルザリア。
そこでモンスター討伐の依頼を終えて帰る所だったのだ。
ちなみに戦闘域はここ、海岸(ビーチ)。
巨大魚が相手だったのだが遠距離先頭タイプのメンバーで瞬殺だった。
ちなみにその戦闘はみんなフル装備である。
水着戦闘が見られると期待していた俺の落ち込みを君たちにも理解してほしい。
「ねーねー早く泳ごーよー」
ハナはぷかぷかと海に浮いていた。
顔と豊満なブツが海から出ている。
目が合う。
「「……ケッ!」」
……絶賛喧嘩中である。
少し経つと声が聞こえた。
「おらぁ〜男共〜ミアの登場だぞ〜〜!」
「ちょっ……! フルール姐さんっ?!!」
ミアは照れながら焦りながら胸元を抑え歩いてくる。
仕草といい顔といいスタイルといい、
…………完璧だ。
みんな目を奪われていることだろう。
「あっ、ルナちょっとこっち来てぇ〜〜」
フルールがルナートを呼ぶ。
「ったく何だ……」
にやり。
フルールの双眼が見開かれる。
「……そぉっら! 行ってコォォォ〜〜い!!」
ドンっ
とミアの背中を強く押す。
そして――
「ちょっフル――」
「キャァァ!!」
ドッシャァ
砂浜に二人は倒れこむ。
目の前には何というかこう……、理想図(ラッキーラバー)が広がっていた。
ザップゥゥー!!
と海から水しぶきが舞うが誰も気にしない。
ミアは顔を真っ赤にしルナートは狼狽える。
それを見るみんなの眼は物語っていた……。
……フルールナイス!!
と。
はっはっはっ!
フルールは快活に笑う。
しかしだが、ルナートよ。
お前さん、最近モテスギじゃぁないかえ?
と一瞥をくれ、
何故我と彼奴(きゃつ)の位置取りが逆ではなかったのだと神を呪う。
そうだこんな真蛍(まほたる)の炎天下。
二人の男女がイチャコララブラブ。
しかも純粋ピュアっピュアなミアとクール真面目なルナートがあんな会合を……。あぁ……、羨ましいッッっ!!
そんな青春活劇を見たオトシゴロの零暗の衣が充足感に浸る中、
「「フルールーーーッッっ!!!」」
二人は咄嗟に跳ね上がり黄色い声を上げたのだった……。
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
蛍よ! 海よ! 水着よ! 水着よ!!
心の中でそう叫ぶ。
ベチコォォーン!!
ビーチでサクヤが引っ叩かれる。
ザマァミロよ。
それにしても……いい眺めね。
このギルドはなかなかどうしてイケメンが多い。
中には一人、残念なナルシ野郎もいるが。
何であんな綺麗な体つきをしてるんだろう……、うぅ……、ルナート……。
「はぁ……」
こっそりため息をつく。
せっかく海に来たのだ、これはもう色気で誘惑するしかない……っ!!
「ふふふ、今に見てなさい、ルナート」
ぷかぷか、太陽が眩しい。
ミアが出てきてようやくギルドメンバー全員が揃った。
いやぁ、それにしてもいい眺めだ。
ふいにサクヤと目が合う。
「「……ケッ!」」
……絶賛喧嘩中である。
目の保養に再び男性陣へと目を向ける。
そう、ナイスボディ……。これこそが筋肉美であり最高の肉体美(びがく)……ッッ!!
だが男性陣に見とれていると急にフルちゃんがミアの背中を押し……
ザップゥゥー!!
海に沈む。
……な!……な!!
何でルナートとあんな急接近してんのよっ!!
ウチでもあんなに近づいたことないんだよっ?!?!
ルナとミアの二人は立ち上がってオドオドきょどきょど。
このギルドの面子はホントに好きだな、こうゆー展開。
何年も一緒にいるとそういうのが薄れちゃうから仕方ない。
「ハナー、いつまでそこにいんのーみんなでウロン割りするって言ってるけど」
ユウが聞いてくる。
「いいやー、ウチここでみてるー」
男をー
とはもちろん心の中で言う。
さてさて、ここでゆったり青春してるみんなを見るとしますか!
それにミア! あんたには絶対負けないわ!
ルナートは絶対ウチが振り向かせてやるんだからっっ!!
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「キリーナ! もっと右! 右!」
「もうちょっと、だから、頑張れ!」
「そこ!そこそこ!! さっき通り過ぎた!」
「えっ? あ! ここかっ!! よぉーーし!!」
「ちょっと待てお前ら! 何狙って……キリーナストォォォッップ!!!」
なんて奴らだ……!!
キリーナに彼氏を叩かせようとは……。
しかも当たったら間違いなく……、死ぬ。
「えっ? マイクっ? あっちゃ、ゴメーン。
でもいっちゃっていい?」
「良くねぇよっ!!」
何でここでそんな天然を……!
というか彼氏をぶっ叩くことに抵抗はないのかっ!!
「キリーナ〜や〜っちゃいな〜」
「こら、姐さんっ! カレカノ羨ましいからってそういうこと言わないの……って、あぶねっ!」
あはははは!!
くそぅ……。
いつもの事だが毎度毎度からかわれる。
まあ、それも楽しいから良いんだけど。
「あーもうやめるー」
パサッ。
と目隠しを取る。
キリーナはクリーム色の髪をショートカットにしていて全体的に、可愛い……。まあ俺の彼女だからというかなんというか。
内心で勝手に焦りながら目をそらす。
「次マイクやる?」
と言いながらキリーナは目隠しを渡してきた。
「いいけど、ちゃんと指示だせよ」
「わかってるってー」
そう言ってキリーナが目隠しをつける。
息がすぐ側で聞こえる、胸が少し高鳴る。
そして、目の前が真っ暗になる。
立ち上がって構える。
確かさっき見た時は……。
「真っ直ぐだぞー!」
「あ! 右右!!」
「左向かって〜」
「そこ、叩け!」
「通り過ぎ――」
「――矛盾しすぎだろっ!!」
全く……。
でも、久々だなこういうの。
みんなでワイワイなんていつもの事だけど革命を決めてからどこか張り詰めてるような気がする。
このギルドも結成してからかなりたったけど自分にはもったいないくらい……、暖かい。
でも、これがいつまでもつかなんて分からない。
だからこそ……。
「よぉし!」
思いっきり楽しむか!
⌘ ⌘ ⌘ ⌘
「スレイア、いつまでクールムッツリスケベ貫いてんだよ!」
「うるさいぞ、ユウ」
「あー、スレイア、また一匹狼ごっこ、してる」
バシャ!!
ミーニアがスレイアに背を向け思い切り泳ぎ出した。
こうなったらー
「みんなー! スレイア引き摺りこもーぜ!」
「こんなやつ引きずりこんじゃえー!」
スララも乗っかる。
「ほいきた!」
リックが背後をとる。
「俺らと一緒に泳ぎな!」
マグドが前方をとる。
そして二人で担ぎ上げ……。
ポイっ
海へと投げ入れ――
「あげごべばばぁぁばばだたが!!、!」
「「「「……?!」」」」
「おほぼぼがなざはさばばー%>°<×€3÷^〆・☆・」
「「「「。」」」」
「早く助けてやってはいかがでしょうか?」
「「「「……!!」」」」
ヒスワンの言葉に、急いで四人がスレイアの元へ向かう。
「ゲホッ!がはっ!」
スレイアは盛大に海水を吐き出す。
「いや、何か……。スレイア…………、カナヅチだったんだな」
「俺も初めて知ったよ、っていうか何でお前ら泳げ……がはっ!」
チラリ、ヒスワンを見る。
弟に何やってるのかしら?
と、顔に書いてある。
「いやぁ、スレイアなんでもクールにやってのけるから意外で……っ」
「……そうですか?あなたがたは知らないのでしょうがこの子の料理を食したことがありますか?この子の書いた文字と絵、見たことはありますか?この子の……」
「姉ちゃん、そろそろやめてくれよ」
「あら、照れてるのですか?可愛らしいですね」
「ったく……」
「まっ、まあスレイアが全知全能じゃないことは分かった!」
「ユウ、お前。俺を神とでも思っているのか?」
そんな自嘲的な笑みと共に1人で着衣所へゆったりと歩き出す。
「なあ、ユウ。僕たち付いていかなくていいのかい?」
リックがキョトンとして言う。
「プライド、高いから、一人で、リバース、したいはず」
「ミーニア、もうちょっとオブラートに包めなかったのか?」
そんなやり取りをしているとメイが駆けつけてきた。
「何やってたのー??」
「スレイアの新たな一面を発見した」
「ユウそれ答えになってなーい」
メイの言葉に……、俺は遠い目をするしかなかった。
しかし、今は近い目に戻す。
うむ。
いやぁ、それにしても眩しいな。
女性陣(みんな)のむ……。
「ユウ、今、メイ、いやらしい目で、見てたよね? 私には、そんな目で、見なかったのに」
しかし、寂しいかな。
そのミーニアの無遠慮な一言に、返すことすらままならずただただ絶句するしかなかった。
「お、ルナート、意外と、泳げるんだ」
そいっ
と海を眺める。
「勝つ」
そう言ってルナートの所へと向かっていった。
なぜいつもルナートに勝とうとするのか。
「ユーウーこっちでビーバレしよー」
メイが言う。
レノンとフルールが手を振っている。
……行くか。
そう言って走り出した。
優しくさざ波を立てる海、肌にしっとりと伝わる砂、爽やかに吹き抜ける風、眩しく暖かい太陽がボクたちを包み込んでくれているような気がした。
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