Mr.ハードボイルド ~ゴミ屋敷のシンデレラ

@kkb

第1話

 俺は私立探偵比由らあちゃ。本名比由らあちゃ。人呼んで比由らあちゃ。またあるときは比由らあちゃ。してその正体は比由らあちゃ。

 俺が生まれるずっと前に仮面ライダーという子供番組が始まった。当時、中学生だった親父がたまたまテレビを点けたとき、その初回放送「怪人蜘蛛男」だった。

 親父は番組の途中から見たので、月光仮面と勘違いし、見終わった後になって、「あれ、月光仮面じゃないよ~」と騒いだ。

 番組の人気はすさまじく、当時、自転車から机まで男の子の使うものは、どれも仮面ライダー仕様だった。

 親父はすでに中学生だったくせに、大きな影響を受けた。将来子供が生まれたら仮面ライダーという名前にしよう。親父はそう心に決めた。

 親父は大人になり、お袋と結婚し、俺が生まれた。待望の男の子だ。名前は仮面ライダーで決まり。

 だが、周囲は猛反対。そんな名前が通用するほど、世の中は甘くない。

 妥協して頼太になった。

 俺はらいちゃんと呼ばれた。

 いいにくいのですぐにらあちゃんに変わった。

 名前のことで周囲からいろいろ言われ、親父はプライドを傷つけられていた。

 漁師だった親父は、仕事から戻ると、いつものように酒を飲んだ。

 そろそろ名前を申請せねばならず、親父はひとり尾鷲市役所に向かった。

 酔っぱらっているので、名前の申請がうまくいかず、係から注意され、親父はやけを起こした。

 比由らあちゃんで申請した。

 そのとき「ん」の字が「人」に見えた。

 係はその点を指摘し、さすがにらあちゃ人ではまずいので、親父は再度書き直した。

 また、やけを起こし、「ん」を省略し、「らあちゃ」になった。


 以上の経緯は人から聞いた内容に俺の推測をまじえたものだ。親父本人は名前のことになると、かたくなに口を閉ざすので、本当のことはわからない。


 この名前のせいで、俺は大変な目に遭った。

 小さな子供のうちは問題なかった。幼稚園に行くようになると、変な名前と呼ばれるようになった。

 小学校ではさらにひどくなった。俺は小一の夏から不登校になった。

 ただし、名前が原因ではない。

 当時、三重県南部によく出没した、伊賀忍者の残党に誘拐されたのだ。

 忍者はかなり年輩で、俺を後継者にしようとした。

 まもなく免許皆伝というとき、俺は辛い修行に耐えきれず、忍者のもとから逃げた。俺は抜け忍なのだ。

 ちょうど小六の夏だった。俺は家に戻った。家族はとうに俺のことをあきらめていた。家には三歳になる妹がいて、俺は邪魔者扱いされた。

 学校でも以前にもましてひどい目に遭った。

「らあちゃ」でも通用する世界はどこかにないのだろうか。俺はそう思うようになった。

 俺は小学校を卒業すると、アメリカ合衆国に渡った。

 働かなくては食べていけないので、バーテンになった。バーには船員の客が多かった。彼らの薦めで俺は船員になった。

 豪華客船で働いていたとき、船内で殺人事件が起きた。その船には休暇中のニューヨーク市警の警部が乗り合わせていた。警部は被害者の身内を疑った。

 まだ十代だった俺は、現場の痕跡から真犯人を導き出した。俺は警部の部下として働くことになった。俺の働きにより、ニューヨークの治安がよくなり、警官の人員削減が行われた。

 同僚が首になったことに、いたたまれなくなった俺は日本に戻った。

 俺は個人で探偵事務所を開いた。すぐに忙しくなり、大手探偵事務所から有能な人材を引き抜いた。

 以上が俺の履歴である。


 アシスタントの飯室響子は、俺の説明に納得していないようだ。彼女は5フィート8インチ、130ポンドのぽっちゃり体型を少しでもやせているようにみせようと、タイトスカートのコートを無理して着ている。


「まずはじめに言っておきますが、身長と体重が合ってません」彼女はゆっくりと語り出した。「私は昔、モデルにならないかとスカウトされたことがあります。そのときより多少肉が付きましたが、標準かむしろやせているほうです。仮に太っていたとしても無理して小さめの服なんか着ません」

 彼女の弁解は、いつ聞いても見苦しい。人は誰でも短所がある。その短所に向き合って生きて行かねばならぬのだ。


「弁解なんかしてません。それよりも所長の話、どこからどこまでが本当ですか? 名前の件は本当っぽいですけど、忍者の話になると妄想にしか聞こえないんですけど」

 俺は本当に忍者に誘拐された。

「妄想患者に本当かどうか聞いても無駄ということみたいですね」

 彼女はつまらなそうに言うと、アルバイトの店員を呼び、

「あの、コーヒーやめて、セイロン風ミルクティーに変えてもらえますか」と頼んだ。


 そこは笠松ビル一階正面にあるパスタ屋ポモドーロだった。久しぶりに二人でランチの時間を過ごしている。外観はおしゃれだが、内装は安っぽく、料理のほうはそれ以上に安あがりだ。そのくせ調理時間が長いので、暇つぶしに俺が自分のことを語ったのだ。

 ここはうちの事務所と同じフロアにある。俺は、もっとハイカラで値段の高い店に行こうと言ったのに、彼女は、体重のせいで動くのが面倒という理由で、近場ですますことになった。


「異議あり! 私は外に出たかったので、いつものように所長がトンカツ屋さんに入らないように、先にビルの外に出ました。所長も外に出て安心しました。それがすぐここに入るから、あきらめました。それでも、脂ぎらぎらのトンカツ屋さんよりましですけど」


 レイアウトを説明しておく。笠松ビルは家賃が安いことだけが売りの四階建ての老朽雑居ビルだ。どの階も中央に広い廊下があり、左右にテナントが入っている。

 正面から見て一階左側は、表から、そば屋、トンカツ屋、ラーチャー&スミスバーニー探偵社。右側はパスタ屋、笠松保育園、管理人室となっている。飲食店は廊下からも入れる。たまには外で食事をしたい俺は、揚げ物脂肪系大好きな彼女がトンカツ屋に入らないように誘導して外に出たのに、彼女はパスタ屋を通り抜けてトンカツ屋に向かおうとした。パスタ屋の廊下側のドアを開ける寸前、俺がこの席まで巨体を引っ張ってきたのだ。


 彼女は、自分と俺が入れ替わったことに反論せず、

「いつも思うんですけど、所長は無駄な説明をするんだけど、いったい、誰に説明しているの?」と尋ねた。


 どう答えればいいのだろう。本質を突く質問に俺はたじろいだ。


 たしかに俺は小説のように独り言を言う。まるで何者かに説明しているようにだ。だが、一体誰に説明しているのか自分でもわからない。

 これにはさすがの俺も困った。なにしろ理由がないのだから答えようがない。

 それで俺はガラス越しに表の通りを指して、

「あ、あんなところに幻の高級食材トリュフの集団がレゲエダンスしてる」と嘘をついた。


 するとちょうどタイミングよく、俺がオーダーしたトリュフたっぷり冷凍ミートパスタがテーブルに置かれた。


 俺の独り言が厨房まで聞こえたのか、アルバイト店員が告げ口したのか、店主が俺のテーブルのところまでやってきて、

「安っぽい店で悪かったね。だけど、冷凍食品は出してません」と抗議した。

 同じようにここの悪口を言っていた響子は、すいませんと謝った。

 俺も、「スーパーで買った冷凍食品に高級食材トリュフをかけるなんて発想がすごい」とべた褒めしておいた。

 店主はむっとした表情のまま厨房に戻っていった。


 ちょうど食べ終わった頃、俺の携帯が鳴った。俺はスマホに興味があったが、店員がガラケーを勧めてきたので、いまだにガラケーだ。ガラケーを勧められた理由は、俺にスマホを売るのがどれだけ大変か、店員が感づいたからだ。


「早く出たら?」

 響子に促されて俺は電話に出た。

「もしもし」

 男の声がする。

「男の声じゃないよ。田中産業です」

 田中産業は廃品回収業を生業にしている零細業者だ。俺とは長いつきあいだ。

「そんなことわかってるから、話聞いてよ」

 俺は彼の言葉に耳を傾けた。

「本当にやりにくいね。仕事の話だけど、あさって空いてる?」

「俺はいつだって、風の向くまま気の向くままさ」

「井上君が風邪で寝込んでて、人足りないんだ」

 井上はほぼ個人経営の田中産業の唯一の従業員である。

「唯一とかうるさいよ。今度のは本当にすごいらしいからな。井上君が見に行って、ショックで風邪引くぐらいのゴミ屋敷。しかも女の子一人で住んでいるんだって」

 井上の風邪が仮病だと、俺は口が裂けても言えなかった。

「そんなことないよ。俺、風邪うつりそうになったもん。じゃあ、あさって、朝九時に迎えに行くから。自宅それとも事務所?」

 俺はセキュリティにうるさい最高級タワーマンションで生活している。不審な人物は近寄ることもできない。そのくせアンテナレベルが低いから困ったものである。

「わかった。事務所ね」

 そう言って、田中康明は電話を切った。



 翌々日の朝、約束どおり田中は九時に来た。ここで彼との関係を簡単に説明しておく。

 我がラーチャー&スミスバーニー探偵社は、本業である探偵業の他に、害虫駆除や廃品回収を請け負う場合がある。といっても、探偵の仕事から派生した副次的な業務なので、専門業者に依頼する。

 しかし、ただの中間業者ではなく、人手が足らない場合などは俺自身が作業に参加することもある。俺自身は乗り気ではないが、不幸なことに何をやらせても極めて優秀なため、業者のほうから是非にと頼まれ断れないのだ。

 探偵業に専念するのが本来のあり方だが、どんな難事件も、ものの十秒もあれば解決してしまうので、時間が余ってしまう。それでこのごろは、探偵業のほうはアシスタントに任せている。


 今回の場合、通常とは逆のケースで、廃品回収業者が請け負った仕事で人手が足らず、俺がわざわざ作業現場に出向くことになった。


「是非にと頼んだわけじゃないよ。いつも仕事をもらってるから、たまにはお返しもしないとね」

 俺は、田中産業代表田中康明の運転するトラックの助手席にいた。

 俺より五歳年上で、こんがりと日に焼けたたくましい体つきは、肉体労働のきつさを物語る。若い頃は相当女にもてたらしく、酒を飲むと昔の自慢話を吹聴してくる。

「まあ、もてたといえば、もてたような感じかな」


 車内ラジオの音が大きい。馬鹿なDJがリスナーからのくだらない体験談を、そのまま読み上げている。こんなものを聴いて何がおもしろいのかさっぱりわからない。俺としてはボリュームを絞ってほしいが、他人の車なので言い出せるような雰囲気ではなかった。

 俺の気持ちを察したのか、彼はボリュームを一段下げた。


「彼はボリュームを下げたって? 自分で下げておいてよく言うよ」

 俺は、音量調整した手を引っ込めた。


 そうこうしているうちに現場に到着した。


 住宅街の一角にある足立家は、この近辺でよく見かけるこぎれいな建て売り住宅を購入したものだ。

 二階建てで築年数は十年といったところだ。

 それなのに、

「ひでえな。廃墟かと思った」

 それが田中の最初に発した感想だった。


 それは世に言うゴミ屋敷だった。


「俺もいままでいろいろ汚いとこ扱ったけど、これだけのものは初めてだ」

 廃品回収のベテランの言葉だった。


 家の周囲にはゴミが積み上げられ、二階建てなのに、一階が見えなかった。


「どうやって生活してんだ」

 田中の疑問は、どこから出入りしているかという意味だ。

「その通り、これじゃ一階に入れない」

 俺は、

「ゴミの上を歩いて、二階の窓から出入りしてる」と答えた。

「まさか」

「よく見ると、ゴミはランダムにたまったものじゃなく、まるで計画的におかれたようだ。足場が確保されている」

 家具、自転車、ロッカー、洋服かけ、鉄パイプなどが骨格をなし、その周りをゴミなどを詰めた袋を肉のように置いてある。特に地面に立つ脚立は念入りに隠してある。

「本当だ。ロープで固定してある。たぶん、俺みたいな業者が協力したんだ。あんた、頭いいんだな」

「俺はこの程度のことに頭を使わない。足の親指だけで導き出した」

 そう俺は言ったが、全部、アシスタントの飯室響子から教えてもらったことだ。


 このゴミ屋敷は結構有名で、以前、彼女が好奇心を出して、調べてみたことがある。

 住んでいるのは、足立ねねという二十歳の女子大生ひとり。以前は両親と祖母の四人で暮らしていた。銀行員の父親が転勤することになった。地元の大学に通っていた彼女は、両親についていかず祖母と二人ここに住み続けた。昨年祖母が亡くなった。

 それからゴミ屋敷と化していった。

 俺から女の子一人で住んでいるゴミ屋敷と聞いた響子は、すぐに例の物件だと思い当たった。



「そんな説明どうでもいいから、さっさととりかかるぞ」

「一応、住人の許可をとらないと」

「ああ、もちろん」

「すいませ~ん」


 玄関前には立てないので、ゴミのすぐ近くで田中は住人を呼んだ。

 それから二、三度呼んだが、反応はない。

「行く前に連絡とったけど、留守かな」


 数十秒後、窓から若い女が顔を出した。さすがにパジャマではなかったが、髪はぼさぼさで慌てて普段着に着替えた様子が窺える。

 彼女は、窓から体を出すと、器用にゴミの上を歩きながら、下まで降りてきた。

 彼女は、これといって特徴のないもさっとした顔で、まだ眠いのか、あくびをしたり、目をぱちぱちさせている。


「ごめんなさい。寝ちゃった」

 と俺たちにぺこりと頭を下げた。

「え、何? この人」といって、俺を指さし笑う。


「俺の仲間だけど、いつも独り言話してるから気にしないで」と田中がへたくそな説明を試みた。

「へたくそで悪かったな」

 それから田中は、「田中産業です。ゴミ片づけさせてもらいます」といって、彼女に頭を下げた。

「しゃべってないで、おまえもお客さんに頭を下げろ」と俺に怒鳴る。

 俺は形ばかり頭を下げ、「よろしくおねがいします」と愛嬌を振りまいた。


 彼女は、玄関の鍵を俺に渡すと、

「それじゃ、よろしく」といって、どこかへ歩きさった。


 彼女の姿が消えると、田中は、

「それじゃ、よろしくじゃねえよ。どうやったらこんなふうになるんだ」と客の悪口を言った。


 ゴミは予想以上に多く、不法投棄場まで何往復もした。不法投棄はれっきとした犯罪だが、関係各所への付け届けが効いて見逃してもらっている。

 外が片づき、鍵をはずし、玄関ドアを開けると、中から洪水のようにゴミが飛び出してきた。

「これじゃあいつまで経ってもきりがねえ」

 ベテラン業者も悲鳴を上げた。

「どこからこれだけのゴミ、集めて来たんだ」

 一階はゴミで詰まっていった。

 トライアスロンに毎年出場し、無尽蔵のスタミナも持つ俺ですら疲労困憊し、作業が終了したのは、夕方遅くなってからだった。


「おい、始めたばかりぞ。手休めないで」と注意された。



 外のゴミだけでトラックは往復することになった。

 コンビニ弁当で昼食をすますと、いよいよ家の中だ。

 玄関のドアを開けるにも危険が伴う。開けたとたん、大量のゴミが押し寄せると予想される。だが、田中代表は、怖じ気づくこともなく、ドアノブに手をかけた。


「空想はもういいから、現実に戻ろう。なんのために君を呼んだと思う?」

 田中はにやにやしながら俺に言った。

 俺は、あくまで彼の補助的役割だ。


「その補助が、玄関開けることだよ」

 そう言いながらもベテラン業者は、自分で開けた。


「自分で開けたくないから、君を呼んだんだよ」


 尾鷲の漁師からポセイドンと恐れられた俺だ。この程度のことは屁でもない。

 俺は、住人から受け取った鍵をドアの鍵穴に差し込み、回した。

 ドアノブに手をかけ、回す。前に押すがびくりともしない。後ろに引くタイプだ。ゆっくりと引く。


 ゴミの重圧がいやおうなく押し寄せる。俺はゴミの津波に飲まれ、下敷きになった。

「助けてくれ」

 田中に助けを求めたが、

「これも運命なんだよ。あんたはゴミに埋もれて死ぬんだ」

 といって、なにくわぬ顔でタバコを吹かしている。


 しかし、ドアを開けると、新築の家のように綺麗な玄関があった。ゴミのかけらひとつなかった。


「どういうことだ?」田中が驚いた。「ゴミは外だけ?」

 家の中はゴミ屋敷ではなく、人が普通に暮らす住空間だった。むしろ普通の住宅よりも清潔だった。

 俺たちは予想外の展開にあっけにとられた。

「わけがわからん」と田中は言った。

「きっと彼女は人見知りだったんだろう」

 そう俺は推測した。あれだけのゴミがあれば、訪問販売や宗教勧誘は近寄れない。泥棒よけにもなる。


 一階だけでなく、二階もゴミはなかった

「まずいな」

 彼が言った。 

「何が?」

 俺は聞いた。

「足下を見ろ」

 言われた通りにした。絨毯のしかれた床があった。

「そうじゃなくて」

 彼の言いたいのはきっとあのことだろう。俺達はゴミ屋敷と思って家に入った。玄関から見る限りごく普通の家だったが、奥のほうにゴミがあるかもしれず、靴を履いたまま上がってしまった。二階まで確認して、ゴミがないと判明した。土足のままで上がったことは失敗だった。

「つまり、そういうこと」


 それから外の残りのゴミもきれいにし、仕事を終えることにした。

 田中は足立ねねに連絡を入れた。

 彼は「はい。わかりました」と言って携帯を切ると、

「今日は友達の家に泊まるから、鍵は預かって欲しいって。うちの場所がわかりにくいみたいだから、あんたのところの話したら、ポモドーロの入ってるビルならしってるから、明日とりにうかがいます、だそうだ」

 といって俺の肩をたたいた。

 ねねが明日俺の事務所を訪れ、俺から鍵を受け取る手はずになった。その間、俺が家の鍵を預かることになる。

 見ず知らずの人間に大事な家の鍵を預けるとは、不用心すぎる。相手がたまたま俺だったからいいようなもので、もし田中某なんかに預けたら、中のモノ、トラックでごっそり持っていかれて、顔見知りの業者に売られてしまう。


「その田中って俺のこと?」

「そんなはずないですよ」

 と俺は否定したが、本人に向かってあなたのことですなどとは言えない。

「やっぱり、俺のことか。まあ、いいや。疲れたから怒る気も起きない」


 俺は玄関の鍵をかけ、コートのポケットに入れた。

 そのときタバコの箱に手が触れたので、二本とりだし、一本を田中に渡した。


「気がきくね」

 俺は、百均で買えるはずがないが百均で見つけたジッポーでタバコに火を点けた。仕事の後の一服は最高だ。

 俺はタバコをふかしながら、トラックに積み上げたゴミの山を眺めた。

「あれが全部金だったら、最高なのに」といって、彼に同意を求めた。


 しかし、田中は金儲けに関心がないのか、

「俺にも火」と言った。「気が利かないな~」

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