第130話 博物館

 『青龍新聞』を読みながら、もしかすると、これはかなり使えるかもしれないと思い、瓦版を売っていた男に以前のものを見ることが出来ないか聞いてみる。

 すると、如何にもそんなことも知らないのかという感じで、ついてこいと言う。

 後をついて行くと、青龍博物館というところに案内された。


 途中、男が調子にのって話した内容によると、どうやら、この瓦版を発行しているところが運営しているらしい。

 博物館に着くと、男はそのまま中に入っていく。

 俺たちもそのまま後について中に入ろうとすると、「入場料を払え」と言われてしまった。

 入場料を払って中に入ると、先ず、龍の置物がところ狭しと置いてあった。大半は木彫りだ。


 次に、領主である青龍の小さい頃からの肖像画が何枚も飾ってあった。

 小さい頃の肖像画はかわいらしさを重要視してあったが、大きくなるに連れて、威厳を重んじる様に書かれている。

 おそらく領主である青洲の意見を基に描かれているのであろう。


 中には顔が青色になっていたり、龍の様に長いひげがあって(俺たちは実物を見たことがあるが、彼にそんなひげはない)、露骨に、龍に似せて描かれているものもあった。

 肖像画の先に瓦版が置かれている場所があり、そこにこれまでの瓦版が製本された状態で並べてあった。


 読んでみると、今回と同じでその日に青龍が何をしたかを中心に記載されている。

 彼の場合、どうやら午前中に参拝するのが日課なようだから、どうしてもその時の行列がどうだったという感じがことが多い。


 俺が瓦版を見たかったのは、戦のことがどの位書いてあるかだ。

 いくら参拝が日課の青龍でも戦となれば、前線に出ていかなくてはならない。瓦版に、その時彼が何をしたのか、どのくらい書かれてあるか知りたかったためだ。

 思ったよりかなり詳しく掲載されている。

 しかし、如何に青龍が活躍したかということに重点が置かれているので、あまりに超人的な活躍ぶりが書かれており、どこまで本当のことかわからない。


 例えば、実際書かれていた内容によると、ある戦で青龍が単騎で敵陣に乗り込み、陣を真っ二つにしたとされている。

 絶対にあり得ない。

 おそらく中央突破の陣を敷いて、敵陣を切り裂いた際、青龍もその中にいたのであろうが、彼一人そんなことができるはずがない。


 しかし、参拝の時、俺の科白がいつの間にか、青龍の科白になっていたように、おそらく彼以外の者が行った偉業も彼が行ったことにされているのであろう。 


 それ以外に目を引いたのが、青龍が述べたと思われる神託らしいことも掲載されていることだ。

 今日は何をしたら良いとか、どこの方角には向かうべきではないと言ったことが書かれている。

 国民の皆ということはないであろうが、かなりの者がこれに従っている姿を想像したら、ふと笑いがこみ上げてきた。


 記事には、午前中の参拝だけではなく、時には午後にどこの国の使者が来て、会見したなどということも書いてある。

 最初俺は、この瓦版は個人(または青龍の信奉者と言い換えてもいいかもしれない)が勝手に発行しているものだと思っていた。

 しかし、ここまで詳しいことが掲載されていることや、博物館にこれだけの肖像画あることから明らかなとおり、どうやら国もしくは領主である青洲が関与しているのは間違いないと判断した。


 そんなことを考えていると、小夜と信義が俺に合図を送ってきた。

 それで俺もやっと気が付いたが、誰かが先程から俺たちを注視しているらしい。

 どうやら、参拝での一件といい、青龍博物館を訪れたことといい、どうやら松原の国の者に目をつけられてしまった様だ。

 松原程の大国であれば、岩影のような組織がないはずがない。

 下手に瓦版などを読んでいれば、ますます目立ってしまう。


 せっかく桝屋との関係もできたのに、俺が下手に問題を起こせば、甘利も今後商売ができなくなる可能性もある。

 ここは観光客のふりをして、龍の置物などをみて感心したふりをしておいた方が無難と考え、早速行動に移す。

 最悪、博物館を出た辺りで、拘束されるかもしれないと思っていたので、わざと大声を出して話をして、人目を引いたり、雅にじゃれ付いたりした。


 これまでの雅の反応からして、あまり良い顔をしないと思っていたが、雅もまんざらではない様子なのは嬉しい誤算だった。

 それに俺たちの悪ふざけが功を奏したのかわからないが、松原の手の者が現れることはなかった。

 しかし、油断はできないので、わざと人通りのとおりところを歩いて、今にも観光地というところを観光して、日が暮れるまでには宿に戻った。

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