第88話 見合い

 今回、思うところがあって東郷への同行は小夜と信義にした。

 十蔵は何故、自分ではないのかと絶対疑問に思うと考えたので、呼び出して、訳を説明する。と言っても、大したことではなく、「そろそろ嫁をとれ。」という話だ。

 いつまでも、俺の面倒をみて、独り身というのは、俺の外聞にも関わって来る。

 若家老の息子で、次期領主の懐刀とくれば、いくらでも縁談はあるだろうに、どうも仕事(俺)に託つけて全て断っているらしいので、時間を作ってやったという話だ。


 嫁取りの話をしたら、十蔵は正直あきれ反っていた。

 十蔵とそんな話をしていると、三川(克二)から手紙が届いた。

 内容は、東郷への留学の件が正式に決まったとのことだった。

 喜んでいると、後ろに何か不吉なことが書いている。「1つ貸しだから、俺の顔を立てて、見合いをしてくれ。」とある。


 思わず、顔が歪む。十蔵が「どうかしましたか?」と聞いてきたので、手紙を見せると、本当に愉快そうに笑いだし始めた。

 ここで俺が本気で思ったのは、「他人に貸しを作るべきではない。」ということと、「他人にいらぬおせっかいをすると、自分にそのまま反ってくる。」ということだ。

 あまりに十蔵がニコニコしているので、「だったら一緒に見合いをするか?」というと、恐れ多いと断ってきたが、俺は本気で、悪くないと考え始めていた。


 というのも、見合いといっても、会ってしまえば、断るのは難しいのが現状だ。

 ただ、俺は今回の留学もそうだが、やりたいことが多くあり、とても嫁をもらう気にはなれない。

 そのため、俺は、見合いの相手には、最初からある程度の条件を付けるつもりだ。

 ただ、それでも三川と水穂の力関係を考えると会わなくてはならないことも考えられるので、そのときは、最悪十蔵を生贄に差し出そうかと思っているだけだ。


 いや言い方が悪かった。

 あくまで十蔵の嫁を探す対象を水穂領内から三川領内に変えるというだけの話だ。

 そういうと、十蔵も「私にもやるべきことがあるのです。」と言いそうだが、俺と十蔵は年齢が違う。

 俺はまだ若いが、十蔵は俺より5歳年上だ、その歳で、独身というのはそうはいない。

 単にそれだけであり、何も俺だけが気ままな生活を謳歌しようと思っているわけではない。「絶対違う。」はずだ。


 ま、何にしろ、そうなると十蔵の水穂領内での見合いはなくなる訳で、俺の面倒を見ることが主な仕事である十蔵にしてみれば、水穂でやることがなくなってしまうことになる。

 ま、これは、これまで頑張ってきてくれたことに対する休暇と思えば良いか。


 何にしろ東郷では、信義を使って試したいことがあったので、信義を連れて行くことは決定事項だ。

 やはり長期間留守にするとなると、やるべきことはたくさんあり、あっという間に時間が過ぎて行った。

 何だかんだ言って、今回の戦での戦死者は前回ほではないとはいえ、やはりそれなりの数には上ったし、俸禄の増減も少なからずあった。


 結果、かなりの異動があったし、俺直属のような部下も増えて、それなりに領主らしいまねごとをやっていたので、それを全部慎介に説明するのは、やはり結構大変だった。

 それに、今回東郷に行く前に何としてもやっておきていことがある。

 母上と弟への面会だ。

 どうも、母上とはこの頃うまくいっていない。


 以前は、小夜を連れていくことにあれだけ反対していたが、今回は反対すらしない。

 反対されないのは、良いことなのだが、どうも感じが良くない。

 以前は、俺のすることにいろいろ干渉してきてうるさいくらいだったのが、今ではそれも全くと言ってより程ない。

 まるで、俺自身にそれほど関心がなくなってしまったような感じがしなくもない。

 ある意味、俺の自業自得の面のなくはないが、一抹の寂しさを感じる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る