第83話 調略1

 春の信夫攻略に向けて、俺は頭を悩ませていた。

 このままほおっておくと、雪が融けた春には、庭先奪還の軍が送られてくる可能性が高い。

 現在の庭先と丹呉の兵力だけで、防衛しなければならないとなるとかなりきつい。

 どうしても、水穂との連携が必要となるが、地理上の関係で時間がかかるため、うまくいくかわからない。


 これを防ぐためには、水穂から兵力を補充すれば良いわけだが、庭先、丹呉の今は当主がいなくとも、後継ぎがいる家のために、ある程度の余裕は残しておきたい。

 そうはいっても、国が滅んでしまっては意味がないから、どうしてもとなれば、水穂から兵を呼んで俸禄を分け与えるしかないが、できればしたくない。


 やはり一番確実なのは、春になってから、三川からの軍と一緒に、信夫攻略を行うである。

 そうなれば、全ての信夫兵がこちらに来るということはないであろうが、その代わり、こちらも兵を出さなければならない。

 こちらから出陣するとなれば、信夫側は籠城戦をするであろうから、間違いなくこちらにも、かなりの犠牲がでる。


 庭先、丹呉はやっと兵がなじんできたところなのに、ここでまた兵の異動となれば、かなりの困難が生じるであろう。

 できれば、それも避けたい。

 となれば、如何に少ない犠牲で信夫攻略を成し遂げるかを考えなくてはならない。

 そうなると、普通に考えれば調略だろう。


 特に信夫地方では三川が攻めてきたときには、互いに連合を組んで対抗していたので、他国の武将についても皆それなりに知っているはず。

 そこで、咲に調略できそうな武将がいないか確認してみると、どうもそれらしい者が数名心当たりがあるということだった。


 候補が見つかれば、後の説明は極めて簡単だった。

 信夫8ケ国全土を合わせても、出せる兵は最高で4000そこそこだ。

 それに対して、三川が南から20000強の兵で攻め込む、更に水穂が西から2500で攻め込むとなったら信夫に何ができるという話だ。


 当然信夫は兵を分けるしかない。

 おそらく、南に3000、西に1000といったところだろう。

 これまでは、南だけに備えていればよかったが、今度は西にも備えなくてはならない。

 何だかんだ言って、毎年1~2国は三川に落とされているが、西からも攻め込まれてこちらも万が一落ちるとなると・・・という話をすれば、間違いなく顔色が変わるはずだ。


 もともと、信夫地方が互いに兵のやり取りをしているといっても、どうしても地理的関係で利害関係は生じる。

 最もわかりやすいのは、南に位置する、信前、信中、信後の3国だ。

 これらの国してみれば、いつ三川に攻め滅ぼされるかわからない。

 となれば、他の強国と手を結びたい。


 東郷の国が既に三川と結んでいる以上、残るは信夫の北に位置する大国松原と結ぶという選択肢しかないのだが、これはいろいろ松原と因縁のある柿崎と俵の2国が反対して具体的な話は進まない。

 夫前、夫中、夫後も焦ってはいるのだが、極端な話、最低まだ1年はあるという、どこか現実逃避をした考えを持っている者も結構いる。


 そうなると、もはや信夫地方に先はないと考えるものがいたとしても何の不思議もない。

 俺たちの庭先統治のやり方は見ているから、俸禄の減少も1/10で済むのなら、三川に併合されるよりはという考えを持つ者が出てくるのも当然と言えば、当然だ。

 それにあくまで1/10というのは原則であって、先に裏切ったという褒美のようなものがつけば、俸禄はそのまま維持、働き具合によっては逆に増加という話をすれば、かなり耳に入りやすい。


 小国の寄せ集めだから、三川に対抗できたという面がなくはないが、そうした寄せ集めだから、最後の意思決定ができないという悪い面がでてしまっているという感じだ。

 もう少し数が減れば、意思決定も楽になるのだろうが、そうなるともはや三川に対抗できる兵を確保することもできなくなるので、信夫地方そのものが、まるっと併合されかねないというかなりひどい状態になってしまっている。


 俺はこうした状況を利用し、咲の紹介してくれた武将と連絡をとろうとしたわけだが、咲が紹介してくれたのも信前、信中から1名ずつであった。

 実際接触してみると、びっくりするほど簡単に寝返ってくれた。

 そして、その者から、あの秋山風音は今、信中に滞在しており、俺に対してひどい逆恨みをしていることなど、こちらから聞いてもいないことについてもいろいろと教えてくれたのには驚いてしまう程だった。 

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