第63話 難問
俺が水穂に帰る直前に使いの者が来て、信夫地方を攻略できたら、水穂に併合する件については、了承したという返事を残していった。
使者の様子を見るに、明らかに水穂を馬鹿にしており、「できるものならやってみろ。」という感じが漂う。
はっきり言って、どうせ攻略などできもしないのだから好きにすれば良いという感じが見て取れた。
俺が水穂に帰り、水穂単独で信夫地方を攻略することになったという話をすると、やはり最初は皆、十蔵と同じで、「又しても、何を勝手に決めてくるのか。」という反応だったが、そこに至るいきさつを説明すると納得してくれたのは十蔵と同じであった。
皆、せっかく解放されたばかりだというのに、形を変えて支配されたのではたまらないという思いがあった。
それに、それでは笑って死んでいったものは報われない。
それより問題は俺が同意した三川からの秋山家よりの受け入れであった。
俺としては、今後は年貢が免除されるのだから、当然家臣団も増やせるはずで、その増えた分で彼らをと考えていたのだが、どうもそう簡単にはいかなかった。
というのは、家臣たちにしてみれば、税がなくなるということは、それだけ自分たちの取り分が増えると思っており、結果、自分たちが雇える兵が増える、自家の勢力が増すということを考えていた。
それが、他の家のために、それも恨み重なる三川兵のため、自分の家の収入が減るということは我慢できないことだった。
それに、これまで我慢してきた分、贅沢もしてみたいと思っている者もいるらしかった。
岩影は幸い、もともと自分たちが住んでいる土地をもっていたので、それを彼らの領地としてしまえば、解決する話であった。
当然、総額ではその分、皆に分配する分け前が減ることになるわけだが、水穂全体としてみれば、それほど大きな問題ではなかった。
ところが、三川から秋山家関係者を受け入れるとなると、当然新参者なるわけだが、これまでの俸禄の関係もあるので、全く新参者と同じいうわけにもいかないだろう。
それに俸禄を与えるとなれば、仕事も与えなければならないが、新しい仕事がどこにあるのかという問題もある。
更には、場合によってはその新参者に俸禄で負ける古参も出てくる可能性があるわけで、古参にしてみれば、心穏やかではいられる話ではなかった。
今回の功労者である俺の決断なので、表立った反対はないものの、明らかに皆の目が冷たい。
とりあえず、三川兵は俺直轄ということにし、俸禄については、後日精査の上でという形で、問題を先送りすることとし、解散となった。
頭が痛いのはそれだけではなかった。
当然、信夫攻略は勝手に約束してきた俺の責任だ。これをどうするか考えないといけない。
小夜を呼ぶ。
この小夜だが、以前から武士になりたいと言ってきていたので、玄悟とやりあってまで、推挙してやったわけだが、それ以降どうも態度がよそよそしい。
「武士になれるぞ。」と伝えた時は、変な顔をして、嬉しいのか嬉しくないのか良くわからない表情をしていた。
ま、今はどうでもよい話だ、小夜を呼んで岩影がどの程度信夫地方について知っているか確認するが、案の定というべきか、三川ほど詳しいことは知らないらしい。
それにやっかいだったのが、これまで信夫攻略は、三川が主で、水穂はそれに援軍を送るという形で、行われてきたわけなので、当然、三川よりのところから攻めこんでいた。
今回、水穂が単独で攻めるとなると、水穂と国境を接しているところから攻めるわけだが、これは今まで殆ど例のないことであった。
結果、三川と接っしているところなら、過去の経験からそれなりに情報はあるものの、水穂と接している信夫地方の2国(丹呉、庭先)については、通り一遍のことしかわからないという話であった。
これではまず、この2国を知ることから始めなければならない。
「水穂が解放さえされれば、問題が解決するはずだったのに、依然として難題が山積み。」というのが俺の正直な感想であった。
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