第61話 会談3

 克二に会う際の手続きが、いままでとは全く違う。

 これまでは、克二に会う前に殆ど検査らしい検査等はなかったし、取り次ぎも顔馴染みの者一人だけであったが、今回は何度も身体検査を受け、何人もの者に取り次いでもらってやっと面会となった。

 幸い、克二の俺に対する扱いは基本的に変わっておらず、会うなり、「いろいろ面倒だったろう。国を二つに分けた戦いの後だから、皆が少し神経質になりすぎているので、許せ。」と言ってきた。


 そして、早速「来てもらったのは他でもない。水穂と三川の今後の同盟についてだ。」と言ってきた。

 「水穂は解放する。これは約束だから当然だが、対等な同盟という話をしたら、家臣から反対意見が相次いで、頭を痛めている。」と続けた。

 又しても、俺は自分の甘さを痛感させられた。

 解放さえされれば、それで全ての問題が解決すると思っていたが、いままで属国の様に思っていた三川の人々がいきなり意識を変える筈がない。


 また、克二がそう決めたとしても、それですべてが決まるわけではなく、家臣団の説得などが必要になるということは俺自身がいやという程経験してきたことだ。

 そう考えると、ある意味、こう言う反応が起こるのは当然のことかもしれない。

 なんでも対等な同盟というのであれば、それなりの力を示せというのが家臣の総意らしかった。

 具体的には、信夫地方の国を独力で、1つか2つ落としてみろということらしい。


 そう言うことならばと年貢のことを切り出す。

 戦をするには食料が必要なので、今年三川に納める分の年貢を使うことを条件に信夫地方への出兵について同意した。

 恐らく、今、国が乱れている三川としては今年の出兵は難しい、そこで替わりを探したというところだろう。

 それに秋山風見達が本当に信夫に逃げたのなら、彼の強さを知っている三川兵にしてみれば正面からやり合いたくないというのもあったのかもしれない。


 この話が終わると、「難しい話はここまでだ。」と言って、克二は話題を切り替えた。

 「実は加藤信義等何人か水穂で、受け入れてくれないか?」という。

 元々三川に剣術指南役を排出する家が二つあったのは、これは秋山家よりと青柳家よりの2つがあったということだった。

 加藤信義の父親は、秋山家よりで、壮絶な戦死を遂げたが、信義は幸い戦には参加していなかった。


 本来なら、お家断絶だろうが、そんなことをすれば、反感が強まるだけだ。

 かといってこのまま、領内に置いておくのも、いらぬ騒動のもとになるし、双方どちらも気まずい、そこでどうするかと考えていた時に、俺が克二にしていた学校(信義)の話を思い出したというわけだ。

 つまり克二の言いたいことは、彼らを水穂で受け入れてくれないかということだった。

 こちらも今後兵は必要となるので、具体的に誰をどう受け入れるかは後日精査することとして、大筋では同意することにした。


 どうも克二が元々話をしたかったのは、この件で、秋山家についた者の一掃先を考えていたということらしい。

 だったらと、俺も条件を出す。

 「水穂が独力で信夫地方を攻略するのだから、平定した国については、水穂への併合を認めてもらいたい。」と言ってみた。

 克二は、難しい顔をして「自分の一存では決めかねるので、家臣と相談させて欲しい。」と言ってきた。


 本当に難しい話が終わったのはこの時で、後は、新之助や信三の近況等に話を咲かせた。

 信三の話が出た時、少し克二の顔が曇ったが、直ぐ平常に戻り、暫くして俺も退席した。


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 1人残った克二。

 ふと先程の話で出た信三のことが頭をよぎる。

 というのは領主になり、父親の隆明の部屋に入った時、偶然父親の書きのこした時期領主についての書置きを見てしまったからだ。

 それによると、実は父親は西の方を無理やり側室にしたという負い目を持っており、その意味からも信三を後継ぎにしたいと考えていた。

 しかし、信三の性格から領主となるのはあまりに現実的ではないと考えていたし、北の方の反応が怖くて公表できないでいたようだ。

 結果、こうしたことから、勝一を領主にするのをしぶるということになった。

 もしも隆明があのように急死することがなければ、信三が次期領主になっていたかもしれないと思うと少し、心が痛む克二であった。

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