第46話 博打2

 夜通しかけて帰って来たわけだから、眠くて仕方がないし、正直父親に何を言われるかわからなかったから会いたくなかったが、そうも言っていられない。

 すぐに城に使いをやり、会う手筈を整えた。


 父親は、明らかに当惑していた。

 大体のことは片桐慎介から聞いているが、自分の息子が下手をすれば、国を滅ぼすようなとんでもないことをしでかしてしまったのだから、当然と言えば当然だろう。

 息子のしでかしたことは、確かに軽率かもしれないが、国のことを思ってのことというのは見てとれる。

 だからこそ、単純にしかれば良いとも思えない。

 しかし、国の危険にさらすような行為を良しと、するわけにもいかない。

 そうしたことを考えると、何を話したら良いのかわからない。まさにそんな感じだった。


 結果、父親が最初に話した言葉は「1年ぶりか、久し振りだな。大きくなったな。元気にやっておったか。」と言う、極めて差し障りのないものであった。

 俺はとりあえず、「お陰様で、元気にやっておりました。」と答える。

 本当はすぐにでも、出兵の話をしたかったのだが、俺も何と言って良いのかわからない。

 気まずい雰囲気と、沈黙が辺りをつつむ。


 それを破ったのは、父親の「此度の事、どう思う。少しは反省しているか?」と言う言葉であった。

 いきなり来るかと多少面食らったが、覚悟は出来ている。

 「反省はしておりますが、後悔はしておりません。」とまっすぐ前を向いて言えた。

 すると、父親は少し嬉しそうな、それでいて、どこか寂しそうな、何とも言えない表情をして、「そうか。」と呟いた。

 また、沈黙が辺りを支配するが、今度は前回程気まずくない。


 暫くして、父親が、「私もこの国を何とかしようと頑張ってきた。しかし、何も変えることが出来なかった。ある意味、変えることが恐かったのかもしれぬ。」

 「確かに、葛川家の支配は過酷と言っても良い。しかし、生きていけない程ではない。」

 「明日もたぶん良くはならないだろうとは思いつつも、今日と同じ明日が来ることは予想出来る。」

 「私は、それで良しと思う様にしてきた。」と独り言を言うように話はじめた。


 「だが、今回茜の行動を見て思った。良くするということは、変わるということだ。」

 「変わるということは、良くなるかもしれないが、悪くなるかもしれないと言う意味を含んでいる。」

 「だがら、水穂の国が良くなってもらいたいと思っているし、茜に何が出来るか見てみたい。ただ、もしかすると悪くなるかもしれない。それもとんでもなく・・・。」

 「そういうことを考えると、国のために今、私に何が出来るか、何をすべきかと何度考えても結論が出んのだよ。」


 最後は、何とも言えない声であった。

 これは、父親の偽らざる言葉だろう。

 どうしたら良いかわからない。しかし、領主である以上、この国の命運を決める決断をここでしなくてはならない辛い立場。

 家臣を前にしては、絶対に言えない弱音が、俺を前にすると、つい出てしまう様だ。


 たぶんこれ以上父親を説得しても無断だろう。

 しかし、何としても軍は出さなくてはならない。

 さもなくば、仮に勝ったとしても克二は何の貢献もしていない水穂の解放に同意しないであろうし、それ以前に克二が内戦で負けて討ち死でもされた日には、目も当てられぬ。


 そこで、俺は「ある意味博打でこざいまする。絶対勝つはずの勝負で負けることもあれば、その逆もあります。結局、最後は時の運というなのでしょう。」

 「どうでしょう、家臣団の説得をさせてもらえませぬか?家臣団が軍を出すことに消極的だということはきいております。」

 「私が彼らを説得できれば、それも1つの時の運だと思ってはいただけませぬか。」と続けた。


 「皆が納得するのなら確かに時の運かもしれぬ。」父親はそうつぶやくと、至急主だった家臣たちを城に呼び寄せることに同意してくれた。

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