第4章 内戦
第45話 博打1
国に帰ると真っ先に片桐家に向かった。
家臣団の説得の状況を聞くためである。
しかし、どうも十蔵の様子がおかしい。はっきりいって、いつもと異なる感じだ。
どうも、話を聞いてみると、十蔵はかなり慎介に派手に怒られたようだ。
正直、気持ちはわかる。
人質となって他国でおとなしくしているはずの次期領主が、領主にもなっていないのに、勝手に国を賭けた大博打を打とうとしているのだ。
なおかつ、自分の息子は傍にいながら、それを止めるどころか、一緒になって打っていたというのだから、親が怒るのも当然だ。
本当に、我ながらとんでもないことをしたものだ。
しかし、さすがは、十蔵の父親である。
ここまでくれば今さらおりるということができないことは良くわかっている。
どのみち、水穂の次期領主が、三川の片方の領主候補にここまで肩入れしてしまった以上、負ければただではすまないことは明らかだ。
となれば、何とかこの大博打に勝って、今の属国のような立場から解放されるようにするしかないと、既に理解している。
それは頭ではわかっているが、これだけ大事な案件を勝手に進めて、事後承諾で承知しろと言われても、気持ちが納得せず、怒らずにはいられなかったというのもわかる。
それに本当は俺に文句を言いたいのだろうが、それは間違ってもできないから、結果、その分、自分の息子に怒りの矛先が向いたのだろう。
それを見て、正直、俺は父親と会うのが少し怖くなった。
あの父親が俺のところを思いっきり怒るところは想像できないが、「今回ばかりは本気で怒られるかもしれないな。」と思った。
そして、慎介はさすがというべきか、やるべきことは、いろいろやっていてくれた。
とりあえず、主だった家臣には既に話をしていてくれたということだったが、正直どうも家臣たちの反応はいまいちだったそうだ。
確かにこれもわからない話ではない。
三上の国で領主が急に亡くなったと聞いて、びっくりしながらも、家臣の間では、皆が、跡目は「勝一だろう。」と思っていたところ、いろいろもめているという話が伝わってくる。
「それは大変だね。」位の気持ちでいたところに、いきなり若家老が、実は次期領主がその片一方の候補に肩入れしているという話を急にしてくる。
なぜ、そんな話になってくるのか全く理解できないうえに、俺の独断専行に「若は勝手に何をしているのだ!」という反感しか返ってこない状況らしい。
この反応もわからなくはない。
本来人質の身であり、異国でおとなしくしているはずの俺が、何やらわけのわからないことに首をつっこんで、勝手に国を危険にさらすとは、といったところだろう。
それだけでも憤懣やるかたないところに、「軍をだせ。三川を攻めろ。」と言ってくるわけだから、気が狂ったとしか思えないのかもしれない。
家臣団は三川軍の恐ろしさを直に知っている。
そして数の上でも圧倒的に相手が優位にあることを知っている。
だからこそ、今まで属国という立場に甘んじて、必死になって我慢してきたわけであり、そうして国を守ってきたという自負もある。
「現実を知らぬただの馬鹿者(俺のことだ)が、何を夢を見ているのだ。」という反応が少なからずあったという。
そして中には、「今からでも遅くない謝罪をすべきだ。」とか、「傍観を決め込むしかない。」という意見もあったそうだ。、
慎介は明らかに俺に遠慮して、かなりぼやかした言い方をしているが、はっきり言って、家臣団はかなり俺に反感を持っているというのが本当のところだろう。
確かに俺もやりすぎたとは思っている。
ただ、家臣団の意見を聞いて、「何を考えているのだ。」と思ったのは確かだ。
「謝罪する。謝る」一体誰に謝るというのだ、勝一か?北の方か?
あの気位の高い北の方が謝罪を受け入れるわけもないし、もし克二が領主になったらどうする?再度謝るのか?そんな謝罪を誰が受け入れる。
「傍観」、馬鹿か、そんなことをしたら内戦が終わった三川の次の標的は信夫地方ではなくて、間違いなく水穂になる。
それこそ、国が亡ぶ。
俺は慎介の報告を聞いて頭がいたくなった。
同時に、これは父親に会って、自分のしでかしたことをきちんと話し、対峙するしかないと覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます