第40話 葬儀
葛川隆明の葬儀が厳かにとり行われていた。
響き渡る読経、焼香をする家臣団。
しかし、本来この場にいるはずの、3人の後継者や家老たちの姿が見えない。
別室で誰を次の後継者にするかの話し合いが長引いていたせいだ。
本来、こうした話し合いは葬儀の後に行われるべきであるが、正室である北の方の意向で早いほうが良いということになり、葬儀と並行し行われていた。
北の方としては、葬儀が終了次第、後継者として、自分の子であり、長男でもある勝一を正式な後継者として発表する手はずであった。
本来、誰の反対もなく、形だけの話し合いで終わるはずと思っていたので、葬儀の合い間の短時間を使ってという話になっていたのだ。
ところが、思いがけない反対が起こり、いつまでたっても打ち合わせが終わらない。
何と、次席家老である青柳新右衛門がいきなり勝一の後継に異議を唱え、克二を後継者にすることを提唱したのだ。
これには皆が驚いた。
当然であろう。今まで筆頭家老の秋山風見と2人して勝一を盛り立ててきた新右衛門がこの大事な場面でいきなり手のひらを返した形だ。
北の方と勝一の顔に動揺が走る。
そして当然のように怒り狂う秋山風見。
反対に西の方には安堵の色が見える。
それと対照的なのが、何が起ころうとしているか全くわかっていない東の方だ。
明らかに動揺している。
隣にいる克二が東の方の手を握り、落ち着かせようとしているが、克二自身もかなり緊張しているのが見てとれる。
ところが、その時更に皆を驚かすことが起こった。
あの優柔不断な麻生辰則がいきなり発言を始めたかと思うと、新右衛門に同調し克二を後継者にと言い始めたのだ。
会場以内にどよめきが起こった。
これを受けて一番うろたえたのは、北の方である。
一体何が起こっているのか、全く理解できなかった。
「これまで勝一にあれだけ尽くしてくれた新右衛門がいきなり裏切った上に、あの優柔不断な辰則までが克二を推している。」「夢じゃ、これは悪い夢じゃ。」としか思えなかった。
同時に、昨夜、西の方が一人で夜に新右衛門のところを訪れたという情報が頭をかすめる。
北の方にしてみれば、そんなものは西の方の最後に悪あがきにしか思えなかった。
もちろん、北の方も西の方と新右衛門が以前恋仲であったことは知っている。
2人の関係をほのめかすような噂も聞いたことがある。
しかし、以前のことだし、もう終わったことだと思っていた。
それ以前に、新右衛門のことを信頼していたし、先の見える男だから馬鹿なことをしでかしはしまいと安心しきっていた。
それが今こうして新右衛門が明確に勝一に反旗を翻したことを見て、自分の甘さを恨んだ。
そして西の方と新右衛門の関係は確信に変わった。
焦る北の方。
本来であれば、もう葬儀に戻っていなければならない時間だ。
他国からも訪問客が来ている以上、主だったものがいつまでも不在では、彼らの中には、あらぬ疑念を抱く者が出てくるかもしれぬ。
これ以上、話をしていても埒が明かないと判断した北の方の鶴の一声で、ひとまず解散となり、皆が葬儀に戻ることになった。
秋山風見は青柳新右衛門をにらみながら、「後で話がある。」と言っている。
そのまま麻生辰則もにらみつけると、辰則は逃げるようにして葬儀会場に戻って行った。
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