第21話 切実に伝えたいこと

 伝えたいことの熱量が大きいほど、感情に強く訴えかける。熱が言葉を駆動する。その熱の源は自分から生み出された感情だろう。

 私は自分の中の正直な感情がよくわからない。誤魔化し、嘘つき、欺くうちに自分の中の正直さだと思うものが、本当に正直なのかがわからなくなった。誰もがそういうものなのかもしれないけれど、繊細な感情が自分に存在するとも思えない。

 自分の一日を観察すれば見えるだろうか。観察し直すことで何を本当は感じていたかとらえ直すことはできるだろうか。


 回想


 日曜日なので九時ごろ目を覚ました。プリンセスコネクトというソシャゲに二日前からはまっていたため、ガチャを回すためにジュエルを延々と集める。ガチャを回しSSRが来たと思ったら、前にきたものでがっかり。大事なアイテムをどうでもいいキャラに使ってしまいいきなりどうでもよくなった。レベル38。なんでこんなことやってるんだよ! 脳が沸騰するけど時間が奪われるだけでストーリーも飛ばしてるし、システムの奴隷だ! つい先日シャイニーカラーズでやっていたことと同じことをしていた。

 勢いでアプリを消す。少し後悔するもすっきり。

 その後バナナを食べ、サプリを飲み散歩に出かけた。

 図書館に返す本を持っていく際に図書カードだけをポケットに入れたはずなのだが、無くて探す。家の中を探し回るも結局左ポケットにある。自分はこういうことがよくある。焦って探して結局そばにある。

 徒歩で3分の図書館はお休みだった。そのまま足羽山に散歩に行く。山に続く図書館沿いの緑道に備えられた筋トレ設備で懸垂をする。今日は5回しか上がらない。調子がいい時は10回はあがる。

 歩いていると何かにカメラを向けている中年の夫婦を発見する。なにも植えられていない緑の花壇のように見えるところをよく見ると大量のキノコが生えている。後で撮ろうと思い通り過ぎる。

 山の入り口付近にはどんぐりがたくさん落ちている。子連れのお父さんが子供と一緒に拾っていた。

 つづら折りになった道を登っていく。途中緑色に光るコガネムシを道の脇に発見した。全く動かないので死んでいるのかと思って突っつくと動き出した。よじよじ動くのが可愛いのでiPhoneで動画を撮る。

 散歩に飽きたので帰宅。帰り道にキノコをドアップで撮影した。

 

 ここまで書いてきたがあまり感情の動きがない。日常の中の部分を切り取ったところを書くべきなんだろうか。


 昼ごろ実家に帰りばあちゃんに梨をご馳走になる。大きく切られまくっているので食べづらい。うちの父ちゃんの姉の息子が結婚した時の記念の写真を俺に見せて相関図やどういう人間だったのかを何度も説明する。綺麗な黒い表紙のついた高級そうな写真入れにばあちゃんの手についた梨汁がぶっかけられていく。これはいかんのではないかと思い、濡れた部分を軽くふいておいた。


 夕方再度緑道を散歩する。図書館脇の東屋で座っている中学生の男女が抱き合っているのを目撃した。ふたりの世界ですか、へー。なんとなく見とがめるけど、少しみたい。

 山から真っ赤に染まった空を見た。 


 岩崎航のエッセイ集 日付の大きいカレンダーを読む。

 切実な言葉とはこういうものを言うのだろう。


 日付の大きい

 カレンダーにする

 一日、一日が

 よく見えるように

 大切にできるように


 部屋の白い壁一面に巨大なカレンダーを貼るところを想像した。一日一日の日付が顔くらいにでかいのだ。そうすればその一日はとても大切なものに思えるだろうなと思った。

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