第14話 詩と小説
詩的な文章とはどんなものだろう。
時間と他者。振り返る前に今を見ろ。関係の無い関係なんて無い。振り乱す神の勢いが世界をもたらす。アレゴリーに導かれるようにして君の真実の墓前に立つ。詩を理論化できたとしたらそこにアイデアはいらない。情熱はいらない。感情はいらない。ロボットでいい。選ぶのは君だ。
失われてしまった写真データと動画データ。ばらばらに消え去ったデータ。必死にそのときの記憶を思いだそうとする。
小川のせせらぎ。鉄棒で逆上がりをしようとしたこと。回し蹴り。アイスクリーム。紫のドレスみたいな服装。写真が無くなったら忘れてしまう。忘れることが怖い。現時点で残っている記憶を総動員して頭に焼き付けようとしている。君の声の響き、動き。スカートのひらめき、ふんわりとした髪。美味しそうに振る舞い鍋を食べている。頭の中で保管してそこからあそこにどう移動して何を食べてどんな話題で笑い、喧嘩をして、仲直りしたのか。
そこにあるだけで見返すことなどほとんどなかったのに。失われた瞬間に大切なものだったと気づくことがある。菖蒲の咲く寺を歩き、蛇の抜け殻と蛇を見た。動かずにずっとこっちを見ていた。トンボがたくさん飛んでいた気がする。
蓮の花の咲いた公園。ピンクの花弁に蛙が座っていた。
冷たい空気の中で雪の中を歩いた。雪だるまを作って、雪の上に倒れた。桜の花びらの舞い散る中で、車が桜に埋もれるのを見ていた。
ブラウンのトレンチコート。あのときの記憶はあの瞬間しかない。
坂道を斜めに写真をとった。
食べた食べ物のこと。夕陽と海。出店の近くでウクレレで演奏を続けるおじさん。
大事なものが抜けて落ちていくような感覚。
絶対に忘れない。どこまでも鮮明にそこにある。
写真や動画よりも鮮明に、言葉がすべてを思いださせてくれる。
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