おまえらが”あああああ”と名付けた勇者がリアルにいたらこうなる
@bukky
第1話 勇者あああああの目覚め
「起きなさい、起きなさい勇者あああああ」
俺はそんな声と共に起こされた。
あああああ?なんだあああああって?ただの文字の羅列じゃないか。
いや・・・ええと、そうだ俺の名前は”あああああ”だ。
何の意味が込められているのか知らないがこれはれっきとした俺の名前だ。自分の名前を忘れるなんてどうかしている。寝ぼけているのかもしれない。
今日は勇者に選ばれた俺が王様に旅立ちの報告をする大事な日なのに。しっかりしないと。俺は愛用の抱き枕を脇にどかし、のそのそとベットから這い出した。
そして俺はぼやけた頭に気合を入れるべく頬を両手でぴしゃりと叩いた。それを見ていた俺の母親が、あらあらと笑った。
この世界が魔王の侵攻を受けて十数年の月日が流れた。世界は魔物たちが蔓延る魔窟と化しており、人々は各地の村や町で固まって生きている。
そんな世界の片隅、アリヤンパン王国で俺は生まれ育った。俺の父は、魔王を追い詰めた伝説の勇者オルペガとしてこの世界に名が轟いている。もっとも、父は現在火山の火口に落下し消息不明だ。俺はそんな父の遺志をつぐべく、勇者として旅立つ日を心待ちにしていたのだ。
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「ハンカチはもった?温かくして風邪とかひいちゃだめよ?王様に粗相のないようにね。」
王宮の前まで見送りに来てくれていた母親が俺にそんなことを言ってきた。これから世界を救おうという勇者に何言ってるんだよ。恥ずかしいじゃないか。
「お前の父さんそっくりに育ってくれてお母さんはうれしいよ、あああああ。」
父さん・・・。父さんのことを思い浮かべ、ふと湧いた疑問を口にした。
「そういえば、俺の名前は父さんが付けてくれたの?それとも母さん?」
しかし、その言葉を聞いた母さんの顔はとたんに曇った。
「いや・・・。怒らないでほしいんだけどね、あああああ。お母さんその時のこと覚えていないの・・・。というより昔の記憶がほとんどないの。」
旅立ちの日にとんでもないことをカミングアウトする母親。冗談ならやめてほしい。
「ええっ。昔の記憶っていつぐらいから無くなってるの?」
「それが・・・今日の朝に、お前を起こした時より前の記憶が曖昧で・・・。何というか、大まかな事実は覚えているんだけど、その場面を思い起こそうとしてもできない、みたいな・・・。」
「なーんだ。母さんそれ、寝ぼけてるだけだよ」
まったく母さんはおっちょこちょいなんだから。俺はちゃんと覚えているよ。昨日の晩御飯は・・・なんだっけ?まあいっか。
「じゃあ行ってくるよ母さん。」
「行ってらっしゃい」
俺は目の前の王宮を見上げた。
ごつごつとした石造りの外壁と見張りの塔がそびえている。
俺は身が引き締まるのを感じた。
そして俺は歩き出す。
これが勇者の第一歩だ。
ここから俺の勇者人生が始まるんだ。
「ちょっと!王宮はこっちじゃないでしょ」
母さんに止められた。
「なんで、入り口の前にいるのに反対に行こうとするの!」
「ごめん・・・」
と言いつつ、俺は母さんの横を再びすり抜けようとする。
「何度やっても通しません!」
「いや、何か王宮に行かずに旅立ったらどうなるのかなっていう好奇心が抑えきれなくて」
「よくぞ参った。オルぺガの息子、勇者あああああよ。」
王宮前ではなんやかんやあったが、俺は無事に王に謁見することができた。
謁見の間は、高そうな赤色のカーペットが敷かれていた。
部屋のやや奥まったところに王の玉座と
「旅立つそなたに、心ばかりの品を用意した。受け取るがよい。」
そう言うと、横に控えていた大臣が包みを渡してきた。空けてみると、100Gとヒノキの棒だった。
いや、おかしいだろ。ヒノキの棒で世界救えると思ってんの。そんなのに倒される魔王がいると思ってんの。よしんば倒せたとして、そんな魔王に好き勝手されてた世界はなんなの。
それに100Gて。薬草10個買ったら終わりだよ。子供の小遣いじゃないんだよ。俺のお年玉の方がちょっと多かったよ。ちなみにお年玉は全部お菓子に消えたよ。
「ありがとうございます。王様。」
「うむ。旅の記録をつける時は、ワシや他の王様に話しかけるとよい。勇者の生き様は残さねばならんからな。」
「分かりました。」
「よしよし。ワシから伝えるべきことは以上じゃが、最後にお主に聞いておかねばならんことがある。言いにくいことなんじゃが・・・」
王様は神妙な声でそう言った。
なんだろう。父親に関する何かだろうか。
あたりに一瞬の緊張が走る。
そして、王様は重い口を開いた。
「何故お主は、ワシの背後から話しかけてきたのか、そしてずっとワシの後ろで話をきいておったのじゃ?おかげでワシは、誰もおらん虚空に向かって話をする羽目になったのじゃが・・・。」
よく考えたら、俺は王様の後ろにいる!
「ごまんなさい」
焦って、少しどもってしまった。
「よいのじゃ。よいのじゃ」
王様の笑い声が聞こえた。
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