海、猿?
わたしは海なし県に生まれ育った。
だから、Tが海上自衛隊に入ると聞いてもいまいちピンとこなかった。
自衛隊員と言ってもTの雇用形態は契約社員のようなもので3年ごとの契約によるものだった。
3年で契約更新をせずに辞める人もいれば3年ごとに契約更新を続ける人もいるし、試験を受けて常勤になる人もいるらしい。
海にでればけっこうな手当てがつくので、お金を貯めるために元から3年だけ勤務しようと決めて入る人もいるらしい。
わたしの自衛隊員のイメージは素朴で短髪できびきびしていて、マッチョ、もしくは細マッチョ。真面目で暑苦しくて、ちょっと融通が利かない。
そんなイメージを抱いていた。
考えてみればTは田舎出身だから素朴かもしれないし、教育隊の時に坊主にさせられたから短髪で、スポーツやっていたから細マッチョと言えなくもない。
でも、決定的に真面目じゃなくてゆる~い。A型だから融通は利かないかもしれないけど。
何が言いたいかというと、自衛隊員のイメージってわたしが思っていてものと違ったってことだ。
(ただし、あくまでもTの周りにいた人たちなので彼らは例外的で、実際はほとんどが真面目な方だと思います!)
年頃の青年たちがいつも一緒にいるものだから、勤務が終わると酒と女ばっかりの生活。
海の上の生活でストレスと性欲がたまって、陸にあがるとすぐに風俗に行くし、正体がなくなるほどお酒を飲むし。
まぁ、仕方ないとは思うんですけどね。Tのバカなところはその話をわたしにすることですよね……。
でもわたしも外人さんはどうだったのか聞きましたけど(笑)
わたしと一緒にいるとき、Tに仲のいい同僚から「ナンパした女の子がいるから今からこれないか」と電話がかかってきたことがありました。
Tはちょっと迷ってから断ったのですが(迷うなよ!)、翌日「お前が来ないから3人でしたよ」と言われたそうです。その人、奥さんも赤ちゃんもいる単身赴任の人だったんですけどね……。しかも教育関係の職業に就くためにお金貯めてる人でした。
国防って……。
おりしも世間は海猿ブームで。
海猿は海上保安庁を舞台にしてるので、海上自衛隊とは違うのですが「彼氏が海上自衛隊員」と話すと必ず「海猿?」って言われましたね。
だからちょっとモテてたのかもしれない。
そんなバカ猿なTだけどよく会いに来てくれた。
往復3万円以上かかるのに月に2、3度は来てくれていたと思う。
海外の遠洋航海に行っている時も暇さえあれば国際電話をくれて、「テレフォンカードがすごい勢いでなくなるんだよ(笑)」って言ってた。
そばにいれば罵られてばかりだったけど、遠距離になってからは会うたびに……やっぱり罵られてたけど、それでも愛されてるんだなぁって実感できた。
「もぉ~! お金大変だから、こんなに頻繁に電話くれなくてもいいのにぃ~」
そういいながら、わたしは幸せだった。
遠距離恋愛になるときは不安だったけど、実際にはTと付き合った長い年月の中で一番幸せな時だったのかもしれない。
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