未遂と本懐

性的表現が入ります。

不快に思われるかたは自己防衛お願いします。






わたしはとにかく焦っていた。

24歳で処女ってまわりに誰もいない。

少々病んでいたわたしはいっそこと誰かレ○プしてくれないかな、なんて基地外じみたことも考えたくらいだ。

少々じゃなくて、かなり病んでたな。

それくらい、せっぱつまっていたし、自分が誰かを性的に興奮させることなんてできないと思っていた。


でも、そんなのは杞憂だった。

目の前のイケメンは明らかに鼻息荒く、いつも以上にキラキラした目でわたしを見つめていた。

「……おっぱい見たい」

わたしは慌てた。


わたしは胸にコンプレックスがある。

肥満体なんだから大きいのはなんの自慢にもならないけれど、幼いころからうつぶせで寝るのが習慣づいていたために正面から見るとぺちゃんこで、逆三角形のように下に垂れ下がっているのだ。


「見てもいいけど、でも、たれてるし、可愛くないよ?」

わたしが動揺するのを見て、Tは笑った。

その笑顔がなんだかわたしを愛しいと思ってくれているように感じたので、わたしはちょっとほだされて自分でシャツをまくり上げたのだった。


見たいと言ったくせに見たのは一瞬で、すぐに触ったり口に含まれた。

もちろん、Tはそのまま先へ進みたかったのだろうけど、わたしは終わりかけだったけど生理中だったし、さすがに心の準備もできていなかったので最後まではできないと断った。

代わりに口ですることを頼まれた。


物心ついたか、ついていないかの時の父の裸くらいしか知らないわたしは男性自身というものをほとんど初めて見た。

当時、Tは女慣れしていなかったのか「あんまり見ないで」とわたしに言った。

わたしはとにかく興味津々だったのでマジマジと見たり、触ったりしてみた。

結果、Tはわたしの顔に布を押し付けた。

Tは車の後部座席に置いてあったタオルのつもりだったようだけど、それはTが脱いだばかりのトランクスだった。

わたしは笑い転げた。今なら変態仮面か!ってツッコミ入れられるけどね。


その日は口で挑戦したけど「痛い」って言われるだけでわたしは役立たずだった。

なにしろ初めてその構造を知ったわけで、歯が当たって痛いとか言われてもよくわからなかった。


それでもTは優しくて、帰る途中の車中で初めて手をつないだ。

他のカップルがどういう順序で進むのかは知らない。

でもわたしたちはわたしたちなりの順序で恋を始めた。

間違いじゃない。だって、彼を咥えたときよりも彼の指とわたしの指を絡めた瞬間のほうがずっと彼と近づいてるって思えたから。



翌日もわたしは仕事が休みで、都内に住んでいる友人と舞浜駅と直結している商業施設で遊んでいた。

わたしが彼と付き合うことになったと報告したら、友人はすごく喜んでくれて、わたしはその子に彼氏が出来たときに素直に喜べなかったことを心の中で詫びた。

Tが大学の講義を終えて、お昼を過ぎたあたりに「早く会いたい」ってメールをよこした。

わたしがあんまり上の空だったからか友人は「そっちにいってあげな」って送り出してくれた。

都内から舞浜はそんなに遠くはないけれど、わざわざ来てくれたのに笑顔で送り出せるあの子はすごく優しい人だ。


今になっても幸せな家庭を築いている彼女に嫉妬ばかりしている自分が本当に情けない。

こんなだからわたしはいまだに独身で彼女は母になっているのかもしれない。



その日、わたしとTは前の日と同じ河原の草むらに車を駐車して、前の日とほぼ同じ手順でくっつきあって、そして本懐を遂げた。

痛くなかったわけではないけれど、特別騒ぐほどではなかったし、もっと感動するかと思ったのにあっさりと終わった。

Tもマンガやドラマのように「可愛かったよ……」とか「よかったよ……」なんて言わずに「あーあちぃ。エアコン入れよ!」とか言ってすぐに運転席に戻ってエンジンをかけたような気がする。


もうちょっとロマンチック要素がほしかったけど、とにかくわたしは妖精にはならなくてすむことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る