きのうみた夢のお話
くまみ(冬眠中)
第1夜 まよいみち
夢をみた。
そこには家族と親戚があつまってわいわいと騒いでいた。私はピアノのレッスンに行かなければならないのに誰も車を出してくれないようだった。家族も親戚も苦手だった私は徒歩でも出かけられるだろうと思って出かけ、そして迷った。
旧くて大きな要塞のような形をした駅ビルの壁には「聖○○駅」と書かれてあった。○のところはみたことのない漢字だったけれど私は「せい ひつがや えき」と読んだ。すこし歩くと水族館があり、その向こうは遠い山道で、神社の横の道の駅では誰か知らないアイドルがイベントを開催しているようだった。
困ってとぼとぼ住宅地を歩く。外は薄暗く、ひとつひとつの民家には明かりがともっていたのに、その家の中にどこかの家族が住んでいるとはどうしても信じられない。道を飛び跳ねながら歩いているワンピースの少女は頭から大きな段ボール箱を被っていたけれど、これは私の妹のようだな、と何故か思った。
どこまで歩いてもピアノ教室にはたどり着けないようだった。私はやむをえず、もといた家に電話をかけた。電話に出たのは父親だった。私は簡潔に「ピアノ教室に行こうとして道に迷いました。」と伝えた。「母親に、車を出してほしいです」と。「母親はさっき妹とでかけた」と父親は言った。「メールで伝えておく」と言い、そのあとは無言でただパソコンのキーボードをたたく音ばかりが続いた。
あまり早いタイピングではないな、と思いながら、私はすっかり暗くなった不思議な事務室のような空間で、受話器越しに打鍵音を聴きながら座り込む。まだ、迷い道の途中。
(おしまい)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます